紙の本
自分の気持ちか周囲の理解か
2008/01/23 22:36
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジェニファー - この投稿者のレビュー一覧を見る
オースティンの作品を読んで驚くのは、二百年も前の話にも関わらず、人間の心情が基本的なところではほとんど変わらない、ということである。
すでに婚期を逃しているアンには、かつて婚約していた相手がいた。しかし、彼はまだそれなりの財産を持っておらず、それを心配した周囲の人々の反対により、婚約を解消せざるをえなかった。
そして時は流れ、ほんの偶然からアンとかつての婚約者ウェントワースが再会するのだが、すでに美しさの盛りを過ぎてしまったアンは、ウェントワースの心を取り戻す自信がなく…。
これって、今でも非常によくあるパターンではなかろうか。本人たちは気持ちのままに突っ走ろうとするのだが、周囲が「まだ若い」とか「もっといい相手がいるかもよ」などと止めに入るという。
オースティンの時代との違いは、それで説得される人間はほとんどいない、というところだろうか。今は大概、みんな自分の思いのままに突っ走る道を選ぶ。それはそれでいいのだが、ちと情緒が足りないな…。
アンがウェントワースの胸の内を推し量り、右往左往する様はとてもいじらしい。終盤までウェントワースがアンのことをどう思っているのか、はっきり描写しないあたりはとてもうまい。
オースティンの作品では、結末がわりとあっさりめなのが物足りなかったのだが、今回はそれもたっぷりと味わえる。「うわ、こんな告白されてみてえよ!」と思わず叫ぶような情熱的な結末なので、読後感も最高である。
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恋心は分別と良識によってどこまで押さえられるものなのか? おだやかな晩秋の光に彩られた愛の再生の物語。最も美しく、最も繊細な作品として仕上がった、ジェーン・オースティンの晩年の傑作。
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映画「イルマーレ」(ハリウッド版)で小道具として使われていた本。
近代イギリスの上流階級の女性が、一度は別れざるを得なかった昔の恋人に突然再会し、そこから始まる物語。
この時代背景や身分制度を踏まえた思考や心情描写が丁寧に書かれている。
物語の展開がゆっくりであり、描写の主眼が主人公の女性の煩悶に充てられているため、そこに感情移入ができると、クライマックスのカタルシスが心地よいと思う。
「イルマーレ」の主人公同士の手紙のやりとりと心情に魅力を感じた人は好みだろう。
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ラストが新しく、そしてとても素敵。
成熟した主人公に、一度離ればなれになった二人がまた結ばれるプロット。
晩年の作品ということもあって、とても熟した、大人の物語だなと感じました。
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この作品、映画では「待ち焦がれて」になっているが、この邦題は作品を読んでない人がつけたと思う。
それにしてもこの本は難しい。映画も観たがちょっと便宜上ストーリーを変えてある。
もう一回読まなきゃ。それにしても読みやすいとレビューに書いてあったから大島一彦訳にしたのに、「奴さん」とか古い日本語が出て来る。奴さんと言えば折り紙じゃないか。
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これは…この文体じゃなければ、例えば原文で読んでいれば、全然印象が違ったんじゃないかなあと思う作品。話としては割とときめくラブコメにもなり得そうなんだけど如何せんこの文体が!なんか主人公がじりじりじりじりしていてとても英文学っぽいなあと思ったりしました。
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主人公アン・エリオット27歳は聡明な女性。
8年前、結婚を決めた相手がいたものの、周囲の強い反対で断念してしまい、いまだ独身。
准男爵という立派な家柄で、父や姉と一緒に暮らしているが、家計は苦しくなる一方で、彼女のかっての魅力や美しさも衰え、地味な暮らしに埋没しつつある。
そのときの相手フレデリック・ウェントワースは、当時はなんの後ろ盾もない下士官で、そのために結婚は不釣り合いだと反対されたのだが、その後ナポレオン戦争での功績によって地位と財産を築き、いまやウェントワース大佐となっている。
余曲曲折を経て彼女の前に現れた大佐との、それからの経緯を描く。
物語はこれまでのオースティンの作品に較べれば起伏なく進むが、それでも目が離せない……大佐の手紙をアンが手に取るシーンは涙なしには読めません。年取って涙もろくなったせいかもしれませんが。
「今日では、多くの者が『説きふせられて』を彼女のもっとも完成した作品と見なしている」と1954年に発表した例の「世界の十大小説」でモームが書いている。
60年以上前の評価なので、現在はまた変わっているかもしれないけれども、その意見に大賛成。
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高慢と偏見に比べると展開は淡々としており、より大人向きの内容。
ジェーンオースティン晩年の作品と聞いて納得。
9割5分は前置きで、最後のクライマックスも小さく華麗に締め括られています。
焦らされすぎたからか、手紙を読むところでは思わず鳥肌が立って涙が出ました。
人物の内心の細かい描写には「そういう考え方確かにするなあ」と思わせるものが多くあり、文化と時代のギャップを超えて共通する人間の心理を実感。
翻訳はやや読みにくい。イギリスらしい長ったらしい言い回しをそのまま訳した印象で、個人的にはもっと砕けた翻訳が好みです。