紙の本
マネジメント思想の座右の銘
2003/05/18 13:40
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投稿者:オウイン - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は従来のマネジメント理論を超越するマネジメント思想である。従来の理論を古典と呼びたくなるほどの変革が秘められている。
分野は全く異なるが、物理学はニュートン力学を根源とする古典力学とハイゼンベルグの不確定性原理を根源とする量子力学に大別される。量子力学では、客観的観測、完全な予測、完全な分析の不可能性が証明されている。つまり、総体を細部分析することで真実が崩され、未来は予測できないということである。
田坂氏は工学系出身であるので、このようなことも念頭において独自のマネジメント思想を組み立てているのではないだろうか。つまり、マネジメントにおいても分析的手法よりも総体の受容を、未来を予測するよりも創造することを説いているのである。
1999年に購入して以来、座右の銘として何度となく読み返しているが、何度読み返しても新鮮で示唆に富む。マネジメントを真剣に考え、悩み抜いてる方にお勧めの一冊である。
紙の本
日ごろのもやもやを解決してくれる一冊
2000/12/28 17:13
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投稿者:shigeshige - この投稿者のレビュー一覧を見る
日ごろビジネスを推進していく中で言葉にはできないがどこか納得がいかないとかしっくりこないという経験を誰でもお持ちではないだろうか。そのような時にはえてして重大な事柄を見落としていたりするものである。この本の著者田坂氏はそうした不可解な出来事や疑問を判り易い言葉で解説してくれる。特に多くの中間管理職の存在意義が問われる中、こうあるべきと喝破する同氏の主張にはおおいに納得させられる。タイトル通り壁を超えられず悩まれているビジネスマンにお奨めの一冊。
紙の本
暗黙知を言語知で語る
2000/08/17 12:16
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投稿者:松山真之助 - この投稿者のレビュー一覧を見る
■ <ワン・チョット>
「我々は、言葉にて語りうる事を語り尽くしたとき、言葉にて語り得ない知ることがあるだろう。」 ヴィトケンシュタイン
■ <引き続き>
本に書けるような事はいわゆる『言語知』、つまり言葉という媒体を使って伝えうることができる智恵。一方、言葉に言い表せない大切なもの、人間の活動の深い層を流れるきわめて高度な精神活動、そしてその根源といったものがいわゆる『暗黙知』といえよう。
直感、洞察、大局観などという言葉に代表される『暗黙知』が、マネジメントの世界でどのように発揮されるか、どういう場面で大切かなどについて、著名な棋士のエピソードや、野球の名勝負場面など興味深い事例をひも解きながら解説する。
マネジメント論は、いかに部下の気持ちをとらえるか、集団をリードする手法は何かなど実務的というか、プラクティカルというか、そういう内容のものが多いがこの本は、むしろそのレベルを越えた、精神の深い位相での話しとして展開している点がいい。
そもそもこの世界は“複雑系”そのものであるから、企業の活動も当然、複雑系をなしている。単純な理論では理解できない複雑な生命である企業において、言葉ではいい尽くせない事象や判断の瞬間などを“暗黙知”という切り口で見せてくれる。禅の世界に代表される東洋的な思想にも言及しながら案内される暗黙知の世界は、不思議な精神の高揚を感じさせる。
暗黙知を言語知で語る・・ちょっと矛盾も感じるが、その矛盾をこえたところに本物の暗黙知の世界がある。
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マネジメントを行う上で常に心に留めておくべき心得の数々。大半の内容はすでに読んだ講義形式の「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」と同じだが、新たな気付きがいくつもあった。今後も何度も読み返したい一冊。マネジメントに携わる全ての人にオススメ。
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【読書メモ】
●キーワード
・「言語知」と「暗黙知」
・「複雑系」「複雑性」
・「直観力」と「洞察力」
・「論理思考」から「大局観」へ
・「無我夢中」「無心」
・「直線構造」と「循環構造」
・「全体観察」
・「割り切り」と「矛盾との対峙」
・「創発性(emergence)」
・「自己組織性(self organaization)」
・「未来予測」と「未来創造」の融合
・「信念」
・「非線形性」「摂動敏感性」
・「こころの生態系」
・「完璧主義」と「瑣末主義」
・「細やか」と「細かい」
・成功の「原因」と「結果」の混同
・様々な能力の「バランス」
・「バランス」と「全体性」の獲得
・「対機説法」
・「知行合一」
・「知識」と「智恵」
・「経験」と「体験」
・「集中力」という基礎体力
・「人間通」
・「情報共有」から「情報共鳴」へ
・「操作主義」という過ち
・「聞く」と「聞き届ける」
・「正対」
・「一途」「一徹」
・「カオスの縁」
・「社員の自発性」と「企業の統一性」の両立
・「言霊」
・「教える」「育てる」から「育つ」へ
・「成長の方法」「こころの姿勢」を伝える
・「成長の目標」を持たせる
・「成長の場」を創る
・「セラピー」としてのマネジメント
・「エゴ」の存在を静かに見つめる
・暗黙知を伝える方法。「否定法」「隠喩法」「指示法」
・「MBWA(Management By Wandering Around)」「MBEC(Management By Electronic Community)」
