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紙の本
人を喰ったり、道草喰ったり
2001/06/09 18:32
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投稿者:樋口伸子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまで紹介した詩集は概ね、やさしく正しく爽やかで、詩人の性善説を信じたくなる作品だった。そんなのばっかり、嘘ばっかり、面白くなァい、と、そっぽ向いてる性悪ぶったあなたに、ステップを上げて、ぴったりの一冊を。
平田俊子さんの『手紙、のち雨』は、「タイトル会議」からはじまる、自分の詩だから『自分詩』と、流行のいたって常識的なタイトルから出発して、やさしく包む柔らかなタイトルをという死んだ姉の奨めで、『風呂敷』、『プリンと毛布』。死んだ兄弟が出すのは『燃えろ新宿アカプルコ』、『プッカプー』など。家族ばかりか、死んだ猫もニワトリもおかしなタイトルが連発する。そして、なぜ『手紙、のち雨』になったのか、説明なし。
早くもここで、面白そうと先に行く人と、タイトルにこだわって前に進めない人とに分かれるだろう。はぐらかされるまいなんて、用心して平田詩集を読むのはつまらない。
タイトルにこだわる人なら、とりあえず、雨も手紙も思いもかけない姿で、ひょっこり、あるいはのこのこと出現するから大丈夫。とはいえ、「日々遠のいていくポスト」と題する詩では、<ぬけがらを捨てるように手紙を入れた>のに、<坂道でもない大通りをすべり出し/日々ポストは遠のいていった>という具合。
2聯目の<不幸の手紙を/世界中に発信するのがわたしのつとめ>に、いいぞ、と思っていると、<人もポストも/親しんだあとは/遠のいていくしかないのだろうか/雨の日/傘もささずに歩いていると/死んだ弟を探しているような気分になる>。元気でおかしく、後に少ししんみり。こんな展開になるのは、作者が心から性悪ではないからだ。
行中の言葉と心は常に歩調を合わせて動くとは限らないのだ。片足跳びでもスキップでも、後ろ歩きだっていい。人を食ったり、道草くったりする長詩を楽しんでみよう。
著者は、前作の『ターミナル』で土井晩翠章を受賞。詩の朗読チャンピオンにもなった他、エッセイ、劇作と目が離せない詩人である。
(樋口伸子/司書 2001.06.5)
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