オペラの歴史について断片的な知識や経験を統合してくれる愛好家必読の書
2010/11/21 21:31
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
歌劇と呼ばれているオペラの歴史を紐解いたものである。とは言っても、単なるオペラ史ではない。著者の解説を読むと、歌劇場の雰囲気の歴史だとあった。雰囲気なんてものに歴史があるのかと疑問を持つ方もいるであろう。
そういう点では、雰囲気とはオペラの歴史そのものといってもよいのかも知れない。オペラは王族、貴族のものであったが、次第に大衆化、民主化してきたわけである。特権階級のものであったオペラが国民のものになってきた。この間に主役は次々と交代していく。当初は王族、貴族であったが、それが台本作家の時代であったり、作曲家の時代であったり、興行主の時代であったりで、なかなか面白い。
時代の順を追っていくと、バロック・オペラ、オペラ・セリア、モーツァルトの時代に入り、オペラ・ブッファ、グランド・オペラ、国民オペラ、ワーグナー以降と分けられて書かれている。バロック時代のオペラは浪費、儀礼、予定調和という基本的な性格がある。これらはオペラが王侯貴族のものであることから来ている。
グランド・オペラ、国民オペラとなるに従って、オペラの大衆化傾向が見えてくる。この間、グランド・オペラの時代になると、オペラ座の経営も問題になってくるのだが、現在の環境とそれほど変わっていない。つまり、同じ問題を相変わらず抱えているのである。
本書はサントリー学芸賞を受賞した書籍である。さすがに分かりやすい説明に感服した。断片であったオペラに関する知識や経験が本書によって見事に統合されて一貫性のあるものになったといっても過言ではない。それほど歴史について明快にしてくれた。
オペラについて早わかりで、しかも芯を外していない書としては真っ先に推薦できるものである。10年前に著されたものであるが、当然古さは感じさせないし、切り口も斬新で読みやすい。ただし、オペラ・セリアを解説するところで、当時の台本作家であるメタスタージオが台本を書いた『皇帝ティトスの慈悲』についての記述が気になった。
これはモーツァルトが作曲したもので、彼自身の最後のオペラである。ご存知のようにモーツァルトの傑作三大オペラなどのオペラ・ブッファはいずれも最後期の作品であるが、最後のこのオペラはどういうわけかオペラ・セリアである。著者はこのオペラの台本と音楽を腐しているのだが、オペラ・ブッファに食傷気味の私のような愛好家には、きわめて新鮮味のある作品であると思う。是非、愛好家には聴いてもらいたい曲なのである。
オペラは台本も大事であるが、やはり評価の対象になるのは曲である。そういう点ではこれもまた傑作なのである。たしかに、ストーリーや配役の女声、男声の割り振りなどは不自然さを免れないのだが、著者は実際にこの曲を聴いてから評価しているのだろうかという疑問が湧いてきた。
オペラ劇場という『場』の歴史を描く
2003/01/24 23:04
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投稿者:メル - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、文句無しに面白い本。私は、音楽は全く無知だし、オペラなど見たことも聴いたこともないのだけど、それでも充分に楽しく読めた。たぶん、本書はオペラ入門としてけっこう優れた本ではないだろうか。
面白いのは、オペラの歴史を作品や作曲家を中心に語っていくのではなく、オペラが演じられる場(そこにはオペラを観る観客も含まれる)の歴史を語っていることだろう。著者はこう述べている。《「オペラ劇場という『場』の歴史を辿るという主題。あえて言えば「オペラ劇場の雰囲気の歴史」になるだろうか》。
そのような視点でオペラの歴史を見ると、オペラがもともとは王侯貴族の社交場であったが、フランス革命を経てブルジョワの台頭によって、オペラを芸術作品として鑑賞する場へと移って行く。その最高到達点としてワーグナーが現れる。その象徴として、1868年6月21日、ミュンヘンでの『ニュルンベルクの名歌手』の初演での出来事がある。そこで、《オペラ作曲家による王位の「簒奪」》と述べられているが、ワーグナーはルートヴィッヒ二世とともに貴賓席に座ったという。こんなことは、想像も出来なかったことらしい。王を差し置いて観客の喝采を浴びるワーグナーがいる。そんな劇場の様子が思い浮かぶ。ワーグナーがオペラの歴史の中でいかに大きい存在であったのか理解できるだろう。
