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紙の本
この作家は妖しすぎる!
2001/07/08 14:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆたやん - この投稿者のレビュー一覧を見る
双頭の鷲の作家が書いた作品である。でも、その作家はジャガーになった男を書いた作家でもある。
この作品は、今でこそコマーシャルな作品だが、10年前ならアングラでこっそり発行するしかなかっただろう。内容が怪しいということもあるが、そもそも扱っている内容があまりにもマイナー過ぎる。
高校入試の歴史のテストで出てくることもあるんだろうか…
<ジャックリーの乱><チオンピの乱>
同じ乱でもまだしも<黄巾賊の乱>やら<スパルタクスの乱>であれば取り上げる作品も多ければ、メジャーな歴史背景も持つ。
で、<ジャックリーの乱>…なにそれ?確かフランスのどこぞの農民が100年戦争に怒って暴れまわったんだっけか? なんというか、比較するのは<米騒動>か<土一揆>だな。
でそんな乱を題材として主人公を割り振って作品を書いたわけか????なんという…。
さて、読んでみる。
なるほど。料理のうまさはコックで決まる。簡単なことだったのだ。デュマの三銃士が面白いと感じるのと同じように、この作品も面白い。背景など添え物として扱えばいい。まずは物語をきっちりと作ることだ。歴史の説明など本当に必要なら講談社の世界の歴史でも読めばいいのだ。
この作品のキーは色彩だ。赤目をもつジャックと、透き通る青い目を持つ主人公、翠の目を持つ妖女、同じ名を持つ金髪のマリー、栗毛のマリー。戦場の赤。
暗黒の中世フランスの怪しさを、妖しく調理するこの作家のこの作品は今年前半最高に妖しい作品だ。
紙の本
パンドラの箱
2006/01/26 09:53
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つな - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、「ジャックリーの乱」を題材とした物語。「ジャックリーの乱」とは、「1358年に百年戦争中のフランスで起こった大規模な農民反乱」であり、「叛乱の名前は当時の農民の蔑称ジャック(Jacques)に由来するとされるが、当時の年代記作者によって、当初、指導者名がジャック・ボノムと誤って伝えられたことに由来するという異説もある」そうだ(wikipediaより引用)。佐藤賢一氏による、本作「赤目のジャック」は、この「ジャックリーの乱」に『「ジャック」が本当にいたとすれば、一体どんな男だったのだろう』(あとがきより引用)と想像して書かれた本。惨たらしい描写の数々がなされ、人間の暗部がこれでもか、と描かれる。蓋が外された時、そこには何が立ち現れるのか。
北フランスの寒村、ベルヌ村に住む、十八歳のフレデリは絶望していた。彼が生まれ育った村は、傭兵たちにすっかり蹂躙されていた。フレデリが頼ったのは、村にいつからか住み着いた、乞食坊主「赤目のジャック」。ジャックの色素が薄く、時に赤く光る目は、村人たちに「魔眼」として恐れられていたが、その闇の知恵ともいうべき世渡りの術は、村人たちに一定の信頼を得ていた。ジャックは言う。この惨状は誰によってもたらされたものか? それはひとり直接手を下した傭兵たちによるものではない。村人たちは貧しい中から、領主たる貴族に年貢を納め、賦役をこなしていた。それは本来、「守って貰う」代償としてのもの。「守って」くれない貴族に存在意義はあるのか? 戦に負け、傭兵たちを招きいれたフランスの貴族、騎士たち、彼らは一体何ほどのものなのか。
ジャックの魔眼が光り、杖に付けられた、帆立の貝殻が鳴る時、善良であった村人たちの良心は凍る。ジャックは村人たちに刷り込まれた、貴族に対する畏怖の念を破壊する。農民たちの人数は膨れ上がりながら、「世直しの十字軍」を名乗り、貴族を嬲り殺し、奥方、娘を犯し、およそ人が考えうる限りの残虐行為と略奪を繰り返す。より酷いことをしたものが、より高い地位につく。
フレデリがジャックの他に、もう一人神としたのは、赤毛の貴族の女、ブリジット・ドゥ・ベラトゥール。彼女は過去ジャックとも因縁のあった、冷血の爬虫類にも似る美しい女。彼女に弄ばれたフレデリは、正しい農夫としての人生を否定されたと感じ、貴族の女に対する憎悪の念を深める。
フレデリはジャックを破壊の神と崇め、自分を壊したブリジットを、屈服させるべき偶像、女神として、突き進む。
農民による蜂起は各地に広まったけれど、勿論貴族たちがそのまま手をこまねいているはずもない。これといって策もない農民たちの乱は鎮圧される。偶然にも鎮圧を逃れたフレデリであるが、心優しい旅芸人のジェローム、貴族の娘、金髪のマリーを捨ててまでも、「赤」目のジャックの謎、「赤」毛のブリジットの謎、二つの謎を解くために、再び渦中へと舞い戻る。そこで彼が見た真実とは。
プロローグとエピローグでは、二十年後のフィレンチェにおけるフレデリの姿が描かれる。「赤目」は何度でも現れ、暴徒と化した労働者の群れが、今度は花の都フィレンチェを駆け抜ける。「赤目」はしかし、その威力を信ずる人があってのもの。一番恐ろしいのは、それを信じて疑わないフレデリではないか、と感じた。むしろエピローグがない方が、「希望」を感じたように思う。繰り返される破壊、信仰が、人間の真実なのか。
佐藤賢一氏の入門としてはお勧めしない本であり、既に氏のファンであり、氏の色々な著作を読みたい人向けの本。このテーマ、この話を読み切らせる力量は流石と思うが、他の作品で見られるような爽快感は、ここでは全く見られない。
紙の本
克明な歴史資料
2003/08/08 17:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:死せる詩人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ジャックリーの反乱」と言われても、西洋史どころか世界史に疎い僕にはピンと来ませんでした。フランス全土を巻き込んだ、大規模な農民による一揆を主題にした話です。佐藤賢一さんの他の作品と比べると、全体的に暗い調子で話が進んでいきます。残虐な場面も多く、辛い方もいるかもしれません。であればこそ、フランスに出来した「ジャックリーの反乱」という現象が読者の眼前にハッキリと現われるのではないでしょうか。扇動を受け、理性を失い暴虐の限りを作る農民達。そしてそれに苦悩する、首謀者ジャックの側近たる主人公。天才というわけでもなく、英雄的でも無い、ましてや神掛かっている筈もない、極々普通の人達に焦点を当て、そんな彼等がちょっとしたことで狂ってしまう恐ろしさ。史実を元に、日本に於ける西洋歴史小説家の旗手によって浮き彫りにされたフランスの暗澹たる歴史の一部がここにあります。