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江戸の不思議と怪異に親しみながら、推理小説の謎解きの妙味が堪能できるシリーズです。
2004/12/05 21:18
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
本巻には、「半七捕物帳」の記念すべき第1作「お文(ふみ)の魂」から「山祝いの夜(よ)」まで、14編が収録されています。「お文の魂」が初めて掲載されたのが大正六年(1917年)ですから、今からざっと90年近く前に執筆されたことになります。江戸幕末に岡っ引として活躍した神田三河町の半七親分が、その手柄話を、明治30年頃に「わたし」に語って聞かせる。その事件の顛末を、「わたし」がメモ帳に記して世に発表したのがそれぞれの話であると、そうした聞き語り形式の連作短編集ですね。
半七老人と「わたし」が会って、時候の挨拶を交わす話の枕の部分。その話がきっかけとなって、「そう言えば、こんな話がありましたよ」と、半七老人が手柄話を語り出す。あわててメモの手帳を取りだして、事件の顛末を書き記していく「わたし」。事件の真相が半七老人の口から明かされると、舞台は江戸から明治の今に立ち戻り、話はさっと閉じられる。
ワンパターンの話ではあるのですが、淡々と抑えた綺堂の筆致がまず素晴らしい。そして、行間から立ち上ってくる江戸の風情の粋なこと。ぼおっと霞むような光と闇の世界がそこには広がっていて、ふっとなつかしい気持ちにさえなります。雅趣に富んだ話の味わいがいいんですよねぇ。江戸時代にタイムトラベルしていたみたいな、そんなここ数日間でした。
さて、本巻で◎をつけた作品、一番気に入った話は「奥女中」でした。
文久二年(1862年)八月、茶店を出している母親が、娘の身に最近妙なことが起きて心配であると、半七親分にその謎を調べてくれるよう頼みに来ます。そして、お蝶という美しい娘が時々に姿を隠す不思議の話が、母親から半七親分に語られていきます。怪しい夢のような話に耳を傾けていると、やがて話に動きがあって、そこからすっと解決の光が射し込んでくる。不可解な謎に筋道がついて、そこからさらに、静かな調べを湛えた話が流れて行く。しみじみと心に染みてくる話の風情に魅了されました。
おしまいに、巻末の都筑道夫氏の解説から、少し引用いたします。都筑道夫氏には、知る人ぞ知る、「なめくじ長屋捕物さわぎ」という江戸を舞台にした痛快で、大変楽しい推理小説のシリーズがあるのですが、それはさておき。
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江戸幕末の空気に触れながら、半七親分や子分とともに江戸の町をめぐる楽しみ。
江戸の不思議や怪異の雰囲気に浸りつつ、推理小説の謎と謎解きの趣向が堪能できる面白さ。
そんな妙味を湛えた岡本綺堂の「半七捕物帳」のシリーズ。いいですよ!
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半七捕物帳 全6巻 原点と言ってもいい捕物帳小説
2023/03/30 15:05
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投稿者:トマト - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代の夜の暗さを思い知ります。
人の欲や嫉妬が事件を呼び起こします。
デジタル機器のない時代だからか、今の時代より人の感覚が鋭く観察眼が長けています。半七の推理力がフル稼働します。
そこに、奇妙な人知を超えた世界も織り交ぜ入ってくるので、当時の人の心の中にある恐れや不思議がごく当然のように語られています。
今のように煌々と夜でも明るくなく、月でも出ていなければ、それこそ真っ暗闇。
その暗闇に何か得体のしれないものがあるように思うのは、想像力を持つ人間ならではのことだと思いました。
ちっとも古びないドキドキハラハラがそこにありました。
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ちょっとためしに読むぐらいの気持ちが、シリーズ全部読みたくなった。
2020/07/18 23:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代末期のことを書きながらも、なぜだか流れる空気がモダンな感じ。タイトルのイメージからはもっとずっと古臭い感じのものかと思っていました。
岡本綺堂をリスペクトする都筑道夫が、シャーロックホームズに並ぶ、日本の探偵物のハシリ...みたいに言っていた記憶があるが、理解できる気がする。
明治に入って、岡っ引きを引退した半七老人が、新聞記者に昔語りをするスタイルも、そのモダンさの一要因かと。
ちょっと覗いてみる気で手に取ったけど、うーん、面白い。シリーズ全部読みたくなった。
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光文社文庫の1巻を読み終えたところ。
とにかくおもしろい。
大正から昭和初期にかけて発表されたというけれど、
ちっとも古さを感じない。
新聞記者の「私」が江戸の岡っ引きだった半七老人から、
様々な「謎」の顛末を聞くというスタイルで69編書かれている。
読んでいると「私」とともに半七老人の話を聞いてるような気分になります。
綺堂は、明治の5年生まれ。父親が英国公使館勤めということもあって、早くから英語を習っていたという。ドイルの「シャーロック・ホームズ」に影響されて、江戸の探偵物語を書きたくなったとか。
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江戸時代を背景にしたミステリーといったところか。とはいえ、幕末に岡引をしていた半七という老人とであった作者が明治時代にその手柄話を聞いて書き付けているという形をとっている。現代(明治時代)から、ふと幕末へとさかのぼっていくその自然さが抜群である。
そしてまた、幕末の情緒をまるで目の前で映像としてみてるかのように描き出すその描写のうまさと、ダイナミックな人間の営みのリアルさにひきつけられることは間違いない。
幕末独特の「化け物」や「神隠し」などで片付けられるような「不思議」と、今も変わらない人間の愚かさから起こる事件が融合し、見たことのない昔の時代への郷愁を呼び起こすと同時に現代にも通用するミステリとして出来上がっている。
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面白いです。
ただミステリとしては微妙。ミステリとして確立する以前のモノなので時代物として読んだほうが楽しい。
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尖がったトリックなんてものは無いんですが、凄くいいのは何故? 回想形式の効果なのかしら? 読んでいると、ゆったりとした時代の時間が流れてくる感じ。『なめくじ長屋捕り物帳』シリーズの都筑道夫さんが解説かいてます。
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昭和初期執筆の作品とは思えない作品です。
単に岡っ引きが犯罪者を取り締まるものではなく、若者(作者)が引退した老人(半七)との会話を綴った形式となっている。
ストーリーテラーは従って半七でありそこがまた味を出しているところになっている。
鬼平犯科帳とは違ったとりもので時代小説が好きなら一度は読んでみて欲しい作品です。
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おもしろかった!!
