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紙の本
殺人と和解、あるいはいくつも重なりあう物語の声
2000/12/18 21:15
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投稿者:赤塚若樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第2次世界大戦がようやく終結に近づきつつあった1945年5月のこと、プラハでドイツ軍にたいする反乱が起こった。戦争中、チェコがナチス‐ドイツに占領され、「ボヘミア‐モラヴィア保護領」などと一方的に呼ばれていたことを思えば、ドイツ人とチェコ人のあいだにどのような感情的なわだかまりがあったか、そして、そのわだかまりがこの反乱にどんな影響をおよぼしたかはある程度想像できなくもないだろう。占領下のプラハが舞台となる『プラハの深い夜』の物語は、何をかくそう、ちょうどその反乱の最中にクライマックスを迎えることになるのだ。
事の起こりは、同年2月、つまりは反乱の3ヵ月前に起きた殺人事件。この微妙な時期にドイツのとある男爵夫人が、どこか儀式的なところのある残忍極まりない仕方でチェコ人によって殺害され、プラハ警察の若い刑事モラヴァとドイツの検事ブーバックが共同で捜査にあたることになる。事件はその後、民族にはかかわりのない、未亡人を狙った異常な殺人であることがわかるが、手がかりは得られない。そこでモラヴァの提案から「おとり」捜査が行なわれることになった。
同じころ神父からの情報で、殺人鬼がバロック時代の絵画に描かれた「死の祭壇」を再現していること、殺人鬼の母親が、未亡人に心を移した男(つまりは自分の父親)に捨てられていたこと、そして、その名前がリプルであることが判明し、ようやく事件は解決するかに思われた。だが、ブーバックの上司にあたるゲシュタポの隊長がプラハ警察の緊急立ち入り調査を命じたために、「おとり」になっていたモラヴァのフィアンセが殺人鬼の手にかかってしまう……
このような物語をめぐって小説は進行していくが、語りの視点がモラヴァ、ブーバック、そしてリプルというまったく立場のことなる3人のあいだを交互に移動していくために、物語の緊迫感が高まるのはもちろんのこと、くりひろげられる出来事の複数の側面が浮かび上がってきて、いわば重層的な物語構成が実現することになる。そしてそのとき、『プラハの深い夜』はミステリとしてのみならず、チェコ人とドイツ人の民族問題、さらにはチェコの現代史の問題をあつかう小説としても読むことができるようになるのだ。たとえば、ブーバックはモラヴァとともに殺人鬼を追いかけるばかりか、反乱にさいしては民族どうしの無益な殺人を阻止しようと尽力する。だが、そのブーバックが最後には……
じつはこの作品が発表されたのは終戦からちょうど50年目の1995年のことだった。そのときチェコの『文学新聞』に掲載された、「チェコとドイツの和解にたいするコホウトの貢献」と題する書評をめぐって、著者と同紙の編集委員を務める作家ルドヴィーク・ヴァツリークのあいだに論争が起こっている。両者の論点はべつのところに移行していったが、発端は書評者が、作中人物の描き方があまりにも型にはまっている、と批判したことにあった。今回はとくにこのことを念頭におきながら本書を読んだが、どうやらこの批判は、まったく、といっていいほどあたっていなかったようだ。むしろ、これはじつによくできた小説というべきだろう。 (bk1ブックナビゲーター:赤塚若樹/翻訳・著述業 2000.12.19)
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