紙の本
音楽を聴くのと似ている。
2003/07/29 05:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アベイズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
実を言えば、上手い下手というモノが私にはよく分からない。もしくは質の良し悪しという奴が。例えば、文章の上手い下手。歌の上手い下手。絵の上手い下手。料理の上手い下手。そしてセックスの上手い下手まで。私にはやはり、その基準がよく分からないのである。
私が分かること。それは、いつでも好き嫌いなのである。
そんなことを考えたのは「ラジオ・デイズ」の文庫本への後書きを読んだから。
「このぼくの処女作である『ラジオ・デイズ』は、超へたくそだ。」
確かに、書き言葉に頼るきらいがあるかもしれない。唐突に感じる部分があるかもしれない。人物の書き分けが曖昧に感じることがあるかもしれない。それでも、そんなことはどうだっていい。私はこの小説が好きになったから。この小説の持つ空気感が、好きになったのだから。
「落ち着くんだよ。文字追ってるだけで。文章にもよるんだけど、人間の考えていることが頭ん中に入ってくのが心地イイんだ。音楽聴くのと似てる」
サキヤのコトバである。彼が小説を読む理由としてカズヤに話したコトバである。そう、この感じ。「ラジオ・デイズ」が伝えてくれる空気感。それはまさにそんな感じなのである。音楽聴くのと似ている。そっか、近しい人が書いたんだな。って、すぐに伝わってくる。年だとか体温だとか感覚だとか暮らし方だとか、いろんなことがね。
そして、ここに出てくる感情は、実にオーソドックスなのだ。人間の「もっとも最初にある感情」ばかりなのである。誰もが身に憶えるのある当たり前の感情。だけど、そんなシンプルな感情でさえ、誰かと関わり、誰かと話し、誰かを感じなければ、生まれてこないモノなのだってこと。この小説は私に思い出させてくれた。
時に、静かな暮らしを望むモノはー良いことであれ悪いことであれーもう、自分に訪れることを望んでいない。必要としないのだ。それは悲しいことではないけれど。ヒトリで居るとき、もしくは良く慣れた誰かと居るとき、私はきっと何も感じていない。喋ることもなければ、書くこともない。読むこともなければ、聴かないかもしれない。そう、何も求めていないのだ。
だけどこの小説は、思い出す。何かを見失いかけては、思い出し、見失いかけては、思い出しして、見つけていく事を。何も起こらない。確かに、何も起こらないかもしれないけれど、私にも、そして、何の変化をも望まないカズヤにも、確かに「起こる」のだ。「もっとも最初にある感情」が生まれてくるのを感じるんだ。それは苦痛を伴うことだけれど。
誰かが訪れ、去っていくかもしれないこと。
淋しくて淋しくて仕方のないこと。
誰かを強く想うこと。
誰かに比べ、劣っているのではと思うこと。
何かが無くなってしまうかもしれないと気付くこと。
誰かを知りたいと思うこと。
誰かを信じたいと強く強く思うこと。
よく慣れたあの人だって、他人だと感じること。
「ごく個人的なところを含めた誰かに伝えたかったことが、夢中になって書いていたときの時間と一緒に、かろうじて物語の中に組み込まれている。本当に、奇跡にも近いようなところで。」
そう書かれた、彼の後書きを読み終えて。果たして、私が言いたかったことは、このレビューの中に組み込むことが出来ただろうかと、考えてみる。それは上手い下手の問答のように、私には結局分からない。だけど「自分のコトバで書く」ということは、出来たと思った。「スキ」ということは言えたと思った。そして、私はそれで良いと思った。
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カセットテープの組み立て工場の生産ラインで働く労働者である主人公の許に、幼馴染でいじめっ子だったかっての同級生が10年振りに現れ、主人公の部屋へと転がり込んでくるコトに。気まずいながらも共同生活を始める二人に時折、主人公の彼女も加わって・・・といった流れ。2人ないし3人はデニーズへ行き、またラーメンを食べに行き、河原を散歩してみたり、酒を飲んだり、近所のパン工場の火事の様子を眺めてみたりして、取り留めのない会話を繰り返す。例えば過去や現在の生活について。そして将来と不安。時折頭の悪い哲学じみた話も交えつつだ。プロレタリアートな正に青春小説。けど、決してビルドゥンクス・ロマンではない。ココには何の教養も教訓も描かれず、例えば3人の人生の方向性を決定付ける様な決定的な事件や出来事なんてのは何一つ起こらない。始まりも終わりも全く同じ調子のままだったりする。小説は淡々と彼らの日常の輪郭と彼らの刹那的な交流とを綴って進んでいくだけだ。そして最後に幼馴染は主人公の部屋を出て行く。予定通りに。けれど決して予定調和を感じさせず、さながら奇跡の跡を思わせるような余韻を感じさせる当たり前と言えば当たり前のような日常的なラストが描かれている。。書かれた文法はあくまで三人称であるものの、実際は一人称であるかのように主人公の周辺が綴られていく。けど、この三人称の文体から生み出される言葉の距離感が、彼女に「よく言えば素朴で牧歌的。悪く言えば無気力で怠慢型。そ、よーするに牛みたいな人なのよ」と形容される主人公の、どこか冷めたような対外的な興味のなさや、その対外的な距離感に重なってイイ感じだったりする。文庫版には解説に高橋源一郎の文書が掲載されており、そこには本書と同様に何も事件を描かない保坂和志の作品を指して「その徹底した事件のなさによって逆に日常の「凄味」を表現した。」と説明し、対して本書をその「凄味」すら回避した、とある。補足して説明すれば、保坂和志の「凄味」というのは日常の隅々にまで視点と思考を張り巡らせることによって日常における緊張感を事件と同等にまで引き上げ描いたことにあり、鈴木清剛におけるソレは思考を表現することを登場人物らの言動に委ね、その輪郭を確実に押さえることにある。故に人によっては素っ気ない、何もない薄い(洒落た)文書だと感じることもあるだろうけど着目すべき点はソコではなく、その俯瞰的な距離感とソコから見た全体像である。その姿が一体どんなモノなのかは、是非一読して感じ取って欲しいトコロ。
