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紙の本
オーソドックスにして芸達者
2007/07/04 19:55
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
学者は「芸者」であってほしい。これは特定の職業に結びつけているのではない。一般読者としてやや贅沢な願望として言っているつもり。
ここでの芸とは、その一つは抽象的な原理を、面白く興味深い事例やモデルを効果的に挿入して説明するということだ。事例やモデルからのアナロジーによって抽象的な原理は理解しやすくなる。もちろん、アナロジーや良くできたレトリックを鵜呑みにしているだけだと、落とし穴にはまることもある。批判的吟味は必要だろう。
さて、本書は政治哲学の入門書の中ではオーソドックスな部類だ。構成は自然状態の検討から始まって、国家の正当化、国家の支配者は誰か(民主主義の話)、自由の位置付け、財産の配分的正義の問題、個人主義とフェミニズムで終わる。政治思想家の主張の紹介にかなりページを割いている。登場する思想家も定番のホッブス、ルソー、ロック、ミル、ロールズが中心的に扱われる。カントやヘーゲルにはわずかしか触れていないが、手を広げない分、考察の密度は濃くなっている。
オーソドックスなだけに、ありきたりで教科書然としていてつまらないかというと、そうでもない。基本的には堅い本だが、著者の芸者っぷりが、いくらかはその堅さをほぐしてくれているからだ。
例えば、配分的正義を論じるにあたり「収入パレード」の話を出す。収入の多寡に比例して身長の高さが決まっている、ある国の全住民が、1時間かけてパレードするのを目撃するという設定だ。先頭を切るのがマイナスの身長の人々、順次続いて最後にはとてつもない高さの人間が一瞬で通り過ぎていく。
この不公平さを視覚化するモデルに対して、著者は反論も用意しているが、議論の導入としては面白いものを出してくれていると思う。読み進める動機になる。他にも、ロールズの正義論の解説は、いろいろ読んだ中でも比較的分かりやすいほうだと思う。
別タイプの芸もある、訳者氏に語っていただこう。
《要するに、ある論題について様々な考え方を戦わせ、その主張者達を対話させるのである。その間に、有力と見えた考えが批判されたり、どうにも欠陥だらけと思われる考え方が結局擁護されたりする。その過程はとてもスリリングである。》
つまり、推理ものストーリーにも似た展開に、「学芸者」としての手腕が発揮されている。章ごとの「結論」でジャッジを下すのだが、探偵のようには断定しないことも多い。読者に委ねるべきところはそうしようとする姿勢もいい。
翻訳の関係か、分かりにくい記述もあるが、全体的には深みのある政治哲学のイントロダクションになっている。
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