紙の本
日本はなぜ支那と戦争になったのか
2001/11/03 19:14
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国(支那)に勝手な夢を抱き、これまた勝手に裏切られたと憤って結局人生を棒に振った日本人って、昔もいたんですねえ。中国語を幾ら勉強しても、日本では出世できないのも今と同じなんだなあと実感させてくれます。明治維新を経て脱亜入欧を果たしたものの、白人社会での序列は常に末席。陰に陽に繰り返される人種差別。えーい、何時までも白人ドモの靴なんかなめてられるか! アジア人によるアジアを築き、白人をアジアからたたき出せ! とだんだん日本人のテンションが上がってくる。しかし、見回すとアジアには間抜けな連中ばかり。シナも腐りきっている。どうしようと思っていたところに希望の星孫文中山先生登場。ところが孫文は政治センスのない夢想家。あとを継いだ蒋介石は生意気な跳ね上がり野郎。そうです。日本とシナが連携してアジアを建設していこうなんて口先だけで、「先輩」日本の指導の下、日本の指示通りに動く子分としてしか日本はシナを見ていなかったのでした。そしてシナが次第に反日を旗頭にナショナリズムを高めていくにつれ「この豚野郎」と反シナ感情が日本国内でも爆発していく。こうした過程が丁寧に本書では描かれています。ただ日本人400人(女性、幼児、子供を含む)が蒋介石の軍に虐殺された「通州事件」がさらっとしか触れられていないのがちょっと残念。
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ちょっと硬い内容ですが、別に右がかったり、軍事オタクみたいな文章でもなく、とても好感が持てる文章の書き方と内容だと思います。
まず、「日中提携を目指し、国民党にいち早く強い共感を寄せた「支那通」軍人が、何故最も反国民党となり、中国侵略の先棒を担ぐようになったのか?」といった、問題提起がをきちんとしてあるところが素晴らしいですね。
確かに、中国を専門とする「支那通」軍人が、何故泥沼の日中戦争に引き込んでいったのか?。
単純に、中国を軽く見ていただけなのか?。
本書では、中国を専門とする「支那通」軍人の歴史を、佐々木到一という軍人を中心に描き、それに日中を中心とした歴史的背景を絡めつつ、話が進んでいきます。
なかなか興味深い内容でした。
「支那通」軍人の思想にも、世代的に変化が見られること。
現地軍と参謀本部の対立は有名ですが、日本国内においても、参謀本部と支那課に対立がある事。
現地軍も華北(関東軍)と華中・華南で対立し、統一的行動ではないこと。
泥沼を抜け出すには、日本軍の中国本土からの実質完全撤退しかないと支那課が認識していながら、それを実施に移すことができなかったこと。
その他、色々と発見がありました。
やはり、個人の意思を超える組織の問題はありますが、やはり反日・反中という一般的な国を覆う雰囲気が大きいポイントであるといえるでしょう。
東洋を指導するという考えを中心にすえた「支那通」軍人と、反日というわかりやすいパワーを実利に使った国民党の抗争。
何か、今でもあてはまりそうな構図ですね。
最初の問いに対するアクロバティックな回答はありませんが、とても良い本だと思いますので、内容に興味がある方はどうぞ。
しかし、講談社選書メチエは、中沢新一の「カイエ・ソバージュ」などいい本があるのですが、ちょっと値段が高い感じがするのが残念です。
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第二次大戦までの日本陸軍において、中国侵略を支えた「支那通」たち。
中国問題のスペシャリストだった彼ら支那通たちの活動はどういうものだったのか?
