紙の本
コンピュータを本当に身近にするために
2002/06/16 18:41
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投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は、坂村建教授とは、かなり古いつきあいなのである。八十年代から知っている。TRONプロジェクトが米国と通産省の陰謀(としか見えない)圧力によって、かなり不利なことろに追い込まれた経緯も、リアルタイムでみている。
「古いつきあいがある」とはいっても、当然、実際に顔見知り、というわけではない。あくまで著作を通してのつきあいである。
教授の著作を始めてみてからかれこれ二十年近い月日がたっているのだが、その間に主張しているところがほとんど変わっていないのは、感嘆にあたいすると思う。
「教授の主張するところ」というのは、ようするにTRONプロジェクトのことだが、「リアルタイムコンピューティングの必要性」と「あらゆる道具にコンピュータが仕込まれ制御される時期が早晩くる」という予測にたって、「そうした時代に見合ったアーキテクチャを用意すべきだ」ということである。
たぶん、目につきやすくわかりやすいからだと思うが、TRONというとデスクトップ使用のBTRON(現在流通している商品名でいえば「超漢字」)の進退だけをみて、「普及していない=失敗」と決めつけてかかる人も未だに多いのだが、本書にも書かれているように、実は、TRONチップは家電や自動車、携帯電話など、目に見えないところにかなり使用されている。リアルタイム制御が必要なチップのほとんどは、TRON−OSによって制御されているといっても過言ではないそうだ。
これを「成功」といわずしてなんというのだろう?
こういってはなんだが、なんら経済的な背景も企業に対する決定権ももたない一大学教授の提唱した規格が、これほど広範に採用され使用されている例も少ないのではないだろうか?
この本を読むと、現在の、それにこれからのコンピュータが、ほんとうに身近な道具になったとき、どのように道具としてのコンピュータと向きあいつき合っていくべきかという、ユーザとしての立場から考える際にも、参考になるところは多い。
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TRONを通した日本のIT戦略。
これまでコンピュータ技術において常にアメリカにリードされていたが、今後どのようにして日本が優位性を保っていくか、という点について。
「ユビキタス」というビジネスモデルにとって、日本の土地の狭さ、携帯電話に代表されるモバイル技術の先行性など、日本の環境すべてが追い風になっている。
ただ、そもそも現在のコンピュータが英語を基にして作られているだけでなく、実世界でも英語がグローバルスタンダードになっているだけあって、そう簡単に日本がITの主導権を取るのは簡単ではない。
中国を中心としたアジアのマルチバイト文化圏が「超漢字」の有用性を認めてバックアップをするようなことになれば、かなり勢いがつくんじゃないかなーと思った。現実にそうなるかどうかはかなり疑問は残るけど。
果たして、 IBM → Microsoft → 日本 となるか!?
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(2004.05.28読了)(2004.02.26購入)
副題「TRONが拓く次世代IT戦略」
●日本人の独創性の無さは遺伝子の所為?
「セロトニンという脳内物質があり、このセロトニンの働きが少ないと不安感が強くなり、ストレスに弱いという。セロトニン受容体が少ない人は保守的になり、新しいことにチャレンジしたがらない傾向が強い。セロトニン受容体が少ない遺伝子を持つ人は、アメリカでは全体の50%であるのに対して、日本では90%以上にのぼる。日本人は遺伝子的なレベルでベンチャラスなことが苦手という条件を持っており、アメリカ人はベンチャラスなことを得意とする人間が社会の半分を占めている。」
セロトニンを論拠にあれこれ論を進めてゆくのだが、アメリカは人種の坩堝だから、アメリカ以外のところにもっとセロトニン受容体が少ない遺伝子を持つ人の比率がもっと少ない国がありそうなものだ。その辺のことを述べずに論を進めるのは、科学的根拠の乏しい話になってしまう。
●日本の強みは何か
「日本が弱い分野と強い分野がある。国際レベルで成功している業界は、作っているものに「ブラックボックスが無い」という特徴を見出せる。・・・携帯電話では、使っているマイクロチップからOSまで、全部日本で作ったもの、純国産品が多い。自前で作っているものを使っているから、どういう仕組みで動くのかが製造する会社の技術者にわかるのである。中がわからないものは改良・改善の仕様がない以上、よくならない。」
●トロン
TRONというOSを設計したのは、著者の坂村さんである。教育用コンピュータのOSとしてとして採用されかかったが、アメリカからの妨害にあって実現しなかった。妨害の片棒を担いだのはヤフーBBの孫正義である。
そのTRONは、現在、携帯電話等に使われている。Windowsでは、大きすぎて使い勝手が悪いのである。
