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紙の本
「おはなし」についての思いめぐらし
2002/06/24 01:51
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投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
こういっちゃあ何だが金井美恵子というのはわりといい加減な人であって、藤枝静男が評したとおり白痴的なまでにみずからの好みで「良いインディアンと悪いインディアン」を峻別し、これ面白い、これ面白くない、と書きつける態度には基本的に機会主義と見紛うような鮮やかさと軽さがあるのだが、しかし作家としての金井美恵子と批評家としての金井美恵子は当然ながら二重になっているのだと考えてみれば、それは決して軽薄さではないということも納得できる。石川淳や澁澤龍彦や倉橋由美子といった敬愛する作家・批評家をある時期からすっかり馬鹿にしはじめつつ、それでもなお、「書くということは、書かないということもふくめて、書くことである以上、書くということは、私の運命なのかもしれない」という『兎』冒頭に記した認識を、ほとんどあからさまに、ある種のしたたかさでもっていまも維持しているのは驚嘆に値する。彼女が深い理解と愛情を持って接した同時代作家である中上健次に対しその繊細さと強気なポーズを揶揄しながらも、小説に関するナイーヴさをほとんど愚鈍なまでに晩年にいたるまで彼が所持していたことを絶対的に支持するその姿勢は、やはり素直に受けとめておくべきなのだ。何ひとつ隠されてはおらず、すべてはあるがままに、そしてあるがままであることを引き受けることほど、文章を書く人間にとって困難を引き寄せることはないのである。
本書は絵本論である。石井桃子やアーサー・ランサムについてことあるごとに発言してきた作家らしく、普段の「文壇」的な距離の意識に明晰に支えられた批評性に富んだ(嫌みったらしいとも言う)エッセーとは少し趣が違い、豊かな読書経験(あえて教養とは言うまい)に裏打ちされたリラックスした調子で個人的な歴史性は感じされられるものの「時代性」とはほとんど無縁の領域で選択された細やかな愛情と冷静で的確な分析が共存する本になっている。金井の読者として気になるのは、最近のエッセーに特に顕著な傾向にあるのだが、文章に奇妙な文法間違いとかセンテンスの違和がことさらに目立たないように滲み出していることで、これは全体の文章の周到さと比較するととても単なる粗雑さであるとは思えないものであり、また何か方向を考えているのであろうかなどと想像させられるということと、もうひとつは、これはずっと金井の作品のオブセッションとしてある、<おはなし>というものが持つユング的な概念とは関わりのないところにある——というよりもむしろユングに回収されないものとしての——無意識的なものの小説における位置についての考察の部分である。四年間の連載を経て完結した長編小説『噂の娘』(講談社)と併読し、<おはなし>について思いめぐらしてしまう。
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