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高い評価の役に立ったレビュー
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2001/08/09 23:47
人は苦しみから抜け出すために理性をかなぐり捨てなければならないときがある
投稿者:nory - この投稿者のレビュー一覧を見る
十五年前に忽然と妹が消えたという事件によって家族は崩壊してしまった。長男、祐一郎は自傷を繰り返し、事件後に生まれた弟は自分が消えた真利江だと思い込み、母は新興宗教にのめり込む。バラバラに砕けてしまった破片をつなぎ合わせることはできるのか。
祐一郎はSM女王のナオミに封印を解かれ、感情の流れをせき止めていた壁を破壊し、新しい力を身につけていく。
人はときとして、苦しみから抜け出すために理性をかなぐり捨てなければならないときがある。頭の中で考えられるのは実はとても狭い世界で、言葉にできるのは単純なことでしかない。そこで行ったり来たりしていても、何も変わりはしない。言葉にできないことにこそ複雑で深遠な世界が隠れている。
では、その世界とどうしたらつながることができるのだろう。ドラえもんがポケットから簡単に道具を取り出してくれることはない。しかし、もしそれを使ってつながることができて問題を解決できたとしても、そこから先に行けるかどうかはわからない。自分の力を使わず、何の実感もないまま過去として処理してしまうことができるのだろうか。
ここにひとつのケースがある。
体をアンテナとして使うこと。危険を恐れず、受信するエネルギーと共振すること。固まっていてはできない。バイブレーションを感じ、意識を広げ、見えてくる世界に乗り込んでいく。そうすれば突き抜けたパワーが湧き出してくる。大きなうねりが生じ、物事が流れ始める。
もしもそれが悪い方に流れていったとしても、よどんで停滞していることとどちらがいいのかはわからない。結果は流れてみなければわからない。ただ、こういうときの直感は、動物の生存本能のように自分を守ってくれるものだと私は信じている。
低い評価の役に立ったレビュー
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2000/11/03 05:22
興奮しつつ一気に読んでしまった。
投稿者:永江朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『アンテナ』は『コンセント』に続く田口ランディの長編第2作だ。といっても、『コンセント』の続編というわけではない。途中、作中人物によって『コンセント』に言及されることはあるが、登場人物も設定もまったく違う別の話となっている。
前作の『コンセント』は英語でいうソケット、電源プラグを入れるあのコンセントからとられたタイトルだった。挿入する、つながる、パワーを供給するなど、さまざまな意味が込められていた。それに対して『アンテナ』はもっと直接的だ。電波をキャッチするあのアンテナである。電波といえば、電波系、あるいは精神分裂症患者がよく訴える妄想を連想せずにはいられない。
『コンセント』が「引きこもり」を題材としていたのと同様、『アンテナ』も社会的な事件や病いを扱っている。主人公の青年には自傷癖がある。その描写は目を背けたくなるほど陰惨だ。しかも、彼は幼いとき、妹が忽然と姿を消すという事件に遭っている。事件後15年も経つというのに、妹の行方はいまだに知れない。弟は精神を病み、入院している。なんという病気なのか、医者ははっきりとした診断を下さない。父親は死に、母親は新興宗教に凝っている。
コラムニストとしての田口が、長年関心をもってきたことが、ここに凝縮されている。たしかに悲惨な家庭ではあるが、決して誇張された現実ではない。よく考えると、私たちの身近にあることなのだ。自傷癖のある友人がいたり、新興宗教に夢中になる親戚がいたり。まるで神隠しのような失踪事件はテレビでもたびたび報道されている。その意味で『アンテナ』は『コンセント』と同じく、私たち自身の小説でもある。
だからこそ、この現代人の病いが集中したような環境のなかで、主人公の青年をどう動かそうというのか、田口ランディの読者としてはそこにもっとも興味をひかれる。田口が用いるのは身体だ。もっとあけすけにいってしまえばセックス、それもアブノーマルなSMにその突破口を見いだす。具体的には『アンテナ』をぜひ読んでいただきたいが、なるほどなあ、と感心し、感動する。
こう言っちゃなんだが、私はこれまで少なからぬSMの現場を取材してきたし、SM関係者の話も聞いてきた。田口がこの小説で見せたことは、その体験と照らし合わせても非常に納得のいくものだし、私が取材の過程で気がつかなかったこともこの小説にはたくさんある。
『アンテナ』は怖い小説でもある。特に失踪した妹と精神を病む弟の関係が怖い。ふたりの影が重なり合い、やがて失踪の真相に迫っていく後半では、田口はついに触れてはいけないタブーの領域に踏み込んだ感がある。
興奮しつつ『アンテナ』を一気に読んでしまったいま、3部作完結編となる『モザイク』の登場が待ち遠しい。
(永江 朗/bk1ブックナビゲーター)