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つげ義春という漫画家を知ったのはいつの頃だろう。小学生5,6年生の頃だったろうか。
『ガロ』に掲載された『ピーコ』『李さん一家』が最初の出合いだと思う。
作者の独特な癖がある暗い世界を幼い僕が到底理解していたとは思えないが、『ピーコ』では、同棲中の女性がかわいがっていた文鳥のピーコを、ピースの箱に入れて宙に投げて抜け出す遊びをしていたときに、うまく箱から抜け出せずに畳の上に落下し、そのまま死んでしまうというストーリーだった。極貧の中での恋人同士の唯一の心の支えである文鳥をなくしてしまったという、この悲しい物語が、後の『神田川』や『赤ちょうちん』の世界とダブってしまって妙に印象に残っている。
最近、つげ義春の作品をいくつか読んだが、今更ながらに哀愁をおびた細いタッチに魅せられてしまっている。『新版・つげ義春とぼく』では、昭和40年代に描かれた場末の温泉街の風景が絶品である。水木しげるの作品の背景を描いてきた人だけあって、光と陰にこだわった精密な線はもの悲しくもあり懐かしくもある。