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紙の本
ふと友について考えるときに、そしてもちろん謎解きの好きなあなたに
2003/04/23 22:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まりりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずは本筋とあまり関係のない作中のエピソードをご紹介する。
主人公の「私」は、朝、ある新聞記事を目にする。
サントリー美術館所蔵の、祇園祭を描いた屏風絵が、実は長く続く襖絵だったことが分かった。その右側に続く襖絵はケルン東洋美術館にあり、その左側の更に左半分はニューヨークのメトロポリタン美術館に、右半分はオハイオ州クリーブランド美術館所蔵の屏風につながり、全部並べると綺麗に風景がパノラマをなすのだそうだ。読後、彼女は言う。
「これはもう、浪漫である。低血圧の薬になる。目が覚めた(本文引用)」
離れ離れになった断片が、あるべき場所に配置された時、忽然と浮かび上がってくる一枚の絵。これぞ謎解きの愉悦である。
彼女はこの種の浪漫に敏感な、愛すべき女子大生なのだ。
シリーズ3作目の本作で、そんな「私」が円紫師匠の知恵を借りて取り組む謎は、かの芥川龍之介が著作『六の宮の姫君』に関して自ら語ったという言葉。
「あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ」
この謎解きは、芥川が「私の英雄」と呼んだ人物の思わぬ一面をも暴き出すことになる。
人生の明暗が交錯し、決して軽くはない内容だが、「私」の視点が、読後感を爽やかにしてくれる。
扉には「GATEWAY TO LIFE」「友に」とある。
「私」と同世代の学生の門出を、教師として多く見送ってきたであろう著者が、良き友に恵まれ豊かな人生であれかしと、ひそかにエールを送っているように思えるのは私だけだろうか。
もちろん、推理ものとしても楽しめる。近代日本文学初心者には、芥川を紐解く手引書ともなるだろう。
紙の本
本と作家
2015/11/14 05:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あかとんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
芥川龍之介、菊地寛など有名な作家の著書や手紙から六の宮の姫君を解く。興味深く、内容の濃い、それでいて優しい文章で紡がれる主人公の「私」の成長も読んでいて気持ちが温かくなりました。
次巻の朝霧とは連続していますのでそちらが完結編になります。
紙の本
「私」の卒論なのかも。
2002/02/26 19:37
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』。一冊読みおえるごとに、好きになって、加速度がつきました。でも、そんな勢いだけでは、本書は読めませんでした。
『空飛ぶ馬』=「私」1年生
『夜の蝉』=「私」2年生
『秋の花』=「私」3年生
『六の宮の姫君』=「私」4年生
上記のように関連づけて考えたためか、本書がシリーズ最終作だと、勘違いしていました。それで読むのが惜しくて読めなかったのですが、作風の違いに戸惑ったのも事実です。しかし、『朝霧』を読み終えてから、本書を開いたことで、「ああ、『私』にとっての卒論だったんだ」と安心することができて、素直に楽しめました。
「私」がどう生きていくのか。本シリーズは、私にとって、特別な大河ドラマとなっています。続編、まだかなぁ。
紙の本
文学ミステリーでありますな
2021/01/17 22:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
芥川龍之介にまつわる謎をずっと追及していく。
もちろん、このミステリは殺人も犯罪も起きない。
しかし、謎が謎を呼ぶ。
文学上の謎だから、そればっかりだと理屈だらけで退屈しそうだ。
でもさにあらず。
「私」の見習社員的生活あり、
正ちゃんとのドライブ旅行あり、
もちろん円紫さんとの食事あり、
大家を訪ねる鎌倉行あり、と、
背景の彩りもなかなか豊か。
芥川と菊池寛との交流についての
論文に書くような内容を、まるまる謎解き小説にしてしまう。
こりゃあ、文学的教養をも表しているけれど、
なにより対象への愛着あるいは愛情を感じてしまう。
文学ミステリーでありますな。
円紫さんはともかく
「私」と正ちゃんの文学的会話が大学生なのにレベル高すぎて、
ついていけない。