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小栗忠順については以前より興味があったものの、詳細を知らずして、先に読んだ別の本における“ちょっとした紹介”や“ちょっとした登場シーン”で完全にイメージを作り上げていた。彼に対する先入観は単語で言うとこうだ。幕臣、反攘夷、賢い、時代の先を行く国際感覚の保有者・・等等。イメージは大きく崩れない。興味深いのは勝との対比。慶喜(徳川)への忠誠心と、自らの信義との葛藤。そして決断。更には薩長との衝突。飛行機に乗りながら読みきった一冊。
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三井財閥中興の祖・三野村利左衛門の物語で利左衛門の恩人として描かれていたのを読んだときから、是非この人の話を読みたいと思っていた。横須賀製鉄所の設立に尽力したことで有名な徳川幕府の幕臣である。幕末は攘夷か開国かで世論が日ごとに左右し、誰もがただ時勢に呑まれてしまった時代。冷静に日本が何をすべきかを見極めることができたその英知と、何度罷免されようとも自分が信じる道を曲げずに貫き通した強さ、そして真なる日本への献身の姿に、尊敬の念を禁じ得ない。官僚とはかくあるべきと、手本のような人生だった。
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小栗上野介って、勝海舟とセットなイメージ。例えるならコイン。表が小栗だったら裏は勝。
そんな小栗さんですが、
もうちょっとこうしたら?そこはそんな言い方や態度じゃなくてさー、とか突っ込みたくなる。佐久間象三や石田三成みたいだ。
最期は冤罪で斬首されたけれど、その立ち振る舞いに感動。最期まで武士だったと思います。
ちょっとずれちゃうけれど
「横須賀造船場があったからこそ、バルチック艦隊に日本が勝つことが出来た」と言い切り、小栗の娘さんに頭を下げて謝罪した東郷平八郎・・・やっぱり凄い。
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幕末、幕府側の有名人といえば徳川慶喜と勝麟太郎ですが、小栗上野介という人物がいたことを、以前読んだことがあります。日米修好条約締結の目付けとして幕府代表の一人として渡米したり、日本で最初に世界一周をしたり、横須賀に造船所を建設したりと、日本の近代化に大いに貢献したにも関わらず、殆ど歴史上には登場しません。そんな小栗の半生、渡米し、世界一周して帰ってきてからの生涯を描いたのがこの本でした。
帰国した小栗はその後、外国奉行や勘定奉行などの要職をこなし、幕府側の要人として活躍します。中でも力を入れたのが横須賀造船所の建設。
咸臨丸を始め、当時日本が所有していた大型船は全て外国からの購入品で、既に何年も使用した後の中古船。それを莫大な費用で買わされていて、しかも故障が多く、修理のためには上海まで運ばなければならない状況であったと。
渡米してアメリカの造船所を見学した小栗は、その技術力とスケールの大きさに驚嘆し、いつまでも外国から舟を買っていたのでは、いつまでたっても外国に追いつけないと実感する。
しかし時は幕末。攘夷の嵐が吹き荒れ、長州による攘夷決行や、薩英戦争、長州征伐や薩長連合といった、今まさに「花燃ゆ」で繰り広げられている動乱の最中、小栗は幕政を支えながら、造船所建設のために奔走します。
そしてフランスの技術導入により、横須賀に建設することを決定。製鉄を始め、鋳造や鍛造所を設け、技術者養成のための学校や、フランス語修練のために語学学校まで設立します。
しかしその造船所建設途中に大政奉還が行われ、幕府軍と薩摩を中心とする新政府軍とが対立。将軍慶喜は造船所の爆破を命じますが、小栗は「これは幕府のための造船所ではない」として爆破の先延ばしを独断で決行。
やがて江戸城の無血開城がなされ、横須賀造船所はそのまま新政府のもとに。
幕政から身を引いた小栗は、上州権田村(群馬県高崎市付近)に隠棲し、そこで余生を送る予定であった。しかし小栗が勘定奉行であったことから、莫大な徳川家の財宝を隠し持っていて(これが徳川埋蔵金伝説)、それで徳川家を再興させる、との噂が流れ、薩摩軍によって捕らえられ、何の取調べもなく打ち首により命を落とします。
こうして小栗は、新政府によって謀反人として歴史から消されたようですが、小栗が残した横須賀造船所はその後、日本海軍の軍艦を多数造船。日露戦争でバルチック艦隊を破った東郷平八郎は、小栗の子息を呼び、「日本が勝てたのは、横須賀造船所があったおかげ」と深く謝意を伝えている。
その後ようやく小栗の功績は見直され、権田村では昭和7年に追悼碑が建てられますが、そこには「罪なくして斬らる」との碑文が刻まれております。また、横須賀造船所は現在米海軍横須賀基地の一角となり、慶応元年(1865年)に導入したスチームハンマーは平成5年まで稼働していたとのこと。毎年造船所記念祭が開催され、今は造船所の建設を指揮した技術者ベルニーの名も加えて、「ベルニー小栗祭」として市民に親しまれているそうです。
歴史は勝利者によって作られると言われていて、今の明治維新の偉人達は、勝利者側からの人物ということになりましょう。しかしその裏では、敗者側にも国を想って戦った人達もいるのであります。歴史というのは本当に深いものでありますなあ。
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以前から小栗上野介忠順(ただまさ)の名前と主な業績(横須賀製鉄所を企画した、など)は知っていたが、詳しく読んだのはこれが初めて。徳川家を守りつつ、開国によって新たな国創りをしようとした小栗の気概を感じた。遠い将来を見据えた上での信念を持ち、その実現手段を変える柔軟性も持ち合わせている人物に感じ、それが存分に伝わる小説であった。