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記憶シリーズ3部作の最終巻。前作の『死の記憶』が自分の中でイマイチだった為、やはり『緋色の記憶』のインパクトは超えられないのかなあとあまり期待をせず読み進めていました。相変わらず大変な長編で、まあこの記憶シリーズが長編なのは最後の最後で衝撃的などんでん返しがあるからなのですが、今回のどんでん返しは私にとって本当にどんでん返しで、自分が今まで読み進めてきた上で理解していたと思っていた事は間違いだったのかー??と前のページを何度も繰ってしまう程、驚きのラストでした。いやーびつくり。完璧にしてやられました。ここまで長いのも納得、って感じのエンディング。ここまで頑張って読んできてよかった、と思えるエンディング。ラストシーンも余韻があってとてもよかったです。とにかくエンディング数ページの為だけに書かれているような本なので、その数ページの為にそこまでの400P強を読んだろうじゃないか!という根性ある方にはぜひぜひおススメしたい1冊です。
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"記憶シリーズ"のうちの1冊。シリーズに共通する、人間の暗い部分を鋭く描くのに加え、思春期の複雑な感情が丁寧に表現されている。相乗効果がいい。
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アメリカ南部の小さい町で開業している医者のベン。
そのベンがハイスクールに通っていた30年前に起こった痛ましい事件。
物語は、そのベンの過去の回想という形で描かれている。
北部からやってきた美しい少女、ケリーへの恋心。
生真面目で、いつも自分はいつかこの小さい街から出て、都会で何かを成すに違いないと思っている、秀才ガリ勉タイプのベンの、あまりに屈折した恋心が描かれているんだけれど、物語はそれと同時に60年代のアメリカ南部の状況や、過去のインディアンや奴隷市などの話しなどを、正義感が強く激情家なケリーを通して描かれており、色々な事を考えさせる作品でもあった。
事件そのものは、最初からベンの回想は暗くて、悔恨に満ちていて、事件の細かな真相はわからないけれど、誰がやったのかは容易に想像がつくような描かれ方だった。思春期の、あまりに屈折して素直に愛を表現できないベンへ、同情とも哀れみとも軽蔑とも思えるような感情が湧いてきて、じれったい感じがした。
文章も、ところどころ読みにくく理解しがたい表現や言いまわしなどもあり、暗くて息が詰まるような、そんな気分に拍車をかけていたように感じられた。
本の裏書を見ると、誰もが予想しえない真相って書いてあるんで、どんな真相なんだろうって思いながら読んでいたけれど、自分的には、途中で予想しえて
いたものではあったので、特別驚きはしなかった。
描き方が、あまりに犯人を特定的に思わせるような描き方だったので、意外と言えば意外と言えるかもしれないが、その事件を引き起こす事になった直接的な原因は、その部分が描かれるまでは、誰も想像しえなかったとは思う。
些細な悪意によって、とんでもない事件を巻き起こしてしまったわけだけれど、それは、誰の心の中にも必ずある心の闇の部分であり、ここまで自分で自分を追いこんでしまったベンが哀れでならなかった。
また、ケリーにしても、自我が強過ぎて、周囲の人間の気持ちまで思いやることができなかった彼女の性格にも、私は何故か共感できなかったかな。
この物語で一番驚いたのは、事件の真相よりも、事件から30年後にケリーの母親からベンが呼ばれて、その家で目にしたことが一番驚いた。
えっ?そうだったの?って、あまりに意外であり、またあまりに哀れだったかな。
ところで、この本の解説で初めて知ったんだけど、私はこの作家の「緋色の記憶」と言う作品を以前読んだ。似たようなタイトルで同じ作家だったから、今回の作品にも興味を持ったんだけど、なんと「記憶3部作」と言われてるらしい。
「緋色の記憶」は3作目で、今回の作品は2作目にあたるそうな。。。。
勿論、話しの内容は全く関連性は無いのだけれど、どれも主人公の一人称で過去が語られる趣向になっているそうだ。
自分的には、この作品も良かったけれど、やはり賞を取った3作目の方が、作品としての完成度が高いと思った。
今回の作品は、思春期の子供たちの姿を実によく現しているし、とても読み応えのある作品ではあったけれど、如何せん、全体的にしつこい部分があって、贅肉が付いてるような無駄が多いような、そんな印象��受けた。そういう部分が物語りの雰囲気を演出する為の意図的な描き方なのかもしれないけれどね。
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愛と憎しみ。
愛しているから憎む。