・「テクニック」から「アート」へ
●これからの時代には一つの部門や部署だけで実施できるプロジェクトは少なくなり、異なった部門や部署が横断的に協働して実施するプロジェクトが増えていく。こうした時代において、現場は単独で「意思決定」をすることができなければならない。
しかし、中央からの指示がなくとも、異なった現場が共同して意思決定を行い、円滑に協働作業を実施できるようにするためにするためには、社員一人ひとりの自発性と現場それぞれの自律性が高まらなければならず、そのためには、まず何よりも、全社員と全現場の間で十分な情報共有がなされていなければならないのである。
そして、このことが、企業情報化の目的が、情報システム導入や情報共有を通じて社員の自発性を高め、企業の自律性を高めていくことであると著者が主張する理由に他ならない。
●平衡状態においては、分子は隣の分子しか見ていないが、非平衡状態においては、分子はシステム全体の分子を見つめている。そのとき、共鳴(コヒーレンス)が生じ、システム全体が自己組織化を遂げる
●企業というシステムにおいても、ただ情報システムを導入し、全社で情報を共有しただけでは、自己組織化は生じない。そのためには、単なる「情報共有」だけでなく、「情報共鳴」をこそ起こさなければならないのである。
●企業の自律性、すなわち自己組織性を高めるには、マネジャーは企業内での「情報共有」を徹底的に進めるだけでなく「情報共鳴」が起こりやすい状況を生み出さなければならない。そして、そのためには、何よりも、企業内に社員同士の「共感の場」を形成しておかなければならないのである。
●「ウィークリー・メッセージ」:週に一回、職場のメンバー全員が、短いエッセイのようなメッセージを作成し、これを他のメンバー全員に対して同報通信する。
(ルール)
1)何を書いても良い。必ずしも業務のことを書く必要はない。
2)メッセージの内容を決してメンバー以外に決して転送しない。
3)メンバーに対する誹謗、中傷、冷笑を決してしない。
職場のメンバーの「相互理解」が深まる。この相互理解ということが「共感の場」を生み出すための絶対的条件。
●マネジャーと部下との間に共感が生まれるときというのは、いかなるときだろうか?それは、マネジャーの発想が「部下の共感を得る」という発想から「部下に共感をする」という発想に変わったときではないだろうか。
●いかなる計算もなく、いかなる駆け引きもない、一途さや、一徹さ。そうしたことが、マネジメントにおいて大切な価値とされる時代が回帰してくるのではないだろうか。
●企業とは高度な複雑系であると述べたが、複雑系の研究において「カオスの縁」ということが注目されている。それは、最も生命力溢れる現象は、完全な「秩序」(オーダー)でもなく、完全な「混沌」(カオス)でもない、その中間の「カオスの縁」とでも呼ぶべき精妙なバランスの領域に生じるからである。
●これからの知識集約型産業の時代においては、企業の統一性だけではなく、社員の自発性を高めるマネジメントが求められる。なぜならば、経営環境の急激な変化に対して迅速かつ柔軟に適応していくことが求められるからである。そのためには、これまでのトップダウン的な企業運営ではなく、社員一人ひとりの自発性を高め、企業が自律的に変化し、環境に適応していけるマネジメントこそが求められるのである。
だが、そのことは、これからの時代におけるビジョンには矛盾した二つの役割が同時に求められることを意味している。すなわち、それを聞くことによって、メンバー全員が目指すべき方向を共有することができると同時に、メンバーそれぞれが、自発的に、そして個性的に、その企業の将来像を描くことができるビジョンが求められるのである。
そのためには、語られるビジョンが、その企業の進むべき方向を示しながらも、メンバーの自由な発想を許すものであり、メンバーの想像力をかきたて、メンバーの自発性を引き出すものでなければならない。
●なぜ、現在の企業には様々なビジョンと称されるものが溢れているにもかかわらず、それらが魅力を持たないかを理解できる。それは、「言霊」が欠如しているからである。それらのビジョンを描き、���れらのビジョンを語る経営者やマネジャーに深い信念が欠如しているからである。
●もし、信念を持ってビジョンを語ることがなければ、メンバーは自らの想像力を、そのビジョンに重ねることはない。なぜならば、マネジャーの語る単なる「願望」に、メンバーは決してついていかないからである。そして、マネジャーのこころの深くにある「迷い」は、優れたメンバーほど敏感に感じ取ってしまうからである。
●マネジャーがビジョンを語るとき、最も大切なことは、「何」を語るかではない。「誰」が語るかである。
●いかなる場合にも、新しい世代のリーダーは、旧い世代のリーダーとの心理的葛藤を経ることによってしか生まれてこない。だが、それは決して「猿山の猿」のごときリーダー間の争いを意味しているわけではない。それは、心理学的な意味における「対決」を、それも痛苦な「対決」を経なければ生まれてこないということを意味しているのである。それは、あたかも子供が親から自立していくプロセスに似ている。子供が闘っているのは、実は「親」と闘っているわけではない。自分のこころの中にある「親への依存心」と闘っているのである。そして、それは、マネジメントにおける次世代のマネジャーの自律のプロセスにおいても同様であろう。
●我々は、自らのこころの世界に光を得ているだろうか?
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夢中、無心の体験から得られる直感力、大局観。チクセントミハイ博士が提唱するフロー理論にも通じる内容を、1990年代に語っている著者の慧眼に驚く。
また、成功するマネージャーが完璧主義に見えるのは、こだわるべき細部が見えているからという点も、興味深い。無駄に細かくて無駄な仕事を増やす日本のお役所・大企業マネージャーこそ読むべき一冊。