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紙の本
人物描写がさえわたる「虚構」幕末史
2001/11/27 00:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちひ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ストーリィをかいつまんで乱暴に紹介すると、夏目漱石『坊ちゃん』の主人公なみに人物の特徴を読者にわかりやすく説明する術に長けた主人公が、幕末に、本州の北東の方から江戸を目的地にして幼なじみとともに出発し、まずは京都に入る、そしていろいろな人物との交流やいろいろな出来事を経て成長していく……って感じの話です。
同じ幕末を舞台にした諸作品を遺した司馬遼太郎の作風とは全然似てません。司馬の作品は主人公が歴史上の人物ですが、この主人公は今のところまったく無名です。いやヒトだけに名前はあるけれど、歴史に名を残した人にはなりそうにないです。でも同時代の結構コアな人物、たとえば清河八郎や、サカモト、壬生浪、禁裏界隈、いろいろ出てきます。
なんか、今までの奥泉氏の小説っぽくないです。怒濤のように押し寄せる論理・論理の内面描写もなければ、一体小説のどの部分から用意されていたのかわからない奇妙で気持ちの良いクラクラのカタルシスもない。
でもどことなく奥泉っぽいです。よくわからんねこんな言い方じゃ。でもあまり言うとおもろないでしょ。と言いつつもう少し(をい)。
「みやこ」としての当時の京都に生きた人間の顔や、話していた言葉などの雰囲気がリアルに漂ってきます。こんなに濃いぃ顔の人たちが田舎言葉丸出しで全く気にせずに、しかも意思の疎通もほぼ完璧に成し遂げながら平然と生きていられたのだなあ、と、変に感心しました。小説だから虚構なんですが、それを忘れてしまうくらい、もう本当にどうしようもないくらい、皆んな自由闊達に生きてます。
でも、そりゃそうですよね。当時の京都を形作っていた熱気は尋常じゃなかったのでしょう。今の東京もそうですが、都会は人間に厳しく定住しにくい場合が多いから勢い田舎者の比率が高いのです。でも古参の田舎者は新参の田舎者をなぜか馬鹿にしたがる。……そういう均質化された負的なイメージもこの作品の中に慥かに少しはあるけれど、でも大部分はそんなことなど構ってられない、勢いの良い田舎者ばかりで、とても明るいです。
1994年に芥川賞を獲った『石の来歴』と同じくらい売れても良いかな、と思います。奥泉氏には『ノヴァーリスの引用』(集英社 1993年)という野間文芸新人賞・瞠目反文学賞を両方獲った超絶的な名作があるのですが、その本、今ではどこで探してもヒットせず、蔵書してる図書館などでしか読めなくなってしまってます。奥泉ファンのわたしとしては、この本が少しでも多く売れて、「なんだ奥泉って売れるじゃん?」と気をよくした出版社が「奥泉全集」の刊行でも計画してくれないかなあと、淡い期待を抱いています。
念のために申しますが、奥泉氏のファンじゃなくても全然楽しめる本だと思います。たとえば和田慎二『あさぎ色の伝説』(白泉社)に出てきた人間の顔を思い浮かべながらでも問題なく読めます。
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