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丸山眞男の政治思想史は、明治以前の日本の思想を丁寧に扱いながら分析しておりますが、ある程度の仕込みがないとその意図が掴みにくい。そうしたとき、本書『徳川思想小史』は大きな参考になるだろう。新書ですが、内容としてはかなり本格的に網羅。儒学だけでなく江戸期の思想を的確に押さえた好著。いうまでもありませんが、丸山と分離して読んでも問題ない。
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江戸時代の思想を紹介しているコンパクトな本。
安土・桃山時代の日本は、当時のヨーロッパにおけるルネサンスとほとんど違わない精神的境位にあった。だが、江戸幕府による封建制の再編と鎖国政策によって、日本はヨーロッパの近代とは違った道を歩むことになる。その一方で、江戸時代の日本が「潜在的近代性」を秘めていることを見落としてはならない。確かに江戸時代は封建社会だったが、江戸幕府は強固な中央集権的性格を持っていた。また、幕政は老中の合議制によっておこなわれており、老中の下には有能な官僚が組織されて官僚制が実現されていた。さらに300年にわたる治世の中で、経済と教育は大きな成熟を遂げた。これらの契機が、明治以降の日本に受け継がれ、西洋文明を受容して独自の近代化を遂げることを可能にしたと著者は考えている。
本書ではまず、朱子学の中心である「理」および「気」の概念が紹介され、朱子学派の藤原惺窩、林羅山、山崎闇斎らの思想を扱う。ついで陽明学派の中江藤樹と熊沢蕃山、さらに荻生徂徠を中心とする古学派、士道、経済思想、開明思想、国学派の思想が順に紹介されている。最後に著者は、幕末の志士たちに影響を与えた水戸学派や佐久間象山、横井小楠、吉田松陰に触れて、幕末から明治への展望が示されている。
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1973年刊行。◆明治思想を専門とする著者が当該思想を理解するため前史である江戸思想を整理した書。「新書でここまでとは」と思わせる詳細かつ広範な内容。予想以上の先進的かつ合理的な思想に、江戸時代観を大きく揺さぶられた(ただし国学は別。殊に平田篤胤)。儒学でも合理的思考が可能という点も興味深い。「職分にて人は平等。商工は市井の臣。正当利益は欲心ではない」(石田梅岩)、「享保期での開国論・官製貿易の復活主張」(本多利明)、「君臣関係の商品経済的理解」(海保青陵)等。終章は明治と江戸の移行を明瞭に論じ、良。
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中公新書 源了圓 「徳川思想小史」 徳川時代の儒教史
政治思想としての儒教が、ヒューマニズム、武士道徳、商人倫理、経済合理性と結びついた後、幕末志士の思想基盤に変形するまでの徳川儒教の系譜を綴った本
徳川儒教の系譜
*朱子学→陽明学
*伊藤仁斎→荻生徂徠
*武士道
*石田梅岩→富永仲基→海保青陵
*本居宣長→平田篤胤
*水戸学派→幕末志士
話としては、石田梅岩→富永仲基→海保青陵 あたりが現代的で面白い。武士道と国学が幕末志士の思想に至り、近代(明治)の国家独立意識と帝国主義思想を作り上げていったように読める
こうして読むと、司馬遼太郎が描いた幕末志士の英雄譚も 帝国主義に繋がっており、愛憎並存な構造が浮かび上がってくる
荻生徂徠
*政治は道徳から独立→政治は結果が問われるべき
*道は統名なり(道は包括的な性格を持つ)
*臣は君を助けるもの、君の下僕ではない
海保青陵
*臣と君は取引関係(武士にも商業経済の意識を)
*商品経済により利益を上げることは天理である
石田梅岩
*形に由るの心(武士には武士の道、商人には商人の道があり、これを正しく行うことは 天の道につらなる)
*正直と倹約