チョクトーの町すべてが、ケリーのかつてのことばを借りるなら、ひとの世のすべてが、現実と仮定の合間に挟まれて身動きがとれず、知るべき事を知りえずにりいるのではないだろうか。しりえないまま人生の機を織るうちに生じたひとつの傷が、次の傷を生み、さらに別の傷をこしらえて、やがては悪意なき恵泉の黒々とした長い縞柄が、織り上げられてしまうのではないだろうか。
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ドーナツの穴を書く、というが小説教室での私の課題でありまして。「ドーナツの穴って空気しか無いじゃん!」と思うじゃないですか。でもそこを書かなければならないと言った場合どうするか。『夏草の記憶』を読んだとき「これだよ!」と思いました。てなわけで私にとって本書は、「ドーナツの穴」問題の、一つの優れた回答になっているミステリーです。
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あまりにも取り返しのつかない終わり。「愛と憎しみは表裏一体」みたいなテーマや話の展開自体はわりとありふれたものだが、随所随所が胸に痛い。
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2年前に読んで以来の再読になります。他のレビュアー方が書かれている通り、道尾秀介氏の「ベスト・本格ミステリ」のうちの一冊です。私自身、直前に道尾氏の作品を読んで本書のことを思い出し、再び読むにいたりました。
クック作品の中でも、随一の、「青春」小説だと思います。ミステリー小説としては、「叙述トリック」によるラストの驚きと、そこにいたるまでの巧みなストーリー運び(特に、時系列を無理なく越えて語る語り口)が光っています。もちろん、叙述トリック自体を「ズルイ」と感じてしまうなら、得られるのは驚きより、戸惑いかもしれません。ストーリー展開も、事件をめぐる事態が劇的に動くわけでもなく、あくまで関係性の揺らぎと主人公の心理(苦悩、迷い、希望から絶望への転落、など)に軸足を置いたものです。そのため、「クドイ」と思う人もいるかも……(実際、私自身も、読みながらところどころで感じてました)。
しかし、それらの(彼の著作全体にも当てはまる)特徴も私には、どうしてもそう語らざるを得ないものだと思えました。トリックも、あくまで主人公の一人称視点から見た「転回」であって、わずかずつしか過去の記憶を語らない姿勢にしても、主人公の性格がなせるものだからです。そのうえで、主人公が徐々に過去の真実に向き合うよう変化していく経過をたどれば、この作品が、ただ「暗い」だけのものではないと感じられるのではないでしょうか。
私としては、主人公がヒロインに寄せる想いの描写や展開の、あまりのリアルさに、一喜一憂、我が事のように「腸が捩れる感覚」を味わいました。同時に、主人公といっしょに、美しいものに触れられた気持ちにもなれたのです。決して気軽に読める作品ではありませんが、描写の濃厚さと、待ち受けているだろう真実の息苦しさのなかに、青春小説らしい、「爽やかさ」のようなものが見いだせるのではないかと思います。未読の方は、是非。
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最後はほんとに意外だった。
なんだか切ない片思いで、読んでて私まで憎さと愛に挟まれた気持ちになってしまった。w
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ミステリーは、自分の場合、ともすれば、先を急ぐあまり、作品を吟味し、堪能することを忘れて一息に読みすすめてしまいがちだ。
それがミステリーを読む快さのひとつかもしれないが、
走り抜けるように読み飛ばして、快感だけを記憶し、タイトルしか覚えていない場合が多い。ということでミステリーは自分にとって危険なジャンルだ。
しかし、クックの作品は、ページを手繰る手を止めさせず、かつ、文章を味わう喜びも満足させる。
物語人物の抱える謎と秘密、悲哀や心の機微、皮肉な運命は、
読む者に美しい映像浮かばせる、ビロードの手触りのような精緻な描写で綴られていく。
読書を終えたとき迷子に気づいたような心細さを感じるが、
それは今始まったことではなく、
もっと以前から迷い子の孤独を抱えながら過ごしてきたこと、
そしてこれからもそれは終わることはないのだという、深い感慨を覚える。
クックの作品の稀有な点は、生きて老いることの悲しさを改めて読む者に確認させながらも、
けしてその事実が人を打ちのめさないところだと思う。
罪も悲しみも悲惨も、美しく輝いていた場面や記憶とともに、抱えていくということを、静かに受け入れようと決心させる厳粛さが、人を惹きつけてやまないのだと思う。
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記憶三部作のうちのラスト。
「緋色の記憶」も「死の記憶」もまだ未読。
陰鬱とした話だが、なんか、淡々と流れる時間がうまい。引き込まれて、読みあげてしまった。
「ふともらしたたった一言が…」と、帯にある。
え、じゃ、犯人は?あの人?
