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紙の本
いまでは遠い国になってしまったビルマの人々の姿や声がとても身近に感じられる。
2000/09/06 00:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:上野昂志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あなたが、ビルマについて知っていることをいってください、といわれたら、何と答えるだろう。
ビルマが、ビルマといわずにミャンマーいう国名になったこと。軍事政権が十年以上も続いていること。それに対する民主化運動の騎手と目されるアウン・サン・スーチー女史が、いまだに半軟禁状態にあること・・。ちょっと年輩の人なら、竹山道雄の『ビルマの竪琴』や会田雄次の『アーロン収容所』を読んだり、「クワイ河マーチ」で知られる映画『戦場にかける橋』を見たことがあるかもしれない。だが逆に、若い人たちは、日本軍がかつてビルマを戦場にして英国と戦ったことがあるということさえ、知らないかもしれない。 いずれにせよビルマは、いまの日本人にはひどく遠い国になってしまったのだ。
それが、この本を読むと、ビルマがとても身近に感じられるようになる。といっても、べつに、本書は、現在のビルマの魅力を観光案内風に語ったものではない。タイトルが示しているように、1942年の日本軍侵攻とともに戦場と化したビルマにおいて、現地の人々がどんな生活をしたかを、彼ら自身に語ってもらおうと取材を重ねて書かれたものなのだ。従って、言及されていることの多くは、戦時下のことなのだが、にもかかわらず、そこには、それを語る人々の、戦中から現在に至る、歴史というよりは生きられた時間というべきものが感じられのだ。それは、聞き書きという手法にもよるが、何よりも、話を聞く相手のいまの暮らしぶりに対する著者の観察が細やかだからである。
しかし、それにしても、ここには、実にさまざまな経験をした人たちがいる。たとえば、本城機関という諜報組織の依頼で村長を務めた聾唖学校の女性教師は、日本軍政下でも、村民が安全に暮らせるように調整役を果たしてきたが、あるとき自分の家のテーブルの脚を無断で切ってしまった日本兵を怒鳴りつけ、あわや「決闘」になりかけたとか・・。 あるいは、それこそ『戦場にかける橋』で知られる泰緬鉄道の建設に、自分から志願して出かけたものの、工事現場のあまりにも劣悪な労働に耐えきれずに脱走した「汗の兵隊」と呼ばれる人たちとか・・。また、ビルマ人の映画監督と結婚して向こうに行き、彼が監督した映画『にっぽんむすめ』の主人公の名前で呼ばれた日本女性が、戦時下に、レストランを経営して一家の経済を支えたとか・・。 逆に、日本が「大東亜」の理想を内外に示す一環として行った留学生募集に応募して日本にやってきたビルマ人青年の戦時下の日本での暮らしとか・・、実に多様なのだ。
いや、本当は、多様である以前に多難であったということなのだが、そのことをふと忘れるくらい、ビルマの人々の語り口が穏やかなのである。著者は、副題を「ビルマのささやき」としているが、戦争中の苦難を語る彼らの声も言葉も、まさに「ささやき」というにふさわしく静かで優しいのだ。そこに昔もいまも変わらぬビルマの心があるのだろう。 (bk1ブックナビゲーター:上野昂志/評論家 2000.09.06)
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