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紙の本
幸せの定義と死への恐怖
2002/07/11 15:32
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投稿者:はづき - この投稿者のレビュー一覧を見る
『MENU』『検温』『フィエスタ』『姫君』『シャンプー』の5作品が入った本。やはり山田詠美に共通して見られる幸せの定義と死への恐怖が感じられました。1ページ目からいきなり人が首を吊って死んでいるあたりが衝撃的であり、生きているものにより「生」を感じさせます。何で幸せの絶頂で人が死んでいったりするんでしょうかねえ。この本には特に共通して見られるような気がします。これからやり直そう、生まれ変わろう、生きて行こう、幸せだ、って思ってる矢先に死が訪れる。少し残酷な感じもするのに、幸せな気持ちも残していってくれる作品です。
紙の本
読みやすいようで今回のテーマは難しい
2002/03/25 14:04
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投稿者:朱鷺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
雑誌の山田氏のインタビューで、短編は一冊テーマを決めて書く、という意味の事をおっしゃっていましたが、今回は「生と死」。今までにも、生と死を扱った氏の作品は『アニマル・ロジック』や『時差ぼけ回復(ぼくは勉強ができないより)』『眠りの材料(4Uより)』などに見られますが、今回はかなり深く突っ込んでいる気がします。生と死を様々なモティーフに投影して書かれているし、氏独特の比喩もふんだんに使われているので、多少難解ではないかと思います。が、そのぶんいつも以上に読み応えもあります。
そのなかでも表題作の「姫君」と「MENU」は読みやすいほうです。ストーリーラインは皆さん紹介していらっしゃるので割愛。どちらも、まったく違う二つの性質が引かれあい、反転するさまを巧みな筆致で描いています。
山田氏は長編も良いけれど、やはり短編向きの作家だと言う気がします。『4U』『マグネット』『姫君』と、絶好調ですね!!
紙の本
大切な人を失う恐怖
2001/09/13 23:08
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投稿者:nory - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここに書かれている5つの物語に共通することは、自分が必要とする人を失う恐怖である。
大切なものを手に入れたとき、次にあらわれる変化はそれを失うことだ。それが大切であればあるほど、喪失の恐怖は大きくなる。対象が物であれば執着といわれるかもしれない。しかし、人であればそれは愛と呼ばれる。
人に必要とされてしまったら、自分の自由は制限される。ほんのささいな日常生活も、あるいは死ぬことさえも。自分が死んだら確実に悲しむ人がいるとわかっているとき、命は自分ひとりのものではなくなる。
人を必要としてしまったら、その人の自由を制限してしまう。愛はひとつの重荷となり、目には見えない足枷となる。そしてその人を失うことを考えると、どうにかしてその運命から逃れたいと願う。そんなことはできはしないのに。
登場人物たちは喪失の怖れから何も手に入れようとはしない。失うくらいならはじめから心を閉ざしてすべてを拒絶するのだと思っている。
しかし、彼らはだんだんと失うことの悲しみの深さこそが愛の深さだということに気づいていく。恐怖はなくならないけれど、その恐怖がいまの幸せを際立たせているのだと思う。不自由も重荷もまた、愛の付加物にすぎない。
私が一番好きなのは、表題作でもある『姫君』だ。決してカッコよくはない摩周とわがままな姫子。どちらがどちらの面倒をみているのかわからないようなふたりの不思議な組み合わせは、愛しくて哀しくてうらやましい。こういう愛のかたちもあるのかと心が震える。
紙の本
愛することは、喪うこととと表裏一体。
2001/08/20 18:06
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投稿者:ミンミン - この投稿者のレビュー一覧を見る
5つの短編からなっているが、なかでも表題作の「姫君」が秀逸。
世界に対して自ら源氏名を付けた、誇り高き放浪者(ホームレス)の姫子と、そんな彼女に魅せられた末に、ただひたすら従い、尽くすことに歓びを見いだす、ミュージシャン志望の好青年。
できるだけイーヴンでいくべし、という世間の風潮とは真っ向から対立するこの風変わりな関係は、決して対等な関係になってはいけないという、二人の防御精神によってあやういバランスを保っている。そのバランスが壊れ、困惑の末にお互いが見いだした結論は…。
へんてこだけど、愛すべき二人の浮き雲みたいな恋と、結末とのコントラストが素晴らしい。−相手を喪うことを恐れたときに愛がはじまるのだとしたら−、その切なさ、はかなさを、ここまでギリギリのラインで描く人を他に知らない。
恋をしている人も、これから恋をしたい人にも読んでほしい一冊です。
紙の本
表題の「姫君」が一番良かった!