しかしながら、そんな絶頂期を迎えていたオペラも第一次世界大戦後に下降線をたどる。新しいメディア、そう映画の誕生がオペラの運命を変えるだろう。映画の現実性の前に、非現実的なオペラは衰退していく。だが、映画はオペラの恩恵を大いに受けていることを忘れてはならないだろう。オペラと映画の繋がりも本書では指摘されている。たとえば、グランド・オペラ。これは、七月王政時代(1830年〜1848年)にパリの王立オペラ座で上演された記念碑的な規模を持つ五幕の歴史劇のこと。この壮大の規模のオペラの工夫として、観客が見るだけで、舞台を眺めていれば筋が理解できるようになっているというのだ。それゆえ、《グランド・オペラこそは、二十世紀の映画・テレビ文化にまでつながっていくところの、ビジュアル娯楽の先駆だった》という。この指摘は、映画を考える上で非常に有益である。現在のハリウッド映画との繋がりが思い浮かぶ。
こんな風に、本書はオペラを様々の角度から論じており、それらを合わせていくと、各時代のオペラ劇場そしてそれを取り巻く人々の雰囲気が伝わってくるようになっている。したがって、オペラって何?という初心者にも、とても読みやすいオペラ入門書となっているだろう。
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投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
オペラのれきしについて、しっかりと描かれている本は少ないので、ありがたかったです。オペラ好きには、ぜひ読んでもらいたいです。
オペラとは何か、そしてその魅力はどこにあるのか。この難問を独自の視点と歴史的な見透しの下で解明する。
2001/08/14 15:15
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投稿者:大笹吉雄 - この投稿者のレビュー一覧を見る
黙って座ればぴたりと当てる……だったか当たるだったか、こういう占いのコピーがあったように覚えるが、このヒソミにならうと、本書を読めばオペラがわかる。しかも記述が平易で面白く読めて、読み終えた時にはオペラのすべてがわかっている。オペラへの案内書として最上のものの一つだろう。
一部に熱狂的なファンを持つ反面、食わず嫌いを通り越して嫌悪感をさえあらわにする人が珍しくないのが、今もなおオペラへの一般的なリアクションだと言って間違いではない。なぜそうなのか。この謎を本書は見事に説き明かしてくれる。
著者によれば、オペラとは絶対王制(バロック時代)が始まる十七世紀に、中央ヨーロッパのカトリック文化圏において、宮廷文化として誕生し、フランス革命以後は新しく台頭してきたブルジョア階級と結合し、十九世紀にその黄金時代を迎え、第一次世界大戦後の大衆社会の到来とともにその歴史的使命を終えたところの、音楽劇の一ジャンルである。
書き上げると仰々しいが、こういうオペラのあり方をその誕生から終焉まで、豊富なエピソードでつづっていく筆致は明快で、一気に読ませる。ことに本書の特色である単なる作品史や観客史にはしないで、オペラを支えた場、オペラ劇場の雰囲気の歴史にしたいという著書の視点が新鮮でもあり問題提起にもなっていて、並の類書とは位相を異にする。が、このことが作品への言及をカットするということではなく、二者をうまく融合させているのが著者の手腕だ。たとえば「モーツァルトとオペラの『人間化』」と題された節。
バロック時代の宮廷祝典行事だった舞踏会や祝宴や馬上試合などの一種のイベントの、その一つの催しとして生まれ、ギリシア神話と古代の英雄をモチーフとして、カストラート(変声期前に去勢された男性歌手)の超絶技巧をフル活動させるとともに、寓意的な国王賛美に終始していたオペラ・セリアは、アリア中心主義だった。のみならず、アリアで表現される感情と音楽表現もパターンが決まっていた。
