紙の本
たしかに「自分を探す旅」には出るのだけれど、そのまえに……
2001/09/13 18:15
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投稿者:赤塚若樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2001年に入って3冊目のサラマーゴの翻訳。ノーベル賞作家だからといって、こう立て続けに翻訳書が刊行されるのもめずらしい。何か理由でもあるのだろうか、と思いながら、この「本」を手に取ると、一瞬言葉を失ってしまった。それを話題にするまえに、まずは「作品」の中身をみておくことにしよう。すると、最初に出くわすのは、ひとりの男が城の「願いの扉」を叩いて「船を一艘ください」と叫ぶ場面だ。
王様はふだんなら、一日中「善意の扉」のそばに座っていて——というのも、善意を受けるのは王様のほうだから——、「願いの扉」のノックは聞こえない振りをするらしい。ところが今回はその音が激しすぎて、どうにも無視することができない。そこで何人もの家来をとおして応対し、適当にけりを付けようとした。ところが男のほうが上手で、直接交渉と相成り、「願いの扉」が掃除女によって開けられた。
船で何がしたいのか、と王様がたずねると、「知らない島を探しにいきたいのです」と男は答える。「どの知られていない島をだね」と王様がきくと、「とにかく知らない島なんです」と男はいう。島なら全部地図に載っておる、と王様。知っている島だけが載っているのです、と男。知らない島とはどういうものなのか、と王様。お答えできるなら、もう知らない島ではありません、と男。こんな具合に問答がつづいていき、しびれを切らした国民の支持を得て(男を追い払いたい!)、男は船を授けてもらえることになる。
王様の紹介状をもって波止場に向かう男のあとを、城の「決断の扉」を通って追いかける者がいた。城の掃除にうんざりしていた掃除女だ。そんなことは知る由もない男だが、「運命の出会いとはいつもこんなふうに起こるのです」。やがてふたりがはじめる会話のなかで、意外なことに、男がじつはこれから具体的にどうすればいいのかわかっていないことがあきらかになる。では、なぜ船で「知らない島」を探しにいくなどということを考えたのか?
言葉の綾をもてあそぶつもりはないものの、このあたりが「作品」から「本」のほうへ目を移すのにちょうどいいときかもしれない。大きめの活字で行間が広く、長さも100ページを多少越えるくらいなので、その気になれば、小一時間で読み通せる「本」。この「本」については、こうした「読みやすさ」をふくめた意味での提示の仕方、ないし売り出し方にもふれておかないといけない。なにしろ、帯のなかでいちばん目立つように書いてあるのがこのフレーズなのだから——「98年ノーベル文学賞作家が描く、究極の生きる秘訣!」。その下の説明によれば、「過去の習慣、古いものの考え方が通用しなくなったとき、シンプルで寓話的なこのお話は、きっとあなたに生きるヒントを与えてくれる」のだそうだ。そのうえさらに、本文からこんな言葉が引用されている——「島を見たいのなら、その島を離れなければならない、自分のことを知るには、自分から自由にならなければならない」。……ということらしい。
この種の「本」を決して否定はしないが、わたし個人としては、決して読むこともない。こういった「本」を手にするくらいなら、時代遅れもはなはだしい文学作品などという代物を斜に構えて読むこともないだろう。サラマーゴに興味を持つような読者のなかには、同じように考えるひともいるのではないかと思う。だからこそ、あえてひとこといっておきたいのだが、「本」としての外面が多少気になったとしても、この「作品」には目を通しておいて悪くない。
さて、物語のほうはといえば、ふたりが半ば予想どおり「自分を探す旅」(!)へと出帆していく場面で終わるが、「そのまえに」、なるほどこんなオチがあったのか、とこの「作品」は思わせてくれるだろう。 (bk1ブックナビゲーター:赤塚若樹/翻訳・著述業 2001.09.14)
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2009年2月2日、読む。
『白の闇』の著者の本で、『白の闇』がおもしろかったから読んでみようと思って買っておいた。
かなり精神が磨り減っていて読書にちっとも集中できなかったとき、ふと手にして読んでみたらそのまんま一気に最後まで読んでしまった。
といっても113ページしかなく、字も大きく1ページに7行しかないんで、誰でもすぐ読めてしまう本である。
けど、今の自分には必要な物語だった。心が救われるような言葉がたくさんあった。
<好意は最高の所有の形、所有は最低の好意の形なんだ>
<島を見たいのなら、その島を離れなければならない、自分のことを知るには、自分から自由にならなければならない>
<何でも次から次へと起こるわけではないの、どんなことにも時間がかかるのです>
男と掃除女が、すごくいい。会話がいい。
