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紙の本
宮沢賢治は聖人ではない。
2002/02/01 19:18
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投稿者:コウヘイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮沢賢治がまるで聖人のように語られている。
私は知らなかったが、「宮沢賢治」って教育関係者の間では「いじめ対策」として教科書に掲載されているらしい。『よだかの星』とか『銀河鉄道の夜』とかの一連の賢治作品が「文部省がいじめの例として挙げる『仲間外れ』『集団による無視』『言葉での脅かし』『冷やかし・からかい』と符合」(産経新聞)すると見ているようだ。本多信一っていう産経で人生相談している人も、『雨ニモマケズ』を朗読させることでいじめは減るはずだと主張していたらしい。
「皆で『雨ニモマケズ風ニモマケズ…』と一斉に朗読したからといって、いじめがなくなるとも思えないが、まあ物は試し、やってみたらいいんじゃないか?」、とそう思ったあなた。気持は分かりますが、宮沢賢治を絶対に誤解している。
例えば、宮沢賢治が戦前、天皇神格化(天皇教)の一翼を担った国柱会(「八紘一宇」という言葉の出所です)に参加していたことを知っていますか? 国柱会の教祖(?)のアジ文と賢治の作品が似ていることを知っていますか? 賢治がブルジョアジーの立場から抜けきれなかったことをしっていますか?…。
序章に「名高い賢治礼賛の学者たちがみな意図的に見過ごしてきた『デクノボーとしての賢治』を再生させ、<聖者伝説>と化した『賢治の亡霊』を葬る、スキャンダラスな賢治論なのだ」と書いてあるように、吉田司さんは、賢治は聖者ではない、と考える。賢治は間違いなく金持ちの息子という「遊民階級」でだからこそ苦しんだ、その過程で「空想的=現実を直視しない」文学が誕生したのである、とする訳だ。
吉田司さんのあの独特の文体が醸し出す対象や素材との距離感で、引用だらけの論文(むしろ「エッセイ」かな)なのに、面白く読みやすい。ちょっと哀しい「賢治」物語である。
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