紙の本
熱くて、暖かい、教師と生徒の心の交流記
2001/12/20 14:34
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:片桐真琴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は、西宮市立西宮西高校(現兵庫県立西宮香風高校)という定時制高校を舞台にした、脇浜という教師とボクシング部員たちとの熱い心のぶつかり合いと交流の記録である。
定時制高校に通う生徒たちの多くは、母子家庭であったり、学校になじめなかったり、といった何か「訳あり」であるという。本書の主人公、脇浜義明氏もまた学生時代そうとうの「ワル」で、父親の顔も知らず、苦労して定時制の高校、大学を出て教師となった人である。
ある年、生徒たちがボクシング部を作りたい、と言ってきたときも彼は最初は乗り気ではなかった。しかし、次第に生徒たちと一緒にボクシングにのめり込んでいく。生徒たち以上に彼が熱心になっていくのである。授業に出なくてもボクシングの練習だけには来い、と言い、時折授業があるのを忘れるほどに。彼もまた高校時代にボクシングをかじっていたのである。
しかし、生徒たちはときにはサボり、失踪し、練習に来なくなる。これまで何事につけて放っておかれたり、最後までやり通したことのない生徒たちであるから、それもやむを得ないのかもしれない。そのたびに彼も傷つき、失意にふける。それでも彼は決して生徒に背を向けたり、手を出したりはしない。口は悪いが優しい眼差しで彼らの成長を見つめていく。最近は「ゴンタクレ」がいなくなったと嘆きながら、今日もまたリングに顔を出し、部員たちのパンチを受ける。
そんな彼と生徒たちとの心のぶつかり合いは、近年社会が近代化と効率化の名の下に忘れ去ってしまったものではないだろうか。これまで敗者であり続けてきた彼の生徒たちにとって、ボクシングがリターンマッチとなるようすべての情熱をかたむける。この充足感が、彼にとってもまたリターンマッチなのだろうか。
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「いつの頃からか貧乏人の子がケンカに弱くなった。そのうえ怠け者で、横着で、金持ちの様に不人情になった、、、、」定時制高校の英語教師、脇浜はボクシング部の顧問でもある。そこには、他の高校からはじかれた、勉強のきらいな、高校だけは出ておこうかという、一度人生に負けた子供達がやってくる。自分自身も苦労して高校教師になった脇浜は人生のリターンマッチを子供たちにやらせてやろうと今日もリングで待っている。一回勝つ事がどれだけその子を勇気づけ、人生を変えるか、今まで勉強だけでなく人生負けっぱなしの子供が、自分の手で、自分の気持ちで勝ち取った一勝の大きさを感じる。ノンフィクションならではのボディーブローのように心に響いてくる物語。決して勝者の物語では味わえない感動をくれる。脇浜先生のリターンマッチでもある。お勧めの一冊。
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無骨だが哀歓宿した中年教師とアカンタレの教え子ボクサーたち。定時制高校ボクシング部での攻防は彼らの敗者復活戦でもあった。教室だけでは築けない型破りな師弟の姿を描く書き下しノンフィクション。
95年大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。定時制高校に対して我々が持つ先入観や偏見を覆す内容ではなかった。「教育とは何かを考えさせられた」こともなかった。でも本作には伝わってくるものが確かにあるし、取材対象者と一定の距離を保って描く筆者のスタイルは心地よかった。この学校は当時「ニュース・ステーション」等が取り上げたという。その映像も観たかった。
(B)
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西宮西高校の定時制高校ボクシング部を自ら発足させ、様々な家庭環境の生徒たちと向き合うボクシング部顧問の脇浜氏。受験や就職、様々な事情から定時制高校に通うことになった生徒達にとって、人生において「勝つ」という経験をさせてやりたいと生徒に寄り添う脇浜氏。決して熱血教師という印象ではありません。その溢れるような愛情と熱意を理解し、受け止めて人生の方向性を変える生徒がいる一方、すれ違いからボクシング部や高校からも姿を消す生徒達。約4年にわたる取材をもとに、濃密な時間を過ごす教師と生徒達の物語です。決してスーパーヒーローが登場するわけでもなく、ハッピーエンドだとも言えません。でも、親以外の大人とここまで深く向き合えるのは学生時代の部活動ならではという気がします。私自身、中学、高校を通じて熱心な先生と出会い、少なからず生きてゆく上での方向性に影響を受けました。取材対象となった生徒達が、ちょうど私と同じ年代ということもあり、自分の学生時代を思い出しながら読みました。決して美談にまとめようとせず、感動させようと誇張もしない著者の文章に引き込まれます。
本当に素晴らしい本なのですが、残念ながら現在は新刊で手に入れるには後藤氏のノンフィクション集第4巻しかありません。復刊して欲しいです。
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西宮の定時制高校を舞台に、どうにもならん生徒にボクシングを教える教師脇浜のドキュメント。
自らも定時制高校、大学出身で、若いころには様々な不良行為を行ってきた英語教師脇浜。そのころの「ワル」とは違った形の生徒たちに、自前のリングと道具でボクシングを教えていく。本編では3年ということだが、おまけで1年つくので、4年程度の長期取材は圧巻である。
中学卒から20歳程度までという多感な年ごろを相手にすることもあり、半数程度は、ボクシングを機に人生が変わっていく様は、読んでいて爽快である。残り半数は変わらない。
本書の難点は、人間脇浜、生徒、ボクシングのいずれを描こうとしているのか、かなりあいまいであることだ。それぞれがそれぞれの重さで、かつ淡々と描かれるため、例えばボクシングの部分だけ取り出すと、かなり薄い。同様に脇浜の人生の何が描かれていたのかといわれても、こちらもわかりにくい。人生自体が転換することはあまりないように見える。
どういう層にもっとも響くのか、そこがちょっとわかりにくいドキュメントで、悪くないけれども、接点のない人間にとっては、話が平坦すぎるように感じた。
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なかなか熱いノンフィクションだった。最後の章にある主人公の教師脇浜義明の言葉「・・この頃思うんですわ。教育なんてもんはないんだと。せいぜいあるのは、こっちが汗をかいてやってみる。子供にやらせてみる。褒めてやる。その繰り返しじゃないのかって。・・・」深い一言だと感じた。
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私は登場しないけど、前半に出てくるメンバー達と共に練習をしてたので、個人的にはあまりにもリアル過ぎるドキュメント。過不足なくリアルに表現されてます。ボクシング部だけでなく、西宮西高校自体が異例中の異例な、凄い学校だった。
脇浜さん、ホンマにええ先生でした。娘さんは読売テレビのアナウンサー。
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先に柳田邦男さんの本を読んだ際、激賞されていたので手に取ってみました。後藤さんの著作はちょっと前にも「スカウト」という作品を読んだところでした。
さて、本書、舞台が「定時制高校のボクシング部」ということなので、材料となるエピソードには事欠かないことは想像に難くないのですが、後藤さんは、それら「教師と生徒という“人間と人間の関わり合い”」を徒にドラマチックに煽るでもなく丹念に綴り起こしています。それゆえに、書き込まれた登場人物は皆一人ひとりの個性が光り、とても魅力的に映ります。
確かにとオーソドックスで真っ当なノンフィクション作品だと思います。
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同級生に薦められてこの本を手に取りました。初めて読む作者で久しぶりのノンフィクションでしたが冒頭から引き込まれて一気に読んでしまいました。こんな破天荒で愛情に満ちた先生に出会えた生徒に嫉妬を感じながらページをめくり、気がつけば泣いていました(笑)多くの学生と教師に読んでもらいたい一冊です。