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階級にとりつかれた人びと 英国ミドル・クラスの生活と意見 みんなのレビュー
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紙の本
ことばは丁寧に扱おう
2001/09/20 10:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自慢するわけじゃないけど、一九世紀のイギリスのイメージが大きく変わってきたってことは知ってた。昔は「産業革命で生まれた労働者と資本家が対立した」って感じだった。おっと、これは高校の世界史の教科書レベルだ。ところが、最近は「色々な階級がいて、喧嘩したり妬んだり成り上がったり、複雑な関係を結んでた」ことになってるらしい。なにしろイギリスは今でも「階級」にこだわる社会なのだ。そんななかで、著者の新井さんは、これまであまり論じられてこなかった「ロウアー・ミドル・クラス(LMC)」に焦点を当て、この本で彼らの実態やイメージを描き出した。
この本のメリットは次の二つだ。第一、LMCの特徴やイメージを明らかにしたこと。一九世紀のイギリスに存在した三つの階層の中間に位置するミドル・クラスの下半分を指し、「都市のホワイト・カラーの俸給労働者、つまり事務員」と「職人や小規模の商人」(六〜七ページ)からなってた。新井さんによれば、彼らの心情や行動を理解するためのキーワードは二つある。第一、福音主義の影響を受け、独特のニュアンスを持ち、日本語に訳しづらい「リスペクタビリティ」。具体的には「勤勉、清潔、礼儀正しさ、質素、純潔」(三五ページ)といった徳を守ることだ。第二、彼らの上にいるアッパー・ミドル・クラス(UMC)に上昇したいという強い志向。この成り上がり精紳のせいで、LMCは、上にいる階級に嘲笑されたり皮肉られたり蔑視されたりすることになった。
第二、LMCのイメージを明らかにするために、有名無名の小説から、新聞や雑誌の記事、手記、さらには戯曲などの資料を総動員したこと。しかも、その中には「日本では比較的知られていない、あるいは翻訳されていないと思えるもの」(二〇四ページ)が結構あるらしい。こういった資料を紹介してくれれば、あとに続く専門家には助かるだろう。
それでも、率直にいって、僕には沢山の不満が残った。三つにわけて説明しよう。第一、用語が混乱してること。たとえば、上流の階級は「ジェントルマン」、下流の階級は「ワーキング・クラス」という言葉で大体統一されてるけど、中流の階級を表わす場合は、ミドル・クラス、UMC、ミドル・ミドル・クラス、LMC、確立したミドルクラス、プチ・ブルジョワジーと、色々な言葉が使われてるし、きちんと定義してない場合や、ちゃんと区別せずに使う場合がある。でも、丁寧に言葉を使わないと、読む方は混乱してしまう。そもそも、UMCとLMCを「ミドル・クラス」って言葉でくくるのは好ましくないって新井さんもいってるじゃないか。
ついでに、上で書いたようにLMCには二つの種類があったようだけど、両者の間で心性や行動やイメージの違いはなかったのだろうか。僕は多分あったと思うけど、この本は何も触れてない。
第二、新井さんによれば、LMCは強い上昇志向を持ってた。これに対して、ワーキング・クラスは「彼らのコミュニティがあり、そのコミュニティへの帰属意識はきわめて強い」(九〇ページ)。つまり上昇志向がなかったのだ。この違いは、どこから来たのだろうか。これってLMCの心性や行動の特徴を知るためには大切な問題と思うけど、この本は取り上げてないし、当然答もない。
第三、新井さんは、この本の目的を、LMCの「イメージの作られた過程をたどる」(はじめに)ことに置いた。たしかに当時LMCがどのようにイメージされてたかはわかった。でも、そのイメージがどのように作られたかはわからなかった。つまり、この本は、自ら設定した目的を果たしてないのだ。目的を下げるか、もうすこし努力を続けるか、どっちかが必要だったような感じがする。[小田中直樹]
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