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人権について オックスフォード・アムネスティ・レクチャーズ みんなのレビュー
- ジョン・ロールズ (ほか著), S.シュート (編), S.ハーリー (編), 中島 吉弘 (訳), 松田 まゆみ (訳)
- 税込価格:3,520円(32pt)
- 出版社:みすず書房
- 発行年月:1998.11
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紙の本
人権を探求する
2007/08/15 19:29
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
オックスフォード大学に招聘された7人の知性達が、人権をテーマとした連続講演をおこなった。その記録。
最初に引っかかる点をあげると、セルビア人による「民族浄化」に対する憤激が幾人かの論者の基調になっているところだろう。後に、ユーゴ紛争における「西側報道」には、歪みと誇張がみられたことが明らかになってきている。報道を一々疑って、自らの手で再検証することが可能な人はそうはいないだろうから責めるつもりはないが、メディア・リテラシーの難しさを再認識させられる。
その辺りをさっ引くとしても、本書は興味深い議論もある。小難しい著書を出している理論家達が、講演の場で(それらよりは比較的にだが)平易に語りかける。翻訳も敬体を採用して親しみやすくなっている。
簡単に内容と感想を。
ルークスは、国家のタイプを「功利国」「共同国」「無産国」「自由国」「平等国」の5つに分けた寓話をする。この中に人権を重んじる国がある。しかし、それは完全な形では実現することは考えられない。そこで人権のリストを、「ほどよい簡潔性とほどよい抽象性を保つ」ものに絞ることで、その国へと近づこうとする。
ロールズは、リベラルな正義の政治的構想を、どの範囲までをどうやって非リベラルな世界に拡張できるかについて腐心する。人権の条件を、ミニマム・スタンダードなものに限定することで、「万民の法」としようとする。それは非リベラルであっても、秩序だった階層社会なら受け入れは可能だと説明する。
しかし、最低限の条件すらも受け入れない体制とは、さすがに一時的な妥協的共存しかできないとする。
単著になっている、『万民の法』を読む前の予習にも好適な講演録だ。
マッキノンは、9割方告発に終始していて、糾弾調の演説がきつすぎて損しているように思えるが、切実さは伝わってくる。
ローティは、哲学的な人権基礎づけ主義を廃して人権について考えるよう促す。カント流の人種や民族を越えて誰しもに備わっている理性を、「人間の条件」としていたのでは埒があかないとする。そうではなく、これまで軽視されてきた感情による人間同士の共感に目を向けようと提言する。ローティにとっての未来の希望は、「感情・情操教育」になる。
面白い意見で、そういう試みもなされていいと思う。しかし、理性重視に完全に取って代わるほど有望なのかは疑問がある。理性も、結果として「同じ理性を共有するわれわれ」という狭い共同体を作ってきた。その意味で、人権問題を解決する切り札にはならないのは分かる。しかし、感情もまた「親しいor身近なわれわれ」を優先する共同体を強化し、そこにつなぎ止める役割を果たすのではないか。
管見では、理性も感情もその限界を見極めながら、慎重に活用していくのが望ましいのではないかと思う。
リオタールは、独特の語り口で要約しにくいが、「自己の内なる他者を尊重せよ」というような、哲学的他者論の一ヴァージョンを述べる。抽象度が高い講演。
へラーは、著しい人権侵害を繰り返してきた独裁政権等が倒された後のことを主題とする。「邪悪」に満ちた指導者達を、道徳的に非難し法的に処罰することは、どのように正当化できるかそれともできないのかという話だ。これは途中から議論の筋が分かりにくくなるのが残念。
エルスターは、多数決原理が人権を侵害することがあり、それに歯止めをかけるための制度的手だてを論ずる。後半はその観点から見た東欧事情。
本書に足りないのは、「人道・人権保護」の名を借りた軍事介入が、かえって人権を脅かすことがあるというパラドックスに対する考察だろう。
人権すらも、「絶対の正義」としての処遇は与えられないのかもしれない。しかし、最重要クラスの価値として、これからもより良いあり方を探求すべきものである。本書は、そのための一つの手がかりにはなる。
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