モーツァルトも十四歳の時に『ポント王ミトリダーテ』というオペラ・セリアを作曲したが、ここではパターン通りの設定にはじめて生きた人間の感情を通わせ、等身大の人間としての表現を与えることに成功している(著者による作品分析がある)。そしてモーツァルトをしてそうさせたのは、没落する貴族階級に代わってのブルジョア階級台頭の兆しであり、社会変動の予兆であった。事実、オペラはやがてモーツァルトによってはじめて、対話する人間の登場するオペラ・ブッファの時代を迎える。その時劇場を埋めたのは、貴族に憧れる成り金のブルジョアだった。貴族社会の残映と市民社会の熱気の中で、オペラはもっともオペラらしい衣裳をまとう。
オペラの途方もない浪費性が、ハリウッド映画に流れたという興味深い指摘もある。そう言えば『風とともに去りぬ』のあの音楽は、どこやらオペラ風でもあったと思い当たる。本書はそういう幅をも持っている。 (bk1ブックナビゲーター:大笹吉雄/演劇評論家・大阪芸術大学教授 2001.08.15)
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「西洋音楽史」が面白かったので。オペラも伝統芸能のようにすごく「型」が決められた芸術だったみたい。20070203
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オペラというとんでもない金食い虫が、いかにしてスポンサーを王侯貴族からブルジョワ、さらには一般大衆へとシフトしていくかという変遷とともに、「芸術」としてその「作者」が神のいない時代の神として君臨するまでの物語として、要領よくまとめられている。
映画との類似性がよく言及されるのもわかるが、著者は映画の知識には乏しいとみえて「ひまわり」をニーノ・ロータの作品と間違えたりしている
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歌つきの演劇なら、ミュージカルもあるいは能なんかもそうなのに、オペラをオペラだと言い切る要素ってなんだろう? と以前から思ってました。能とはさすがに違うだろうとは思えるけれど、オペレッタなんてものもあるし、オペラの定義がわからない。
そんな無知な私に親切な手引書でした。
オペラの個々の作品を解説したものではなく、オペラがいつごろどうした状況で生まれて発展し、現在はどんなふうに落ち着いているかという、一種の歴史書。
その歴史についても、作品の作り方や特徴だけではなく、オペラが生まれ上演された時代の空気を中心に書いてくれているので、私のようなオペラの素養がない人ばかりじゃなくて、オペラ愛好家の方にとっても新鮮な知識を提供してくれる本ではないかなと思います。
とりあえず、オペラってこんなものという雰囲気はつかみました。
映画や小説に出てくるオペラ劇場の貴賓席やボックス席ってなんであんな舞台の見づらい場所にあるんだ?という疑問が解決されたのが個人的には一番嬉しかったポイントですね。
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現・京都大学人文科学研究所准教授の岡田暁生による、西洋オペラ通史。2001年度サントリー学芸賞(芸術・文化部門)授賞。
【構成】
はじめに 「オペラ」の定義を兼ねて
第一章 バロック・オペラへの一瞥、または、オペラを見る前に
1 オペラ芸術の土台としてのバロック・オペラ
2 「モーツァルト以前のオペラ史」のあら筋
3 オペラの三つの根本性格
第二章 モーツァルトと音楽喜劇、または、オペラの近代ここに始まる
1 オペラ・ブッファの勃興
2 モーツァルトとオペラの「人間化」
3 女、女、女-モーツァルトとエロス
第三章 グランド・オペラ、または、ブルジョアたちのヴェルサイユ
1 革命・ナポレオン・王政復古の時代
2 七月王政とグランド・オペラ
3 グランド・オペラの経営戦略
第四章 「国民オペラ」という神話
1 国民オペラの成立
2 「国民オペラ」のいかがわしき正体
3 そしてオペラは海を行く
第五章 あらゆる価値の反転、または、ワーグナー以降
1 リヒャルト・ワーグナーの欺瞞と偉大さ
2 オペラの芸術作品化