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淡々と流れる今を、形を変えた友人と共に。 ありふれた感情を生まれたままの言葉で表現してるなぁと。好みの小説のひとつです。
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レビューはブログにて。
http://tempo.seesaa.net/article/14263005.html
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<小学校時代の友人が、突如オレの六畳にころがりこんできた。断りきれずに始まった男二人の生活。そのうちなぜか居候に親切な彼女のチカも加わり、奇妙な一週間が始まって…胸をしめつけるあの文芸賞受賞作がついに文庫化。>
ミステリーのような非日常が繰り広げられる世界(作品)も好きだけれど、特別なことは起こらないもの・ちょっとだけ変わった日々を描くものも好き。これは恋愛の部分がいまいち解せなかった。
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一週間、他人が自分の領域で生活する。けれども、一向に変化せず、時は流れていく。その一週間は特別変わったことでもないのに、やたらと印象に残る。
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ジャケ買い&タイトル買い。
なんてことない若者の日常。大きな展開もなければ、大したオチもなし。
けど、面白かった。なんだろう、このサラっとした感じ。
主人公の彼女の存在感が◎
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特に大きな山場もなく(キスしたかしてないかのところが唯一の山場?)
淡々と話が進んで、ちょっと拍子抜け。
でも、読みやすかった。
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・1/18 「ロックンロールミシン」につづいてこの人の2作目だ.どっかで聞いたようなタイトルだし、オレンジデイズと間違えてるのかも知れないし、なんだか分からないけど衝動買いしたから読んでみる.
・1/19 あっという間に読了.何しろいまどき(といっても結構前だけど(1998年))の言葉遣いな会話が多く、考えさせる山場もそれほど無く終わってしまったから、結構ページをめくるのがあっという間だった.
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大きな波もなく、びっくりするくらい淡々と続くお話。夢を追うサキヤを見て主人公が変わるわけでもなく日常に帰るだけ。そんなもんだよな人生って。何に魅力を感じたと言われたら少し返答に迷ってしまう。ただ、今の自分にはとても等身大である物語だと思った。他人事とは思えなくて、ああ、わかる。そういうことってあるよなあ。とみんなの言葉に耳を傾けていた。
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表紙の写真をたよりに物語の舞台の構築をみまもっていくと、おどろくほどすんなり入ってきた。青くさいポリシーと生活の実態間に横たわるアンバランスさも若者ならではなのか。
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何気ない生活に転がり込んだ謎多き闖入者がトラブルを持ち込むかと思いきや、何の事なしにおわる。そんな感じがデビューから鈴木清剛
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◇巻末
文庫版へのあとがき(二〇〇〇年・夏)
解説:高橋源一郎「フツーの人たち」
(『週刊朝日』98年3月20日号より)
解説:清水鱗造「行為の輪郭を描く視点 確実に優れた小説への入口がある処女作」
(『読書人』98年4月3日号より)
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主人公「カズキ」が10年ぶりにあった苦手な友人「サキヤ」を家に一週間泊めることなる。そこにカズキの恋人「チカ」も加わって。
カズキが抱くサキヤへのイメージとサキヤそのものの存在は、同じではないような。それは、日常的に私も誰かに抱くイメージというのがそれだけではないんだろうと思わされた。
日常的な雰囲気がすっと入ってくる読みやすい小説だった。
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ふんわり、ぬるく、でも、イラつく事もない流れ・・・何が起こるのかなぁと期待して読み続けても、特に何も起こらない・・・まあ、それでいいか!と思った小説。^^