紙の本
久し振りに小川洋子の短篇集を読んだ。ぼくはこの内の「盗作」と「時計工場」の2篇を読み、巧いので感心し
2001/02/01 18:16
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投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
久し振りに小川洋子の短篇集を読んだ。1998年4月号〜99年3月号までPR誌『本の旅人』に連載したもののようだ。全7篇が収録されているが、ぼくはこの内の「盗作」と「時計工場」の2篇を読み、巧いので感心した。「盗作」は、<初めて文芸誌に採用された小説、(……)盗作だった>とのフレーズで始まる。当時の「私」は<かなりひどい状況>にあり、<最低ぎりぎりのラインに引っ掛かっていたと言って>もよかった。理由は、弟が不良グープに殴り殺されたからだ。21歳の誕生日の10日後のことだった。弟はインターハイにも出たハンドボール選手、大学では美術史を専攻、大学院への進学を希望していた。その後も悪い事しか続かなかった。弟は「私」が家を出た後も両親と暮らしていた。といっても父は別な女と家庭を持ち、母は神への祈りに逃げ込んでいた。「私」は下手糞な小説を書いて弟に送ると、彼はいつも、鋭い考察の長文の手紙をくれた。不幸の留めは交通事故で、「私」は全治三か月の重傷を負う。退院した「私」は、リハビリのため通院していたが、ある日、同じ病院に通う美女と知り合う。弟が殺されて9か月が経っていた。彼女は腕を悪くした弟の見舞いに週に一度、火曜日に病院に通っていた。何度目かに会った時、「私」は思い切って「弟さんのことを聴かせて欲しい」と彼女に頼む。入院中の弟は三歳から水泳をはじめた背泳の選手、ジュニアオリンピックの候補にもなった。母親は弟の記録更新だけが生き甲斐となり、自宅の庭に15×7メートルのプールまで作る。弟は、人の死の予知能力があったが、いつの間にか口にしなくなっていた。泳いでいない時、彼はいつも部屋の隅にいた。その弟が世界ジュニア選手権に出発する一週間前、左腕を上げたまま降ろさなくなり、選手生命はそこで終る。それから5年後、父も死ぬ。弟は入院してすでに10年になるらしい。「私」はようやく顔のプロテクターを外し、小説を書き始める。小説『バックストローク』は出版社に売れ、それが「私」のデビュー作になる。「私」は7年ぶりに、生まれたばかりの息子をベビーカーに乗せ、リハビリ棟に行く。たまたま火曜日と知った「私」は、精神科病棟に行ってみると、そこの談話室に英語のペーパーバック『BACK STROKE』があった。表紙はすり切れ、変色もしていたが、著者は1901年生まれ、見知らぬ女流作家だった。そこには彼女が語り、「私」の書いた「物語」があった。
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赤ん坊の息子とラブラドールのアポロと小説家の「私」を取り巻くあれこれである。
一瞬、エッセイかと思うように物語ははじめられる。しかし 読み進むうちに 不思議物語に吸い込まれてゆく。時計を巻き戻したり進めたりしながらも 筋は乱れることなくひとつに縒り合わされているように思える。それが エッセイに見える理由のひとつかもしれない。
不思議で やさしく 魅力的な物語たちである。
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題名の割に不幸な主人公。文はやはり美しいけど、なにか物足りないなー。あ、でもその物足りなさが余計に不幸な雰囲気を出しているのかも。
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2011.11.21. この本の持つ雰囲気は、小説というよりはエッセイに近いです。特に「キリコさんの失敗」が好き。
2007.03. 小川さんの文章は、やはりいい。この本はエッセイなのか小説なのか。その真ん中あたりをうまく漂っている感じ。本文に出てくる小説、それは「完璧な病室」でしょ?「ホテル・アイリス」のことでしょ?と思ったり。どこまでが本当のことなのか、最初は気になったけれど、読み進むうちに本の世界に吸い込まれていった。
★5つ
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作家の主人公の周りに起こるいろいろな話。連作短編集、と言うところか
小川洋子さんの小説を沢山読んだ人なら、どこかで聞いたような話が出てきた、と思うことが何度かあるのではないだろうか。そのせいか、エッセイのように感じることがあるかも。
わりかし、ほんのりする話が多い。もちろん、ちょっと不思議な世界でもある。
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まるでエッセイ?と思うような短編集。小川さんの文章を読んでいつも感じるのは、透明な不幸感と、しんとした静けさ。
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「博士の愛した数式」とは、また一味違った作者の魅力が光る短編集(語り手は同一人物だけれど)。一つ一つのストーリーに、何か薄暗い影がつきまとっているみたいに感じた。ポケットだらけの服を纏い、死んだはずの「弟」であると名乗る男、雨に降り込まれた「私」と病気の犬を助けてくれた不思議な獣医さん、南の島で出逢った、物理学ぎりぎりのバランスで果物の入ったかごを背負う老人。そして「私」の恋人であった指揮者。皆、どこかから来て、どこかへ去っていく登場人物たち。
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書くことに苦労をしている作家のおはなし。 途中まではエッセイかと思って読んでいました。 最後には、別の作品の登場人物が出てきます。 やっぱり小川洋子さんには魅かれるなあ、と思う一冊。
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時系列はバラバラですが、全ての話は繋がっていて
不思議な空間がそこには広がっています。
時に恐怖を感じるような場面でも、
とにかく表現が美しいのが印象的でした。
「涙腺水晶結石症」と「失踪者たちの王国」が好きだな。
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弟が生き返ったと錯覚したわけではない。やはり彼は死んでいる。プールに手をのばしても、彼に触れることはできないとよく分かっている。それでも私は絶望していない。物語に自分を委ねているだけだ。彼女の声は悲しみを語るときでも優しく、何者も決して拒絶しない。
(P.63)
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女性小説家が自分の身の回りで起こったことや出会ったものを
記した、雑感録のような連作集です。
主人公の小説家は、自分が記したことは何でもないことのように書きます。
まるで、日常の生活の中でいくらでも起こりうるとでも言うかのように。
しかし、読者の目から見ると、それらはひどく奇妙なものです。
失踪者、水のつまった袋、首筋に蝶の形の痣がある老人と指揮者、
自転車のカゴに毎日入れられているパン、涙腺水晶結石症、
主人公の著作を全身に身につけて生活する男…。
主人公自身も、ありふれたことのように書いているが、何処か変だと
感じているのかもしれません。
「世界の縁に追いやられる」感覚を味わえる作品でした。
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エッセイ風の連作集。左手が挙がったままになる水泳選手とか、他にも作者の短編作品が出てきます。(私が気づけないものもあると思う)飼い犬のアポロ、キリコさん、見知らぬ弟と登場人物も多彩。作者の作品を沢山読んでからの方が面白い筈。図書館で借りたけど、文庫本欲しいです。
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私を取り巻く世界は一向に進展していなかった。すべてがただ後退してゆくばかりだった。私の胸には悲しみの泉が出現していた。それは深く、不透明でしびれるほどに冷たかった。 愛犬が病気になっちゃう章、結末がわかるまでは犬好きな人はつらいです
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あまり抑揚のない静かな話。だがどこか異質な雰囲気を帯びたストーリーは時折自分まで異空間に連れて行かれそうな気がする。「博士の愛した数式」のイメージで読んだのでとても新鮮な気もした。ただ、後半になると徐々について行けなくなる部分も…。
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2010/08/14 怪我したりお金がなかったり病気になったり気を病んだり、なんだか落ち着かない読み心地だった。挿絵のわんこがかわいい。