「インターネットが社会のインフラになるに従って、PCの必要性が薄れてきている。インターネットで最も使われている機能は、第一に電子メールである。二番目はウェブ閲覧である。現在のPCの能力は、インターネット利用には必要ない。自分の家と会社でしか利用できないのは時間的、空間的制約がある。携帯電話でウェブ閲覧が出来、電子メールが使えれば、インターネット端末としてはPCより格段に優れている。」
●ユニコード
アメリカの主要コンピュータ関連メーカが集まり、世界で使える統一文字コードをつくる。
ユニコードは16ビットで世界の文字を扱う。16ビットでは6万5千文字ほどしか入らない。漢字だけでも10万はあるのに、アジアのいろんな文字も考えたらとても足りない。
これでは、コンピュータで各国の文化を表現する事は出来ない。
TRONコードは、150万字扱える。コードは、各国の専門家チームに決めてもらう。
●日本が世界で成功するためには
1.技術的にブラックボックスを持たない
2.アジア圏において文化や言語に対するアメリカ式の考え方は不十分
3.社会のインフラになるもの、ベースになるものはオープンにしていく
☆坂村健の本(既読)
「コンピュータとどう付き合うか」坂村健著、光文社、1982.10.30
「電脳都市」坂村健著、冬樹社、1985.05.10
「TRONからの発想」坂村健著、岩波書店、1987.02.27
「TRONで変わるコンピュータ」坂村健著、日本実業出版社、1987.04.25
「電脳社会論」坂村健著、飛鳥新社、1988.10.19
「電脳未来論」坂村健著、角川書店、1989.05.10
「情報文明の日本モデル」坂村健著、PHP新書、2001.10.29
「21世紀日本の情報戦略」坂村健著、岩波書店、2002.03.25
「ユビキタス・コンピュータ革命」坂村健著、角川oneテーマ21、2002.06.10
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[ 内容 ]
世界中の人々がネットワークで瞬時に結ばれる情報文明の新時代。
いま日本がなすべきは、ブロードバンドの普及率を他国と競うことでも、経済状況の変化に一喜一憂することでもない。
モバイルを強みとする独自のモデルをいかにして確立するか。
そして、グローバリズムの波に抗して、いかにして自らイニシアティブをとり、多様なるアジア文化を発信していくか。
世界でもっとも使われる組み込みOS・TRONを開発し、今なお意欲的な挑戦を続ける著者が次世代IT社会への戦略を大いに語る。
[ 目次 ]
第1章 「追いつけ、追い越せ」思想からの脱却(リアルな認識の必要性;アメリカ追従思考は時代遅れ ほか)
第2章 時代がTRONに追いついた(TRONとは何か;なぜTRONプロジェクトを始めたのか ほか)
第3章 日本発OS「超漢字」(情報の根幹は「言語」と「文字」;ユニコードのどこが間違っているのか ほか)
第4章 IT革命、次なる展開(IT社会の光と影;まだ残された課題 ほか)
第5章 情報文明の日本モデル
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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この「TRON」と言う存在はなかなか
知ることが少なかったのではないでしょうか?
私は名前程度なら聞いたことがあります。
結構組み込まれていますが
日本ではある有名社長の仕業(?)でこのTRONが
日の目を見ることは余りありませんでした。
面白いのはバブルのお話。
どれだけ日本って儲けたのに関わらず、
何も学ばなかったのでしょうね…
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2011/7/28読了。
TRONを世に送り出した著者が、日本のITの将来像について考察した一冊。
興味深かったのは、日本はブラックボックスの含まれていないものに強いという指摘。車でも家電でも、分解して隅々まで理解できるものならオリジナリティ溢れる製品を生み出すことができるというのは、実感にそぐなっているように感じられる。
オープンソースで、アジアの文化の幅広さに対応したシステムを設計するという方向性は面白そうだ。どんな投資でも、まずは目的を明確にしなければならないという主張ももっともである。
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アメリカ主導のIT戦略と、それに追随する日本の情報社会への取り組みに疑問を投げかけ、日本が自国の強みを生かしてIT社会で大きな役割を果たしていくための戦略の必要性を論じた本です。また、著者が中心となって推し進められたOSのTRONが持つさまざまな利点についても説明されています。
とはいえ、日本人のセロトニンの受容体が少ないということに基づいて国家戦略を考えるべきだと言われると、少し戸惑ってしまいますが。もちろん日本人の国民性というものはあるのでしょうが、歴史的・社会的・文化的な厚い層の堆積によって形成されてきたものを、いささか短絡的に脳内ホルモンの特性に結び付けすぎているような気がします。
また、本書の刊行から10年以上が経過した現在では、仕方のないことではあるのですが、本書で指摘されている問題などもかなり変化してしまったため、あまり一般の読者にとって啓発的な内容ではなくなってしまった感もあります。