これは現実なのか、夢なのか。
ラスト、たまらなくなって涙が出た。なんて美しい。
二人の未来、輝く前途が見えるようだ。
気に入った。
今後繰り返し読む一冊になるだろう。
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印象的だった部分>
余はこの王国の王である、この国に存在するすべての船は余のものである
船があなたのものではなく、あなたが船のものなのです
それはどういう意味なのか、王様が不安そうにたずねました
つまり、船がないとあなたの存在は無いと言う事です、
ところが船は、あなたがいなくても航海できるのです
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とても短い寓話。いろんなシーンやことばが胸にひっかかって残ってる。さやわかで不思議な読後感。さあ、気持ちをいれかえて、旅立とう、ふたりで前に進んでいこう、そんな気分にしてくれる。
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もはや地上は踏破されつくされたと言われる時代。一艘のキャラベル船をたよりに、見知らぬ島を求めて旅立つ男女の大人のための童話。船を手に入れるため、王を訪問するところから出航するまでが描かれます。男の信念に惹かれ、"決断の門"を通って彼についてくる掃除女がたくましくて気持ちいいです。
ところどころに散りばめられた哲学的な台詞がまた印象的。
"船があなたのものではなく、あなたが船のものなのですつまり、船がないとあなたの存在はないということです、ところが船は、あなたがいなくても航海できるのです"
そして圧巻だったのは船の上に土や種が飛び散り、芽を吹いて島に変身してしまう夢です。どんなに世界が開発されようと、自分自身は未開拓。可能性を拓けるのは自分だけなんですね。
人が空を飛び、宇宙にすら飛び出す時代。身近で素朴な夢を持つことに躊躇してしまうけれど、素直に突き進んでいけば自分の島を発見できるかも。正直、旅などせずに家でごろごろしていたい水夫たちにも共感しますが(笑)
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今まで触れたことのない国の文学作品を読んでみようキャンペーンをひっそり始めてみました。多分ひっそり終わる←
アジアから攻めていくつもりだったけど、県立図書館のアジア棚が悲しいくらいに蔵書少なかったので、広く浅く手をつけ始めようかしらということで、突然のポルトガルです。
ポルトガルと言えば、大航海時代!
無敵艦隊負けた辺りの斜陽感漂い始めた時代前後に興味はありますが特に調べたはことはありません!(雑
あと、ポルトガルってスペインとセット感ありますよね??(苦
ボスニア・ヘルツェゴビナとか、
チグリス・ユーフラテスくらいに、
スペイン・ポルトガルってしっくり来るんだよなー語感?
どうでもいい私感はこれ位にしておいて。
ポルトガルの作家であり、ノーベル文学賞の受賞者でもある、ジョゼ・サラマーゴです。
主人公の男が王様のところへ出かけていき、
「船を一艘ください。誰も見知らぬ島を見つけに行きます」
と船を所望します。
見知らぬ島なんてあるわけねーじゃんとあざ笑う王様にも、主人公は「未知の島が1つもないなんてあり得ない」と断言し、渋る王様から船をもぎ取ることに成功します。
で、なんやかんやあって、王様のもとで掃除をしていた女性も彼と一緒に航海することになるのでした。
が。
うーん………………星の王子様とか好きな方にはいいのかもしれないですね。
ちょっと風刺が効いてるとことか、寓話性のあるとことか、近い雰囲気を感じました。
こういう本を読むたびに、私、読む本の冊数は多いけど、行間を読むセンスだったり感度だったりは低いんじゃなかろーかっていう思いを強くします。
もののけ姫とか千と千尋とか、途中で白目むいたもんね。眠くて←
抑揚の効いた分かりやすいエンタメ小説大好き人間です、はい。
昔はそんな自分の鈍い感性に悩んだりもしましたが、最近は割り切ってます、はい。
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『複製された男』の映画広告をみて、初めてこのひとを知った。とりあえず、どこから手をつけようかと、まずはライトなところから。
ちょっと頭でっかちな印象。今にもどこかのちょっとした哲学者が言いだしそうな台詞回し。ただ、それは訳の問題なのかもしれないし、彼が普段用いる改行なしの長文であったらまた印象は変わったかもしれない。いずれにしても、エーコと同じ匂いのする作家であると感じている。
見知らぬ島を巡って、最後に今ここに在る船に至るというのは、なんとなくわかっていた。読んで何か驚くということはないけれど、逆にそれはおんなじようにものを考えてるひとに出会えたという安心感でもある。この人間がどのようにものを考え、そしてそれを書いていくのか、たった数十ページの寓話であっても、匂ってくる。