紙の本
長大な幻想詩
2019/03/01 18:08
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投稿者:n - この投稿者のレビュー一覧を見る
アウシュヴィッツ強制収容所の生還者であるプリーモ・レーヴィは,手記『アウシュヴィッツは終わらない』を生還直後に書きましたが,それから40年後に癒えない苦しみとの戦いの記録を『溺れるものと救われるもの』において著しました。
そのエピグラフに引用されているのが,コールリッジの「老水夫行」です。(上島訳ではありませんが)
「それよりこの方いつとはなしに/かの苦悶また帰り来たるや/わがもの凄き話終へでは/この心衷に燃ゆるなり」
ある苦難を経験した老人が,永遠に消えない苦悶の記憶を,語り続けることなくしては,憎しみに心を焼かれる様がたったこの四行から伝わってきます。
コールリッジの背景は知りませんでしたが,この言葉の力強さに引かれ,この本を手に取りました。
しかし,この詩が,この岩波文庫で,「幻想詩」に分類されていることからもわかるように,人生の教訓や,辛い思いを内に噛みしめる老人の苦悩が歌われているのではなかったです。
むしろ,想像の戯れの冒険譚として,ファンタジー映画を見ているような,ワクワクした気持ちを味わえました。
同じ詩でも文脈によって全く異なる効果を与える一例として大変興味深かったです。
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「クブラ・カーン」「クリスタベル」「古老の舟乗り」など、幻想詩を漏らさず収録、和訳。
卒論に古老の舟乗りを組み込みたかったけれど、こりゃあ一大事ですね。
阿片常用の詩人が描く幻想に憧れて読みはじめましたが、手痛いことになるかもしれません。
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コールリッジは19世紀イギリスの詩人
アメリカ・サスケハナに原始共産社会「パンティソクラシー」を実現
しようとするも挫折し
その後、アヘン吸引にはまりつつロマン派として名声をなす
代表作は、アヘンの幻覚を描いたものとして知られる「クーブラ・カーン」など
ザナドゥに建立されたクーブラ・カーンの壮麗なる歓楽宮は
多くの戦いと、多くの死者の怨嗟を吸い上げて
美しい音楽に変える
そこは生と死を円環としてつなぐ場所である
それがコールリッジにとっての「世界の終り」だ
アビシニアの美しい乙女がつまびくダルシマーの音色こそ
ザナドゥの入り口であると彼は言うが
現実にその役割を果たすのはアヘン吸引である
クーブラ(クビライ)・カーンは、ジンギスカンの孫であり
元の皇帝として、敵・味方問わず多くの人命を奪ってきた
…暴力の上に築かれる理想
それをふたたび夢見る者たちのロジックが、のちに多くの悲劇を生む
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孤独を恐れる社会的な生き物である彼の悲劇の物語『フランケンシュタイン』を読んだ時から気になっていた、サミュエル・テイラー・コールリッジ『老水夫行』
「・・・それはさながら、寂しき道を行く人の恐れ、おののき歩むさま、ひとたび頭を巡らせば、二度と振り向くこともなし。 フランケンシュタインより」 呪いから解放され港へと戻ることができた老水夫と対照的な彼には、名前がなかったね。
孤独で不安だった彼が船から飛び降りた。あれは、黒い波の彼方へ落ちて行く夢だったね、漱石の第七夜。
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バーティがよく引用する「老水夫行」がいったいどんな詩なのかと思って。
せっかく船を導いてくれそうだったアホウドリを意味もなく殺しちゃって死骸をくびから十字架のようにかけられて、なんとか生きて帰ってきて、あげくにその体験を結婚のお祝いの場に行こうとしている若いもんをつかまえて語りきかせるなんて!おいおい(笑)と思う。
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《目次》
I 〈人生詩編〉
1. 人生
2. ソネット――オッター川に寄せて
3. ソネット――大学に向けて学舎を去るに際して
4. 家庭の安らぎ
5. 幼子に寄す
6. 子どもっぽいがとても自然な夢――ドイツにて
7. 郷愁――ドイツにて
8. 宿なし
9. 失意のオード
10. 青春と老年
11. 島流し
12. 墓碑銘
II 〈政治詩編〉
13. バスチーユの崩壊
14. アメリカにパンティソクラシーを建設する見通しについて
15. ロバの子に寄せて
16. ひとり寂境にあって抱いた不安
III 〈政治詩編〉
17. リューティ――あるいは、チェルケス地方の恋唄
18. 恋
19. 恋の形見
20. 真昼の夢
21. 別離
22. 恋の思い出
IV 〈田園詩編〉
23. 詩章――ブロックリー谷の左斜面を登る
24. アイオロスの竪琴
25. このシナノキの木陰はぼくの牢獄
26. 深夜の霜
27. 小夜啼鳥――会話詩
V 〈幻想詩編〉
28. クーブラ・カーンあるいは夢で見た幻想――断章
29. 古老の舟乗り
30. クリスタベル 第一部