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新しい家族のための経済学 変わりゆく企業社会のなかの女性 みんなのレビュー
- 大沢 真知子 (著)
- 税込価格:836円(7pt)
- 出版社:中央公論社
- 発行年月:1998.9
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新書
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紙の本
疑問符残る女子学生への応援歌
2001/05/16 16:58
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投稿者:ミゾ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の専門は労働経済学である。本書で課題となっているのは、新しい経済学の提起ではなく、変わりゆく家族に対して経済学の側から分析のメスを入れることである。具体的に本書が取り扱うのは労働市場、雇用システム、社会保障制度などの変化であり、それらを通じて夫婦関係や育児のあり方がどのように変化していくのかという問題である。本書を要約してみよう。
市場は経済が変化したという情報を価格=シグナルで各経済主体に伝達する。経済そのものが女性労働者を必要とするようになったという情報は女性の賃金上昇をシグナルとして各経済主体に伝達される。日本の経済社会は、産業構造の変化(就業者のなかの女性就業者の割合は、第2次産業で2〜5割、第3次産業で5〜6割)や、労働需要の質的変化(知的労働者の需要増大、女性の高学歴化)を経験しており、経済が女性労働者を必要とするものに変化していると著者は判断している。この変化は女性の市場賃金上昇として現れ、それが既婚女性を労働市場に引き出す。この傾向はとりわけ1985年以降明らかになる。経済社会の客観的変化によって日本でも他の先進国と同様に既婚女性の就業増大は避けがたい趨勢だというのが著者の基本的見解である。
では、働く女性の増加は女性の生活様式をどう変えるのか。アメリカの経験では、女性が雇用者としてより深く労働市場に関わるにつれ、ライフサイクルの選択も、結婚や育児か、仕事かという二者択一から結婚も子どもも仕事もという両立型の選択へと変化してきた。これに伴い、女性の年齢別就業パターンも、M字型から台形へと大きく変化した。
こうしたアメリカの状況と比較すると、働く女性が増えているとはいえ日本の状況はやはり異なる。調査では、理想では「結婚し子供をもちながら働く」ことを希望し、現実では「結婚あるいは出産退職後、再び働く」ことを予想する女性が最も多い。このギャップの原因を追及すると、日本の労働市場の構造的問題に行き着く。他の先進国と比べて日本の労働市場の特殊性は、女性の労働市場ではなく、男性の労働市場の側にある。その指標の1つが男性労働者の勤続年数の際立った長さである。
日本では、長期雇用を前提に転職を抑制するような雇用慣行が形成されてきた。若い時点で会社が内部的に教育訓練投資をし、長期的な熟練形成と生産性上昇により賃金は年功によって上昇する。こうした長期的に帳尻があう制度では、短期勤続の可能性の高い労働者(女性労働者)は熟練形成の枠から外される。こうして同じ組織のなかで性による分業体制が生まれる。家庭ではそれと表裏の関係で性別役割分業が固定化される。
ところで、日本的な長期にわたる雇用慣行は、そもそも成長が持続でき、下広がりの形で中高年と若年の比率を確保できるという条件下で経済合理性をもつ。そのため利潤よりも成長が追求され、銀行借り入れでの資金調達が選択される。こうして日本的雇用慣行と間接金融とが有機的に結合する日本的経済モデルが形成される。
しかし金融市場の自由化進展などによって企業は行動様式の変化を迫られ、長期的雇用慣行も影響を被る。そこでは市場を調整役とし、家や世帯ではなく、個人を単位にした雇用形態が増加する。夫婦間の固定された分業は弛緩し、女性の社会進出が進展し、夫婦共働きが普及するだろう。以上が本書全体の要約である。
感想を述べよう。女性の社会進出にとって強力な阻害要因としてあった日本的経済モデルは構造改革を迫られ、労働と市場との関係が緊密化する方向のなかで、女性にとっては社会進出を果たすチャンスが到来したというのが著者の本書での主要メッセージである。しかし市場メカニズムの全面化によって果たして著者の考える理想的な女性の社会進出が実現するのか、著者のメッセージはいささか楽観的にすぎないかという疑問が残る。
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