元祖というから、よっぽど難しいのかと思いましたが、現代の言葉で書かれているし、読みやすかったです。
読み始めて、あっという間に半七に引き込まれました。
2を読むのが楽しみです。
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探偵小説の元祖。新聞記者である「私」が、かつて岡っ引きであった半七老人に、江戸期の様々な事件の話を聞く、といった形の時代小説短編集。
あっと驚くような謎解きこそないが、闊達に描写された江戸庶民の暮らしの中に、自然と引き込まれていき、読みやすい。
後の時代小説家たちにも、大きな影響を与えた作品だけに、一度は読んでみたい。
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ミステリ未満、冒険以上。肩の力を抜いて気楽に読める捕物帳。江戸時代に岡っ引きだった半七老人の懐古譚という形で物語られていきます。岡っ引き半七親分の慧眼と、江戸の情緒、軽快な語り口が魅力な珠玉の14篇。
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捕物帳の原点とも言われる半七捕物帳、とても久しぶりに読んだ。ときは明治20年代、若い新聞記者が老人となった半七に江戸自体の捕物の物語を聞くというストーリー。江戸の語り口も鮮やかに、グイグイ引き込まれていく。
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捕物帳の最高峰と評価される作品。
江戸の庶民生活がいきいきと描写されています。
物語は一話完結方式で読みやすく、時代小説に馴染みのない人でも入りやすいでしょう。
明治時代を背景に老人となった半七の語りで物語が進められます。最後は半七老人が直接的な言葉で明快に種明かしをしてくれるので読後感がすっきり。
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時代推理小説、というのがいかほどのものなのか、精通している人をついぞ見たことがないのは、ジャンルの幅が限られているせいなのか、それともあまり顧みられないためなのか、はたまた私の知見が狭いからなのか。
どれだろうとこの際構わないであろう。
少なくとも、私はあまり知らないジャンルであることは確かである。
時代推理小説は、この方都筑道夫しか読んだことがない。
しかも、読んだと言ってもつまみ食い程度。内容も殆ど覚えていない。思い出せるのは、地面に砂絵を書くセンセーくらいである。
こんな調子であったから、腰をいれて時代物を読もうと思ったのであった。
そのはじめが本書である。
時代推理小説の嚆矢である「半七捕物帳」であるが、古臭さを不思議と感じさせない。大正・昭和をまたにかけて書かれたものとは思えない。
トリックは特筆すべきものはない(トリック自体があるかないか、という感じではあるが)のだが、読み心地が良い。成程、筋は押さえているし、キチンと落とすところは落としている感じはする。
本格に疲れたら、本書は最適の清涼剤であること請け合いである。
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あまりにもたくさんいろんな分野の本を読み過ぎて、
自分が読んだことも忘れていた本。
なんで読んだかもすっかり忘れていて
ふとしたことで思い出して、また購入してみた。
ドラマのすいかで市川実日子が教授に何かお勧めの本って
聞いて、教授が出してきたのがこの本なのだった。
興味を持って図書館で借りてみて
一度全巻読んだのでうろ覚えで覚えているけど
読み始めると面白くてやめられない。
でも短編なので1話終わればページを閉じれるのが良い。
捕物帳シリーズは御宿かわせみを全巻持っているけど、
岡本綺堂こそが捕物帳の元祖なのだった。
おもしろくないわけがないのだ。
江戸話が好きな人なら絶対面白いはずの本である。
江戸にどっぷりつかった話でなく明治になってから
岡っ引きだった半七の話を新聞記者のわたしが聞きに来る
という昔語りの手法をとっているのがまた面白いと思う。