2001/07/17 13:59
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投稿者:きゅーり - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初テーマが「生と死」だなんて、彼女らしくないと思ってしまいました。
だけど読み進むうちに「彼女にとっての生と死のイメージ」を切ない思いで読んでいました。彼女のエッセイが好きな人にも、気軽に読める本だと思います。
紙の本
幸せな山田詠美は一体どこへ行くのだろう
2001/07/13 20:01
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投稿者:hyou - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨日は、本屋さんに行った。そうしたら、山田詠美の新刊「姫君」が出ていた。買おうかどうしようか迷ってやっぱり買ってしまった。で、家に帰ってひとしきり読んだ。
山田詠美の短編集はあまり好きじゃない。長編に比べて陳腐な感じがするから。簡単に大切なことを言おうとしている感じがすきじゃない。どちらかというと、彼女は不器用なたちなんだから、たくさん言葉と情景をつなげないと本当に伝えたいことの真意を伝えられないのに。でも買ってしまって読みました。ふぅ。私の中では、「アニマルロジック」で山田詠美は何かを確実につかんだと思ったんだけど、そのつかんだ後の空虚感が出ている短編集だった。
だから、4Uよりはずっとましな短編集に仕上がっていたとおもう。(あくまで個人的実感)山田詠美は幸せなんだと思う。その中にいる空虚感と失うことの恐ろしさが、十分ではないけれど、表現できていたかな。何かをつかんだ空虚さと、幸せな中にいる自身の二重の空虚感とで、きっと今の山田詠美にしかかけない個人的な小説になっていたんじゃないかしら。これから山田詠美はどこに行くんだろう。生と死を考えつづけていくんだろうな。面白くもあり、もうあれ以上のものが読めないかもと思って不安にもなる。
紙の本
切ない
2001/10/26 17:27
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投稿者:チカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
前々から気になって買ってみたけれど、いい意味で裏切られたなと思う。今まで“愛”一色だった山田詠美の世界が、“切ない”感じも取り入れてますます表現する幅が広がった。だから、今までの“山田詠美”を想像する人の中にはいいという人も悪いという人もいると思う。今までにないショッキングな作品もある。“アニマル・ロジック”の様に自分の事をスクリーンで見ているような感覚のする作品もある。“姫君”ラストはやや陳腐な感じもするけれど、とても切ない作品だ。あたしは山田詠美世界にますますのめりこんでしまった。
紙の本
「生」は「死」によって際だたされる。平凡な日常の中にある「生」と「死」のせめぎ合い。
2001/08/10 18:15
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投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「もしも、この人がこの世からいなくなったら、私は生きていけないかもしれない」。それぐらい大事な人が、あなたにはいますか?——。山田詠美さんの新刊は、読者にそう問いかけている。5つの短編が収録された『姫君』を貫くテーマは、「生と死」だ。「生」は愛し合う者たちを確実に結びつける。相手が確かにこの世に存在していることを、手触りを通して感じることができる。反対に「死」は愛し合う者たちを徹底的に引き裂く。もはや相手を直接感じることはできない。想い出や形見を通して、心の中で反芻するしかない。どんなに泣こうが叫ぼうが、あの人は帰ってこない。
山田詠美さんの作品は、雑誌連載を含めて、ほとんど読んできた。そうしてきたのは、主人公が高校生であろうが、SM嬢であろうが、同棲するカップルであろうが、常にこちら側に「人生、こういうことだってあるんだよ」と教えてくれる作者の目があるからだ。それも、とても静かで穏やかな。だから、いつもいつも読み出したら止まらない。読み終えた瞬間にホーッと静かなため息を落としつつ、ゆっくりいろいろなことを考えるその大切なひとときのために、私は山田詠美さんの作品を読んできた。
けれど、今回の『姫君』ではちょっと違う感想をもった。静かなため息や、ゆっくりした反芻ではない、もっとざわざわとした、どうしようもない不安が私を襲った。その衝撃は、それぞれの短編を別々に雑誌で読んだ時とは違っていた。それらがまとまって「生と死」をぶつけてきた分、衝撃は大きかった。私は、自分が大事な人を失った時に、自分がどうなってしまうのか、まともに生きていけるのか、そればかりを考えた。
「MENU」の時紀は、幼い頃に母親が首吊り自殺したために、親戚の家に引き取られた。彼は自分しか愛することができない。だからひとたび周囲に本音をぶつけるや、相手をカミソリのような刃で深く傷つけてしまうことになる。彼はそうすることで幼い頃のトラウマを隠し、何とかウソぶいてでも生きていくことができる。けれど、その周囲につけた冷ややかな深い傷は、暴力によって復讐され、「死」を突きつけられる。その時初めて、時紀はいままで何とも思わなかった「死」への恐怖を感じることになった。
「姫君」の姫子は、身体を売って、男の家を次から次へと渡り歩く浮浪者だ。彼女は、掃き溜めのような世界の中で、高慢な性格のまま生きているお姫様でもある。ある日、ゴミ用のポリバケツを漁っている時に、周摩と出会い、同棲を始める。恐ろしいほど献身的な周摩は、姫子に平手打ちを喰われようが、蹴られようが、日に日に姫子を愛するようになるが、姫子にはかつてそうされる経験がなかったために、どう感情を表したらいいのかわからない。突発的に飛び出して別の男の家に住んで、初めて周摩が大事な人であったことに気づく。しかし、姫子と周摩も「死」によって引き裂かれてしまう。形見のハーモニカだけが残された状況はとても寂しい。
人間、毎日毎日をノーテンキに生きていけたら、どんなに幸せかと思う。けれど、そのノーテンキな「生」の日常は、「死」との遭遇によってより際だたされるのもまた事実なのだ。『姫君』はそのことをあらためて教えてくれる。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.08.11)