本書は、著者が冒頭に述べているように、オペラ作品を年代毎に解説するようなものではない。評者である私自身、オペラ作品に接することがほとんど無いため、作品の内容を説明されても、それが具体的な楽曲と結びつくことはほとんど無い。しかし、それでもオペラ作品ではなく、オペラ作品を受容する文化的・歴史的背景に目を向ける本書では全く苦にならないのである。
バロックに源を発するオペラは、王侯貴族からの莫大な出資を背景にした絢爛豪華な消費スペクタクルであった。型どおりの筋に型どおりの音楽がつけられた作品が数多く制作され、オペラを楽しむ貴族階級にとっては、作品の内容そのものよりも、劇場内で「社交」を展開することにこそ意味のあったのである。
18世紀末にフランスで起こった劇的な革命の前後から、オペラとオペラ劇場の歴史は転回する。革命以前から著しい衰退を見せていた封建的権威者達は、もはやかつて絶対主義王政の時代のごとき享楽に大金を投じる力を持たなくなった。そして、モーツァルトという人間劇としてオペラを描く天才が現れた頃から、オペラ劇場の主役が貴族階級から市民階級とりわけブルジョワ階級に移り変わっていく。
革命以後のフランスで人気を博した「グランド・オペラ」では興業的側面が強調されるようになったが、それでも新たな成金ブルジョワがかつての貴族階級のまねごとをするための社交場であることには変わりがなかった。
このブルジョワ的オペラが、19世紀半ばの「国民国家」形成期の「国民オペラ」の成立を経て、さらに観客の裾野を広げていく。ここにおよんでオペラ劇場にはかつてのような「社交場」としての雰囲気は大きく薄れ、一般市民が作品を楽しむ場としての性格が強くなった。そして、ワーグナーが出るに及んで、バイロイトに象徴されるような襟を正して作品鑑賞をする場としての劇場、私語など挟まずに作曲者の作り上げた音響を静かに聞き入れる観客が成立したのであった。
ある種のスノビズムが漂うオペラ劇場という場に焦点を充てた本書の視点は、オペラ作品を知らなくても18~19世紀のヨーロッパ文化の一端を垣間見ることができる
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[ 内容 ]
オペラ―この総合芸術は特定の時代、地域、社会階層、そしてそれらが醸し出す特有の雰囲気ときわめて密接に結びついている。
オペラはどのように勃興し、隆盛をきわめ、そして衰退したのか。
それを解く鍵は、貴族社会の残照と市民社会の熱気とが奇跡的に融合していた十九世紀の劇場という「場」にある。
本書は、あまたの作品と、その上演・受容形態をとりあげながら「オペラ的な場」の興亡をたどる野心的な試みである。
[ 目次 ]
第1章 バロック・オペラへの一瞥、または、オペラを見る前に
第2章 モーツァルトと音楽喜劇、または、オペラの近代ここに始まる
第3章 グランド・オペラ、または、ブルジョアたちのヴェルサイユ
第4章 「国民オペラ」という神話
第5章 あらゆる価値の反転、または、ワーグナー以降
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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オペラが王侯の祝典の一形式として誕生し、フランス革命以後は徐々に一般に開かれた民主的な娯楽になり、十九世紀末から二十世紀初頭になると近代的な意味での、芸術へと変貌していく。そして第一次世界大戦以後は、映画にその地位を奪われていった。
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「オペラ」という空間が、それぞれの時代の人たちによってどういう使われ方をしていたか、どういう場だったかについて焦点をあてている本。したがって作品集ではなく、逆にオペラを知らない私のような人間でも楽しく読み進めることが出来た。
「オペラ」、あるいは舞台・演劇の類は、舞台の前面に客席があって、俳優と観客が向かい合う…という構図をイメージしがちだが、初期のオペラには実はそういうものはなく、側面のボックス席こそが貴賓席であったという。つまり、貴族にとってはオペラは鑑賞するものでなく、社交の場であったということらしい。