日清・日露から支那事変(日中戦争)まで、途中に辛亥革命や軍閥抗争や満州事変も交え、彼らの活動内容が詳述されています。
陸軍による支那通の養成過程や、彼らの軍人としてのキャリア、工作活動など。
本書の主役は、佐々木到一という陸軍軍人です。
彼に代表される支那通たちが中国に対して抱いた夢と現実との葛藤、親中から反中へと転じてゆく過程とその苦悩、そして挫折も描かれています。
他に柴五郎や松井石根、坂西利八郎から土肥原賢二など、多くの支那通軍人たちが出てきます。
近代日中関係、特に曖昧模糊とした軍閥抗争と日本の干渉を理解するうえでも、概説書として最適な一冊です^^
著者は防衛大学校の教授で、旧日本陸軍の資料や軍人たちの著書をふんだんに引用していますが、やはり日本の意図が中国侵略にあった点や、「支那」という呼称が差別的・侮蔑的ニュアンスで用いられていた点を論証してますねw
ニン、トン♪
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結局、帝国陸軍をふくむ大日本帝国は中国との距離感を掴みかねて泥沼にはまり元も子もなくなってしまったわけだけど、じゃあ、どうすれば良かったのかといわれると旨い解決策はないですね。我国の失敗は明らかなわけだけどじゃあ、米国はどうだったか?バーバラ・タックマンの"Stilwell and the American Experience in China"を読めばあちらだって中国政策はグダグダだったわけで、スチルウエル将軍が日本陸軍の中国通よりうまくやってたとは思えない。そのへん日米とも中国との文明システムの違いというものを無視軽視してた呪いなんじゃないですかね。日米はお互いが天地の両端に位置するほど遠いと思ってたけど、米中、日中の距離はそれより大きかった。人種的に近く、同種の文字を使っていた日本のほうがその衝撃は大きかったし、そのことは日本人全体もちゃんと認識してないんじゃないでしょうか?
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戦前の中国の各勢力と、各勢力の軍事顧問や関東軍内要職を担当していた支那通との関わりの歴史書。支那通が一般的に中国分割論や「中国一撃論」を主張し対中強硬派になっていった言われているのに対し、著者は支那通も一枚岩ではなく、新支那通と呼ばれる若手は、中国統一への同情があったことや、期待があるあまりに排日運動に対して打ち拉がれる様があったことがわかる。同時の中国の歴史は、群雄割拠の時代で、今日の味方は明日の敵の状態。その中で、「国益」のために権益拡大を図った軍部は、歴史の背後で重要な「思想」を持たないまま、場当たり的にそのときの感情に流され、中国に心を寄せ、中国から心を離していったのかなと思った。
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いい本である。かつて中国は清朝が滅んだ後、いくつもの軍閥によって国が分かれていた。だから、日本の軍人の中でも共感の寄せどころが違っていた。もちろん、その根本には、満州を繞る日本の利権があったわけで、かれらの行動はこの満州抜きでは語れないにしても。本書では、主に孫文の革命に希望を抱いた佐々木到一のたどった道をたどりながら、かれらが革命軍にかけた希望と、そのあまりの激しさからくる反日行動、日本人虐殺を目の当たりにし、だんだん革命に対する幻想が消えていく過程が細かく描かれている。
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戦前の日本において、陸軍と中国は、重要なキーワード。
それについて、「支那通」という中国スペシャリスト、とくに佐々木到一を中心に描いたもの。
最近、日本の戦前史を続けて読んでいるのだが、結構、マイナーなテーマになってきたかなと思ったが、この「支那通」につながる名前は、どこかで聴いた人たちが多い。東京裁判でA級戦犯になった人たちがずらりと。。。
日本のアジア進出には、「アジアの諸国を欧米の植民地支配から解放し、多様な民族が共に繁栄していく」みたいな「大東亜共栄圏的なイデオロギーがあったわけだが、それを本気でそう思って、それを実現しようとする人とそれは単なる題目として植民地支配を着々と進める人がいたのだと思う。
こうした「支那通」のなかにも、2つのスタンスの人たちがいたようだが、結局、どちらのタイプもいろいろな歴史のプロセスのなかで、中国との泥沼の戦争に積極的に参画していくことになってしまう。
戦後、「支那通」は、東京裁判で有罪になって処刑されたり、自殺したり、外地で処刑されたり、収容所でなくなったり、なかなかにつらい最期であった。そうか〜。