- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
現代アメリカの政治文化 多文化主義とポストコロニアリズムの交錯 みんなのレビュー
専門書
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
紙の本
「人種の壁」
2008/11/01 23:22
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
不慮の事故により、46歳の若さで世を去った辻内鏡人氏の遺稿集。
歴史学者のバーバラ・フィールズの指摘だが、「白人の女性が黒人の子どもを出産することはありえるが、黒人の女性が白人の子どもを出産することはありえないとする社会通念」が根強く残っているのがアメリカだ。
本書で語られるのは、人種主義、つまりは「人種の区画線(カラーライン)」によるものの見方とそれからの脱却を、どうやってなしとげるかである。これは非常に難しく、著者もすっきりとした解答をだしているわけではないのだが、考えるための手がかりは与えてくれる。
例えば多文化主義の系論の一つであるアフリカ中心主義は、「人種」の覚醒をとおして、人種主義を克服しようとする思想の試みだ。これについては、ポストコロニアル思潮から批判が出ている。それは人種という枠組みをとおして自己理解を使用とするエセンシャリズムであり、むしろ人種主義を容認することになってしまうというものだ。
このポストコロニアルの立場からの批判は鋭く、論理的な次元では否定しがたい。だが、著者はそこに隘路があるとする。
1.ポストコロニアルからの「アイデンティティの政治学」批評は手続き論的であり、「不可視の存在」ないし隷従と周辺化を強いられた人びとが抱かされる、人種主義の脅威や実存的な恐怖についてはあまり共感が見られないこと。
2.ポストコロニアルの議論は、主流文化に権益を見出す支配的なWASPの論調と共鳴する点すら有しているようにうかがえること。
3.個人主義的な立場から、集団主義的な「自己理解」としてのアイデンティティ感覚を否定する論法は、二分法的な対比を想起させること。
4.日本におけるポストコロニアルの議論は、共同体的な原理に対する批判の強さから、個人主義に対する認識の甘さをもっていること。
こういった隘路をいかに突破していくか・・・。著者はポストコロニアルの立場と異なる点として、思考の順序としては「人種」をいったんはくぐらざるをえないと考えている。
また、自由主義的な個人主義論にも警戒の目を向ける。
《かつて白人は、土地を、近代的で個人的な所有とすることによって、部族共有制に基礎をおいたアメリカ・インディアンの共同体を破壊し、彼らの広大な土地を合法的に奪い、その文化をほとんど根絶やし状態にしてしまった。こうした歴史を想起するならば、個人主義や自由主義などの近代的な原理やイデオロギーにも無批判でいることはできない。したがって、文化が暴力的であり、シオニスティックであるというばあいも、そのようなポストコロニアルの批判がどのような文脈のなかで発せられるのかよく検討せねばならない。》
カラーラインから脱却するために有力とされるカラー・ブラインド論についても、著者はこれがミドルクラスのイデオロギーであることに注目しておく必要があるとする。
これら、交錯する複雑な議論における押さえておきたい論点と問題点を浮き彫りにしてくれるところに、本書の貴重性がある。辻内氏の夭折が惜しまれる。
* アメリカ大統領選であるが、皮肉にも金融危機によって「人種の壁」が低くなったとのことだ。オバマ陣営は、これで接戦から有利な地歩固めへと移行した。経済問題がなければ壁が高いままというのも困ったものだが、さてどうなることだろうか。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |