紙の本
ミステリの枠を超えた重層的な小説
2002/02/27 14:08
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投稿者:Snake Hole - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカ人が書いた中国チベット自治区 (というべきか単にチベットと言うべきか) が舞台の,中国人を主人公にした宗教絡み骨絡み (題名の通り) の「『薔薇の名前』的ミステリー」である。
いや物語の設定上しょうがないんだが,ヒトの名前が漢字 (中国人は漢字だ) だったりカタカナ (チベット人やアメリカ人はカタカナ表記である) だったりするだけでややこしいのに,それに加えてあんまり馴染みのないチベット僧院における宗教上の地位だの地名だのも断わり無しにカタカナで出現させるので読み初めから100ページほどはかなり苦しんだ。…どうすればいいのかは解らないが,翻訳に一工夫欲しいかも。
まともかく,なんとかそのあたりの関係が飲み込めてしまうと,いやこれは単なる推理小説としてだけではなく,中国のチベット支配に対する問題提起小説としても,一人のチベット僧侶を主人公にした教養小説としても,チベット仏教の神髄 (もちろんアメリカ的理解によるそれなんだけど) を語る宗教小説としても読める,重層的な読みごたえのある小説ではないか,と思えて来る。いや面白うございました。
物語のあらすじには触れないでおく。そういうものを書くとこれから読む人の意識が「あらすじ」という一本道を辿るだけになってしまうだろう,この小説はそういう風に読むとつまらない種類のものだと思う。もちろん主幹であるミステリとしてもよく出来ている。さすがに2000年度のMWA (アメリカ探偵作家クラブ) 最優秀処女長編賞受賞作であった,とだけ書いておこう。
あっと一ケ所だけ難くせをつけると,主人公が子供の頃父親から習ったという占いの書物は記述から間違いなく「易経」のことなので,これを指して「老子の書いた本」というのは作者の間違いである。翻訳者の三川さんが下巻末の解説で「ストーリーの内容と結びついている部分はむやみに直すわけにもいかず云々」と書いているのがこの部分か,と思う。
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推理小説はあんまり読まないのですがこれはとても面白かったです。かなり硬派小説です。
中国とチベットの関係を浮かび上がらせています。これを鵜呑みにしてよいのかはまた色々な視点から勉強をしていくのが良いと思われます。
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経済犯罪を摘発する捜査官として北京で活躍していた単道雲(シャン・タオユン)。政府高官の犯罪をあばこうとして逆に政治犯扱いされてチベットの強制収容所送りに……身も心もボロボロになったシャンは、そこで出会ったチベット仏教の教えにより生きる力を取り戻す。そのシャンが政治犯の身分のまま、とある殺人事件の捜査をまかされ、そして……チベットの厳しい現状、中国の暗部、チベット仏教や道教の教えなど、ミステリとしてはかなりユニークな世界が展開している。トーンは暗いけど興味深い作品。
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同一主人公で、自分が知ってる限り三部出てます。
大地震があった、あの近辺の話。
いろいろ考えさせられるお話ではあります。
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久々に再読。
やっぱりとーっても好きな本です。
チベットの奥地にある強制労働収容所が舞台。
そこに収監されているひとりの中国人・単(シャン)が収容所のそばでおきた首なし殺人事件を、
元中国経済部主任監察官だったために、命令で事件を解決しないといけなくなります。
本書では謎解きももちろん精密でとってもおもしろいのですが、さらに興味深かったのは
チベット仏教の行事や習慣なども詳しく説明していて、翻訳もわかりやすいと思います。
あんなに平和的なチベット仏教の人々を、なんて惨いことをするのだろう!と中国政府に腹がたちます。
もちろんステレオタイプに考えちゃいけないないのもわかりますが。全部の中国人がそうだとは思わないけれど。
単のように少しずつチベット仏教に惹かれていく人もたくさんいると思います。
だって道教だって仏教と関わり合いがあるしね。
中国人の心のベースにはやっぱり仏教があるんじゃないか?って思います。
私もよくこちらで「宗教はなに?」って聞かれるけど、
私はいつも、「無宗教だけど、きっとベースには仏教があると思う。」と答えます。
早くチベットに平和がもどり、ダライ・ラマ14世も帰ることができたらと願わずにはいられません。
実は元夫と1995年にカトマンズからラサまで旅行をしたことがあります。
それに亡命した途中両親を失ったチベット人の子供たちを養子縁組しているドイツ人もいます。
息子の小学校のクラスにもひとりいました。
そんなこんなで私がチベットに対して思いいれがあるから本書を楽しめたということもあるのかもしれません。
でもでも!チベットやチベット仏教のことを知らなくても本書を楽しめるということは請合います!
そして、多くの人に知って欲しいです。
チベット自治区での圧政や人権侵害を今でも行われているという事実を。
去年からまた抗議の焼身自殺が始まっています><
本当、チベット人の人々が平安に暮らせるようになってほしいです。
ん・・・なんかチベット問題ことばかり書いたようになっちゃったけど、
ミステリーの方もうはーーってなるシーンもたくさんありますよ^^
チベット仏教が大いに絡んできます
本書は2000年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀処女長篇賞を受賞しています。
残念なことに英国推理作家協会のゴルド・ダガーはとれませんでしたが、シルバー・ダガー賞も受賞しています。
上・下巻にわかれていますが、読み始めたらあっという間に読めると思います。