こういう視座というのは、「当時の人が実際にどう使っていたか」を理解しないと得られない知見だと思われる。得てして歴史というのは過去を過度に美化するか、逆に現在の視点から見下ろすように批難するかに分かれがちだが、この本はその辺がクールで好感が持てる。なかなか面白い。
万事、背景や歴史を知っておくと正当さや深みが醸し出せるのではないでしょうか。
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ストイックなバッハ、交響曲系列のクラシック音楽とはひと味違う、華やかでバカバカしいオペラ文化を学べた。
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平坂書房で購入する。著者は、「西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 」等の著書で著名な京都大学の先生です。再読です。僕にとって、オペラと言えば、「オペラ座の怪人」ではなく、「オペラの怪人」です。オールナイトニッポンの2部での伊集院光さんのキャッチフレーズでした。普通に話せばいいのに、歌にして、意味なく美声を張り上げるキャラクターでした。僕は、このキャラクターが大好きでした。伊集院さんの人気があがってくると、このキャラクターを封印します。当然の選択ですが、残念です。このキャラクターは、オペラに関するイメージです。これは、僕だけのイメージではなく、世間一般のイメージだと思います。この新書によると、20世紀に入ると、このイメージは、ヨーロッパでも同様なようです。本来、オペラに入ってくるべき人材が、映画業界に行ってしまったことが最大の問題のようです。特に、ジョン・ウイリアムスは残念だと指摘している。
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音楽学者の岡田暁生氏が17世紀から19世紀にかけてのオペラの歴史をまとめたもの。いわゆる有名作品の見どころや内容解説、有名な作曲家紹介ありきのオペラ史ではなく、オペラ劇場という「場」の歴史を辿ることに主眼が置かれており、当時の社会情勢や風俗などを絡めてオペラ史やオペラ作品の成り立ちが解説がされており、とても面白く読めました。モーツァルトの先見性と良くも悪くもワーグナーの影響力の大きさを再確認しました。音楽史の本ですが、広くヨーロッパ史などに興味がある人にもおすすめ出来ます。
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2013年はジュゼッペ・ヴェルディとリヒャルト・ヴァーグナーの生誕200周年にあたることから、再読しました。ヴェルディのオペラはイタリア統一運動(リソルジメント)の精神的支柱のひとつとされ、「Viva! VERDI!(ヴェルディ万歳!)」に「イタリア国王ヴィットリオ・エマヌエレ(II世)万歳!」の頭文字を重ねていた、という記述は、例えば中公文庫旧版の『世界の歴史』にも描かれていた有名なエピソードでしたが、同じ中公文庫に収められた新版『世界の歴史22近代ヨーロッパの情熱と苦悩』では、そうした記述は見当たりません。また、比較的新しいヴェルディの評伝小畑恒夫『作曲家◎人と作品 ヴェルディ』(音楽の友社、2004年)でも、そうしたヴェルディとリソルジメントとの直接的な関係は注意深く疑問が出されています。本書第四章「「国民オペラ」という神話」ではこうした疑問に納得ある回答を示しています(実際、小畑氏の本はこの部分を参照しているとのこと)。現在でもこうした指摘がある一方で、「ヴェルディ神話」は健在のようではありますが。。。
本書全体については、著者は前書きでオペラの定義を、1)絶対王政(バロック)時代が始まる十七世紀に、2)中欧ヨーロッパのカトリック文化圏において、3)宮廷文化として誕生し、4)フランス革命以後は、新しく台頭してきたブルジョア階級と結合し、5)十九世紀にその黄金時代を迎え、6)第一次世界大戦後の二十世紀大衆社会の到来とともに歴史的使命をおえたところの、7)音楽劇の一ジャンル、と明示しています。
そのうえで、オペラとその受容の歴史をたどる本書は、単なる音楽史の領域を超えて、ヨーロッパ社会文化史のコアの部分を照射する刺激的な論考となっています。巻末の参考文献やディスク紹介も参考になります。