未だに、分かっていません。
読解力なしかも…
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道尾秀介がコラムの中で書いてたんだが、好きな推理小説を訊かれて、綾辻行人の「十角館の殺人」と共に挙げていたのが、この「夏草の記憶」。
それで図書館で借りて読んでみたが・・・。
叙述トリックに属する作品。ラストは、「おっ!」と思わせる展開もあるのだが、いかんせん風景描写が冗長。行った事もないアメリカ南部の田舎町を頭の中に描くのに苦労した。翻訳が硬すぎる印象。
内容は、名医として町の尊敬を集めるベンだが、今まで暗い記憶を胸に秘めてきた。それは30年前に起こった、ある痛ましい事件に関することだ。犠牲者となった美しい少女ケリーを最も身近に見てきたベンが、ほろ苦い初恋の回想とともにたどり着いた事件の真相は・・・。
事件は1960年代初頭の黒人公民権運動に揺れるアメリカ。それに30年後の現在の回想を織り交ぜて記述している。
黒人差別意識が色濃く残るアメリカ南部の情景を描きながら、小さな伏線も用意されており、そこそこ楽しめたかな。
ただ、のけぞるような大仕掛けなトリックは無いので、好みは分かれるだろうけど。
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ミステリーと言えるだろうが、青春犯罪小説と言いたい。
恋愛小説より美しい書き方はしていないが、十代の恋する少年の心理がこまやかに書いてある。
初恋の狂おしさと喜び、失った怒りと虚しさが鮮烈。
童貞であることを恥ずかしく思ったり、好きな女の子のピンチを救って惚れさせようとか、将来結婚する未来を妄想したりと、初恋に狂う少年の心理は日米共通だ。
主人公のささやかな悪意がきっかけになって、クラスメートたちを三十年後も苦しめていると思いこんでいるのだが、その真相は明らかにならない。
ケリーが植物状態で生きているとわかって、いっそうクラスメートたちの人生の重苦しさがのしかかってきたような気がした。
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クックの本を読んだのはこれが最初。当たり!でした。記憶シリーズから全部読み、後はしらみつぶしに読んでいます。
クックの本は全般に、まー暗いけど登場人物一人一人がよくかけているし、いきいきとしていて、感情移入し易い。
心の中にしまっている小箱にそおーっと触れられる感じです。特にこの本のラストは衝撃でした。胸が痛かった。
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ヒロインのケリーよりも
恋敵のメアリーや母親、シーラなど
脇の女性の方が魅力的。
時制があちこち飛び、
冗長な心理描写を漫然と読むうち混乱した。
第三者のルークがなぜそこまでこだわり続けるのか、
そこがなじめず、
ミスリードしてしまった。
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故郷で医者を勤めるベン。しかし彼は30年前からある事件に関する暗い記憶を抱え続けていた。ベンの回想から徐々に事件の真相が明らかになっていく。
クックの小説を読むのはこれで三作目。はじめて読んだ作品は『緋色の記憶』という作品ですが、その作品も主人公が過去の事件を回想していくという形式でした。
どちらの作品にも共通して言えることは主人公の語りの美しさです。今作の主人公ベンが回想する時代は15、16歳くらいの時代です。
語りの何が美しいかというと、少年時代の主人公の心情を、30年が経ち大人になってしまった現在から語るという点です。その語り口から浮かび上がってくるのはあの頃への郷愁の念と事件に対する遺恨の念、正義心に燃える感情、そしてこの作品で何より自分の心に迫ってきたのはベンの初恋の感情です。
初恋の相手がピンチに陥るのを助ける姿を妄想したり、恋愛感情を意識してからのぎくしゃくした感情、自己否定をしてしまう主人公など、その姿はいつかどこかの自分の姿と重なる人も多いと思います。そうした感情を大人になった主人公に語らせているからこそ、青春小説の青臭さとはまた違った懐かしさと切なさを感じさせられました。
何かしら事件があり、それに主人公が関わっているということは、最初の段階から匂わせているのですが、それを最後まで具体的に語らないのもクックの手法です。回想で描かれるのは日常のシーンが多くまどろっこしく感じる部分もあるかと思います。しかし、最後まで読んだ時なぜ主人公は苦悩し続けなければならなかったのか、その本当の意味が分かります。
痛快さとは無縁の作品ですが、ミステリとしても文学としても非常によくできた作品でした。
2000年版このミステリーがすごい!海外部門3位