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紙の本
いいプライドを持っていますか?
2002/03/17 10:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
つかみどころのない短編がつづく。『モノクロ・ドリーム』 『闇に咲く花、語る十字星』 『東京近道地図』 『日本の真ん中、私のインド』 『走りたい男』 『十五分の虹』 『マリアの憂うつ』 『ラブホの秘密工作』。
ラジオやテレビで司会をこなしたり映画の評をしたりと、大ベテランの男は、現在の芸能界から浮いてきており、「あの人は今?」に近い状態。
かつてアイドルで売り出し、これまた「あの人は今?」状態の女性は、娘と南の島へ旅行に行き、芸能界復帰にかけてホテルの部屋で毎日毎日娘に手紙を書くことで、その意志を確固としたものへと変えようとしている。
女性タクシードライバーをしながら、女手一つで娘を育てている女性は、ニューヨーク帰りのぶっ飛んだ新人ドライバーの面倒を見る。自分の作った定規の中に無理やり自分を収めている女性は、新人の登場で心が揺れる。
不倫調査でラブホテルの張り込み、コンピューター犬の捜索願いなど、探偵の腕や真剣さを期待するよりも、心の隙間を埋めるためにやってくる客達にとまどう探偵。
どの主人公も、ちっぽけなプライドにすがっているので、傍から見ていると滑稽で悲哀を感じる。だけど、彼らのことを「つまらない奴らだ。」と一笑することはできない。だって、私もちっぽけなプライドにすがって生きているから。
本書の主人公を脇役に変えて、脇役を主人公に持ってきたとしても、内容はあまり変わらないのではないかと思った。特別にどうという人を使っているわけではないから、主と脇を入れ替えたとしたら、脇はそれなりに語り出すだろう。そして、脇の語りも滑稽で悲哀に満ちたものになるはずだ。
いつだったか、私より随分年上の女性が話してくれた言葉を思い出した。「私は、世の中のこともようわからんし、学校にも行ってへんけど、あんたよりか米の飯をいっぱい食べてるで。」と彼女は言った。この「米の飯」とは、量的なものではなくって一食の表現だと思う。そして、この言葉は、彼女のプライドであり、彼女を支える大切なものなのだろう。
プライドの高い人に会うと、後ろからポカッと頭を叩いてやりたい気分になる時があるが、それでも、プライドがなければ人は生きてはいけない。
「子供の頃は皆がかわいいと言ってくれた。」とか「○○(一応名の通った)で働いている。」などという胡散臭いプライドというジャケットを、冬はその薄さに震えながら、夏はその暑さに汗をブルブルとかきながらも着続ける。ボロボロになっても着続ける。
春夏秋冬心地よく、一生美しいままで着続けることができるプライドというジャケットを手にしたいものだと考えたら、顔が泣き笑いになった。
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