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『少女世界』に掲載された少女小説32篇が収録されていて凄い。発掘者が解説(「尾崎翠と少女小説」)に「これまで創作的にはほとんど空白期であると思われてきた(中略)実態がかなりの程度明らかにされた」と記しているとおりの一群。後期二〇篇について「題材や構想、プロット、文体等においてより多様な試みがなされ」中には後年の主な作品のモチーフの萌芽がみられるものもあり「尾崎翠の表現世界の成り立ちを知る上でも見逃せないものがある」と語っている。自分はコミカルな「三人の落としもの」清廉な印象の「アベマリア」が良かった。
他に鳥取に帰郷してから書かれた文章の内、「新秋名果」の回想に語られるユーモアたっぷりのやり取りや、詩情に満ちた「春の短文集」、極めて短い文章の内に鮮やかな物語が感じられる「もくれん」(末尾、「建物の外に出ると、校庭の大気の中には暖かい晩春がゐて、私の背中に呼びかけた。――ハロオ、センチナウタヨミ。羽織ヲヌイデ夏ノウタヲ支度シナサイ。」は、一篇の瑞々しい情景が思い描かれて素敵だ。)叶わないことだけれど、もっとこの人の文章を読みたいとつい思ってしまう。