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紙の本
せけんなどどうでもいいのですお日様いっこあれば
2003/07/19 01:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アベイズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「性悪」にひかれるのも、未だ気恥ずかしく。子供など、産んだこともなく、まして、持とうとも思わず。月並みな言葉を借りれば、人が嫌いで。猫を飼っている。その形と手触りとたたずまいが好きだから。…そんな私が読んでいるのは、やまだ紫の「新編性悪猫」。すれっからしで、とうがたっていて、口の減らない。そんな年増猫たちを、抱きしめたくなるのはナゼダロウ。そして、この私の体だって、自分自身でぎゅーっと抱きしめてあげたくなるのは、ナゼダロウ。
「せけんなど どうでもいいのです お日様いっこ あれば」
あとはいらない。あとはもう誰もいらない。お日様いっこあれば。あとはもう何もいらない。わたしのお日様があれば。それでいい。
「たいていの やさしさは あとで 寒いもの わたしなれば にげてしまうよ」
例えば、たいていのやさしさを、あげられるかもしれないとか。例えば、たいていのやさしさを、もらえるかもしれないとか。そんなこと、とうの昔に逃げ出したはずじゃなかったろうか。誰にも寒いおもいなど、させたくもなく。誰からも寒いおもいなど、させられたくもなく。
「たとい ひとときなれど 日向は ぬくいもの ぬくいところがいいよ」
ぬくいところで丸まって、もう日がな一日暮らすのが、わたしの当たり前じゃなかったろうか。理屈も言わない。もったいぶらない。さみしがらない。欲しがらない。じっと待たない。こんな所で丸まって、誰もわたしのことなど気づきもしない。そんな一日は素敵だと思うよ。ココロから。
「持たないことは 怖くないよ 持ってしまうと 怖くなるよ 失くすのが 怖いよ」
怖いものなどないと言ったはずじゃなかろうか。鼻を鳴らして言ったはずじゃなかろうか。いつからそんなに、びくびくと、そわそわと、弱気になったものだろう。
「わたしはね 子を産むとき 『母親のわたし』も いっしょに産んだよ」
ああ、子を産むってどんなだろうね。子を持ちたいって思うのはどんなだろうね。「あんたも産んでみ。もう女はホルモンだからね、ガハハハ」と笑うトモダチに「はあ、左様で」と言うしか能もなく。「アタマで考えてるうちはダメ、ダメ、ガハハハ」とこれまた笑うトモダチに「わたしまけましたわ」と回文で返し。でも、ホントは、羨ましかった。彼女がココロから眩しかったよ。
子供を産むとか、育てるとか。きっと、もう、それは、それだけで、なまなかなものでないから。自分も産んで。自分も育てて。子供に負けぬぐらい、いろんな思いを辿りなおして行くのだろうね。もう世間なんかお構いなしで。そして、アナタがその子の母さんで。いつまでたっても、どこまで行っても母さんで。誰かに無条件に頼られて愛されて愛して、うらやましいよ。ほんとうに。
「せけんなど どうでもいいのです お日様いっこ あれば」
すかすでも、バカにするでもなく。アナタが眩しいよ。そういうただ中に、自分を置きたくて。でも、できなくて。どうしてもできなくて。いつまでも子供のふりをして、鍵なんかちゃらちゃらいわせて歩いているんだ。私はね。できることならアナタにもう一度産んでほしいなんて、思っているんだ。アナタを母さんと呼んで良いですか。なんて。アナタを母さんと呼んで良いですか。いつまでも。なんて。そんなことばかり考えているんだよ。
それでもこの本を読んでいると、自分が母さんになったみたいな。誰かの母さんになったみたいな。誰かに昔無条件に頼られて愛されて愛したような、ありもしない記憶が蘇ってきて。やっぱり自分をぎゅーっと抱きしめてあげたくなるんだよ。
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