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紙の本
私たちの国家やそれを支える法は、人間の生殖と世代継承に揺さぶりをかけている。20世紀最後の問題作。
2000/07/18 09:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「生殖と世代継承」は、人間の生命史そのものを言い表わす言葉である。「生殖」によって一個の人間の生命は始まり、「世代継承」によってその生命は時を越えて永遠に続いていく。ひとたび「世代継承」に注目すると、一個の生命によって始まった親族の歴史も浮上してくる。私たち人間がここにこうして存在しているのも、数千年にわたって連綿と続けられてきた「生殖と世代継承」があったからだ。
もちろん「生殖と世代継承」はそもそも自然に、少し範囲を狭めるならば親族にゆだねられてきた問題である。しかし、この問題に国家とそれ自体を支える法制度が抜き差しならないほどの激しい揺さぶりをかけてきている。人類学者ロビン・フォックス氏は、米国での裁判事例を通して、本来的に合理性が通用するはずのない「生殖と世代継承」に合理性を無理強いしようとする国家や法制度のあり方に強い疑問を投げ掛けている。
モルモン教徒の警官が解雇されたのは、一夫多妻制が一夫一婦制に比べて社会的な道徳の退廃を意味するからと国家によって判断されたからだ。しかし離婚、再婚が繰り返され、既婚者による様々な恋愛関係が認められる今日において、一夫一婦制だけが社会の望まれるべき道徳を体現しているとは言い難い。そもそも「自然」において結婚という形態は存在しない。それは法制度が人間の生殖行動に規制をかけた結果生まれたものなのである。
契約に反して子供を渡さない代理母に親権が認められたのも、自然上の母親と子供の結びつきが、国家によっても契約によっても引き裂かれ得ないものであると判断されたからだ。母親という身分が契約に勝るのは、「自然」に従えば当然のことだったのである。
また本書では親族の結びつきに対する国家介入を、ギリシャ悲劇『アンティゴネー』にまで遡って考えられている。アンティゴネーが弟の遺骸を王の意に反して葬ろうとしたのは、彼女が自然の導く「世代継承」、すなわち親族の一員としての役目を果たしたことに他ならない。彼女は国家の結びつきを強固にしようとするための、「自然」に反する父系制のイデオロギーに体を張って異議を申し立てていたのだ。『アンティゴネー』の冒頭の一行から導出するフォックス氏の論理的な洞察力と、それを的確に伝える訳者の秀逸な翻訳が相まってこのことを読者に知らせる箇所は、本書の最大の読みどころでもある。
日本において代理母は法制度としては認められてはいない。また日本人で一夫多妻制を容認するモルモン教徒もまだごくわずかな人数しかいないだろうし、それは公然の秘密とされているだろう。しかしだからといって、本書でフォックス氏が行った、人間の「生殖と世代継承」を根底から揺さぶる国家や法制度のあり方に対する問題提起を等閑視していいはずはない。人間は国家や法に絡め取られることなく生きていくことができるのか、できないのか。もはやそうできない状態にまで人間は追い込まれてしまっているのか、いないのか。私たちは大丈夫か。そう考えずにはいられない。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2000.07.17)
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