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紙の本
生命進化としての遺伝子操作
2001/10/19 16:27
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投稿者:神楽坂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
芸術、思想、学問。それらは脳の産物でありながら、遺伝子のように自己複製と増殖の機能を持っている。人間がいなくなり、コンピュータだけで社会が運営されていくというのは古典的SFにありがちなテーマだが、ミームの本質を表している。生命体の知性は常に遺伝子に従属したものだったが、人工知能があれば遺伝子無しでミームの増殖が可能となる。そして、ミーム(知性)が遺伝子操作を始めた現代、その立場は入れ替わり、ミームが遺伝子を支配する神になりつつあるという。遺伝子の世界でも、太古の昔DNAがRNAに取って代わったことで、生命の世界は爆発的に拡大した。それと同等の生命進化が今ミームによって起こされようとしている。生物学者の著者の感覚は、SF作家とはかなり違っているようだ。
紙の本
ミームという考え方にどのような可能性が秘められているか
2002/07/10 17:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:森岡正博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人間は遺伝子の乗り物」だと言ったのは、リチャード・ドーキンスだった。人間が、利己的な遺伝子によって支配されているのかどうかをめぐって、大きな議論がおきた。
ドーキンスは、もうひとつ、面白い考え方を提案している。それが、「ミーム」である。「ミーム」とは、人から人へどんどん伝わっていく観念や情報のことだ。
たとえば、「ラブ・アンド・ピース(愛と平和)」という考え方は、七〇年代の平和運動をとおして全世界に広がった。現在でもなお、こころある人々によって使われ続けている。この「ラブ・アンド・ピース」のミームは、ピースバッジに印刷されて広がったり、あるいはジョン・レノンの歌をとおして広がったりする。かなり強力なミームであると言える。
佐倉さんの新著は、このミームという考え方のなかにどのような可能性が秘められているのかを、大胆に語ったものだ。人間を、「遺伝子」と「ミーム」という二つの情報系の統合体とみなしたときに見えてくるものはいったい何か。
ミームは、文化の生態系のなかで繁殖し、自分のコピーをたくさんばらまこうとする。そして、競争相手となる他のミームとのあいだで、はげしい生存競争をする。
ミームが、みずからの生存をかけて闘争する場所、それが人間の「脳」だ。われわれの「脳」をいかにして虜にして、攻略するか。それがミームの腕の見せどころだ。ネット時代を迎えて、ミームの闘争の場は、インターネットへと拡大した。
佐倉さんはさらに指摘する。ミームは、人間の老年期の意味に、新たな光を投げかけるのだ、と。遺伝子の視点からすれば、生殖年齢を過ぎた老人に、存在意義はない。だが、ミームの伝達者という観点から考えれば、様々な経験を積んだ老人こそが、よきミームの担い手となり得るのだ。
ミーム学というのは、基本的には自然科学なのだけれど、人間を真にトータルにとらえることのできる新境地を開くかもしれないと佐倉さんは期待する。その可能性はあるかもしれないと思わせる本である。
初出:信濃毎日新聞
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