紙の本
今、われわれが学ぶべきこと
2001/09/18 01:46
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投稿者:jig - この投稿者のレビュー一覧を見る
阿川弘之、猪瀬直樹、中西輝政、秦郁彦、福田和也ら五氏が、20世紀に日本が直接的に、あるいは間接的に関わった戦争について討論したものである。
本書の多くの頁は満州事変と太平洋戦争について割けられているのだが、その視点は教科書や新聞等では見られないものだ。それでいて、平易に語られている。また、歴史の裏話的なエピソードも紹介されていて、興味深かった。
一方、「カンボジアのPKOに参加した警察官が現地で亡くなり、そのお父さんがこの間、自殺されたという報道があった。もうあの時の犠牲者を国民はすっかり忘れているんです」という猪瀬氏の発言を読んで、ショックを受けた。なぜなら、実際に「すっかり忘れていた」からだ。
本書から学ぶべきことは多い。
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日本を大きく変えた五つの戦争について著者四人が座談会形式で語ったものを活字化した本。
戦争といっても軍と政府だけを見るのではなく、世論や海外の様子なども踏まえたりしながらちょっと変わったテーマで見ていたりと飽きないで読める。また、戦後の湾岸戦争が日本に与えた影響も書いており、過去から現代につながる一冊であると言える。
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著者のメンバー構成とは違い、だいぶニュートラルな戦争総括であり、日本という国家・国民そのものに対する総括だ。
まず、「戦争の世紀」である20世紀前半~中盤には、テロの恐怖が通奏低音として流れている。その中で、天皇から軍人まで誰もが、正常な思考力を持ちながらも異常な結論を導き、ついにベルトコンベアに乗ってしまった。追い詰められ、やがて確実に敗戦まで至るベルトコンベアに。
さらに、戦争に至るまでの過程のうち、官僚やリーダー層の問題が非常に大きいように思われる。陸軍と海軍の権力争い(この結果、戦闘の大敗を国民に隠すどころか、政府にさえ隠すようになった!)、中国/満州に対する方針の不徹底、戦争ありきの後付け戦術、などなど。このレベルになると、実は現在でさえ解消されていないのではないか、と思えてしまう弱点も多く含まれる(派閥抗争、公共工事、責任逃れ、先送り……)。
根本的には、戦争を何のためにするのか、戦争をどこまでするのかという目的意識の欠如がある。グランドデザインではなく、ひとつ前の事象に突き動かされて、その先は出たとこ勝負で後任に丸投げしているようなところがある。
たとえ世界が変わっていって、日本を戦争に巻き込むような流れが多くあったにせよ、そこに飛び込まない選択肢はあったのではないかと思わされる。しかしその一方、日本の国家体質が戦争による権益確保にあった以上、いつかはこうなったであろうという予感も残る。
少なくとも確実に言えるのは、かつて日本人が起こした戦争にまつわるあらゆる要素は、今でも日本に残っているということだ。その中には「美徳」も含まれるし「悪徳」も含まれる。
政治・経済・文化・軍事など、あらゆる場面で、かつての日本と同じ事が繰り返されるだろう。その本質を見極めることが何より大切で、それを取り除くことができるかはともかく、最悪の結果を招くことだけは避けなければいけない。
それは、もはや対症療法でもかまわないと思う。
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[ 内容 ]
この百年の間、日本は多くの戦争にかかわった。
日露戦争、第一次世界大戦、シベリア出兵、満州事変に端を発する日中戦争、そして、太平洋戦争。
世界で最も平和を謳歌しているように見える戦後でさえ、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などは日本の国家、社会に大きな影響をおよぼした。
平和を美しく語るのもいい。
しかし、破壊と大量殺人をともなう戦争という人間の営みを正面から見つめることなくしては、新しい時代の平和は決して語れない。
[ 目次 ]
第1章 日露戦争―近代との邂逅
第2章 第一次世界大戦―「総力戦」の世紀
第3章 満州事変―終わりなき暴走
第4章 太平洋戦争 ―混迷と陶酔
第5章 湾岸戦争―残された課題
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日露戦争から湾岸戦争までを俯瞰し、日本が今後国際的にどういうスタンスで接していけばよいのかを5名の識者で討論する。飽きない話題が続き、読みごたえがあった。12.2.16
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20世紀は戦争の世紀。戦争とは軍事、外交、経済、科学技術、社会、文化のあらゆる要素が投入されるもっとも濃密で烈しい国家体験。
日本の場合は何よりも、国家を指導する立場にあるエリートの質の低さこそ、欧米と比べ決定的に違っていた。
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日露戦争以降の日本関与の戦争について、著者らがその要因や帰結などを対談形式で論じていく。
この中で中西と福田の分析はその他と比べて説得力が落ちる。その理由だが、どうにも失敗に甘い癖があって、悪い意味での楽観的解釈が顔を出しているからだ。
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日本がこれまで経験してきた様々な近代の戦争経験を通じて、これからの日本がどうあるべきかについて討論していく。メンバーは私が個人的に読んできた書籍の筆者が多く、内容的には超豪華な顔触れとしか言いようがない。司会は猪瀬直樹氏、討論メンバーは戦争経験者の阿川弘之氏に始まり、秦郁彦氏、福田和也氏、中西輝政氏とそれぞれ歴史に輝く煌びやかな著作を世に出してきたメンバーである。
討論対象となる戦争はタイトル20世紀の日本の戦争とありように、日露戦争から、満州事変、日中戦争、太平洋戦争、最後に湾岸戦争までと100年をカバーする。このメンバーに題材に詰まらないわけがないのであるが、読み始めから意外と忖度なしに繰り広げられる意見のぶつかり合いはかなり見応えがある。
内容も僅か二百数十ページとコンパクトに纏められているおかげで、各戦争に至る原因や時代の共通点を見つけることができる。こういった書籍に多い、筆者固有の自論では?という疑問にも直ぐに参加メンバーが応えてくれるので、偏った考えに陥る危険性も少ない。安心して読める一冊でもある。
一つ残念なのはコンパクトにまとめる必要性から、あまりに深い議論に入る前に、猪瀬氏が淡々と次の議題に振っていく点だ。ページ数の限りで盛り沢山の議題にテーマがあるので仕方ないのだが、そうした意味での深みには欠ける。とは言え、各者相応の研究をしてきただけあり、時には読み手が知らなかった様な話も出てきて新鮮な部分もありそうだ。
こうして20世紀の戦争を一気に振り返り感じることは、やはり思い込みや力への同調、忖度やその場の空気、誤認識など全てが現代の日本や会社の会議にもある様な「無知」や「弱さ」に帰結することが多い。時には井上成美などの持論を曲げない堅物は居ただろうが、全体的にはそうした人材はごく僅かで、声の大きい人、権力ある人に引き摺られていく様が読み取れる。そう考えると天皇陛下の力がもう少し前面に出ても良かったのではないかと感じてしまう。立憲君主を維持することも大切ではあるが、肝心な場ではその力を活かして欲しかった様に思えてしまう。
とは言え議論の中に頻繁に出てくる、歴史のifではないが、今の日本はあの時負けてきた事実の上の繁栄であり、もし太平洋戦争で枢軸国側が、日本が勝利していたらどうなっていたかわからない。もっと悲惨で殲滅的な結果に陥っていたかも知れない。だから今を生きる人々が感じる平和も幸福も、そうした歴史の流れに翻弄され散っていった先人の上にある事に気づかなければならない。
本書はそうした歴史に触れる入り口としても、繰り返し読んで思い出すためにも利用できる。21世紀の平和も過去の過ちを知ることから維持できるのではないだろうか。