紙の本
日本の自然の豊かさをどう見たらよいのか?
2005/11/27 23:35
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「植生」というと、一般にはやや耳慣れないことばだが、要は、植物を個々の花や木単位で考えるのではなく、その場所に成立する集団を全体的にとらえようとする概念であるという。必然的にその場所の気候や土壌なども含めた理解が求められる。いわば、ガーデニングなどとは対極的にある発想と言えるだろう。同時に、環境問題や自然保護を考える際に、もっとも必要とされる視点ではないだろうか。マングローブから雪に耐える針葉樹林まで、多種多彩な植物群落を抱えもつ日本の植生をコンパクトにまとめた点はなかなか得難く、通読するというより、常に携帯して参照できるハンドブックである。
さて、本書が出たのは現在より30年前の1975年。環境庁の設置が1971年であるから、やっと「環境問題」が世間に注目されるようになったころだ。刊行当時は「環境教育」の手引きとして注目を浴びたという(「まえがき」より)。なるほど、図鑑的な分類ではなく、照葉樹林帯から海岸や都市林まで、写真等の豊富な図版を添えた肌理のこまかい紹介は、身近な植生を見る視点を培ってくれる。後には、著者の一人である岩瀬が、一高校教師として「校庭の雑草」などを素材に同様の環境教育書を次々と出していったが、その原点にあたる。
30年後の現在、「知床」が世界遺産に指定されたように、「環境問題」という言葉は世間的にはほぼ定着したといってよい。しかし、その考え方はそうやさしいものではない。単に「保護すればよい」で済むわけではないことはよく指摘されることだが、本書でも、「植生」を見るときに、安定的な部分(極相という)だけではなく、変化する部分(遷移)も含めて教えてくれる。この変化への対応が、環境問題のむずかしさのひとつなのだろう。
2005年にはカラー化し全面的に改訂した新版が元の出版社から刊行されたが、旧版である本書を文庫化した講談社の慧眼も高く買いたい。
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我が国の植生を豊富な写真や図表で分かりやすく紹介した入門書です!
2020/04/07 10:41
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、我が国の北海道から南西諸島に至る多様な気候のもとで存在する植生について250点以上もの写真や図表とともに解説した「日本の植生」についての入門書です。同書では、植物を個体としてではなく、群落として捉えながら、その分布と遷移を軸に生育環境との密接な関係が解明されており、「照葉樹林帯」、「落葉広葉樹林帯」、「常緑針葉樹林帯」、「森林限界」、「高木限界」、「樹木限界」、「高山帯」、「雪田の植生」、「火山の植生」といったテーマのもとで、既存の植生が詳しく紹介されています。自然保護や環境問題を考える上では必読の書と言えるでしょう。
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その名の通り、日本の植生の概観をまとめたもの。
60項目に分かれており、写真や資料が豊富に挿入されている。
朝倉書店刊『図説 日本の植生』を底本としており、1960~70年代の情報が元になっている。
このため現在においては、すでに絶滅したり遷移が進んでしまった植物群落も多いことが若干残念ではある。
しかし、内容そのものは現在でも十分に価値があり、沼田氏の業績は今後も高く評価され続けるに違いない。
やや高度な内容が含まれるので、農学部で生物を専攻しており、植生に強く関心を持っている人向けの本だろう。
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人為的退行遷移も詳細に記述している。確かに、かなり古い書であり、植生状況は現代とは違ってきているのだろうが、それよりも本書から汲み取るべきテーゼは、ススキを含め、草原になってしまったら、爾後の管理には相当の注意が必要だ、という観点。◆2002年(底本1975年)刊行。著者沼田眞は千葉大学名誉教授。同岩瀬徹は元千葉県立千葉高等学校教諭。
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森林、湿原、水辺、草原のほか、竹林、雑草、人里植物、帰化植物、干拓地など、あらゆる植生について解説されている。教科書的だが、わかりやすく書かれているので勉強になる。
・落葉広葉樹林帯の先駆種は、アカマツ、カラマツ、シラカンバなど。
・アカマツは乾燥しやすい貧栄養の土地で育つ。アカマツ林が広がったのは、人為作用が繰り返された結果(p168)。
・常緑針葉樹林帯の先駆種は、カラマツ、ダケカンバ。
・暖かさ指数は85度以上だが、寒さ指数は-10度以下となる地帯には、イヌブナ、クリ、アカシデ、コナラ、イヌシデ、ムクノキなどの暖温帯落葉樹林がはさまる(p162)。
・高山帯を代表する植生はハイマツ低木林。積雪による庇護が少ない風衝地では、小型低木の高山風衝ヒース(ハイデ)が広がる。
・浅い沼にヨシなどが侵入して植物遺体が堆積すると低層湿原になる。酸性化した貧栄養の土壌に耐えられるミズゴケが成長して丘状に盛り上がったものがブルトで、それが全体が盛り上がったものが高層湿原(尾瀬ケ原、八島ヶ原が代表的)。
・泥炭の堆積速度は1年に1mm。
・地下水位が高い湿地にはハンノキ林やヤチダモ林が形成される。水位の低い湿地の植生はエノキ、クヌギに代わる。
・水辺の水際にはヒメガマやマコモ、河川敷にはヨシ、より高いところにはオギが生育する。ヨシやオギが刈り込まれると、セイタカアワダチソウが侵入する。
・本州の海岸部にはクロマツ林が、北海道の海岸部ではカシワ林が見られる。
・高山帯を除いて、日本の気候はほとんどの場所が森林の成立しうる条件を持っているため、草原の大部分は人為作用によって保たれている。
・関東地方の草原ではススキの中にアズマネザサが混じることが多く、西日本ではネザサが主要でススキやシバが加わる。東北地方を中心とした冷温帯地域ではシバが優占種となる。
・竹林は遷移の途中相であり、人手が加えられなければ落葉広葉樹や照葉樹林の樹種が侵入して移り変わっていく。スギの造林地は竹の生育条件と似ているため、竹が広がることもある。
<追加調査>
ヨシ:イネ科ヨシ属。ヨシズに使われる。
オギ:イネ科ススキ属。草丈は1〜2.5m。ヨシよりは乾燥した場所を好むが、ススキが生えるほど乾燥した場所には生育しない。
茅葺(かやぶき)の茅はススキやチガヤ、ヨシ。藁葺の藁は稲藁、麦藁。
http://www.hirahaku.jp/web_yomimono/tantei/ogkensak.html
http://tamatsubame.txt-nifty.com/news/2004/07/post.html
http://oba-shima.mito-city.com/2011/12/01/shimagaya2/
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日本は山国であり、海国でもあり、南北東西に細長く、四季折々の多彩な自然環境の中に位置している。
植物の群落分布、いわゆる「植生」の面でも極めて多様なわけだが、それぞれ代表的な樹種や環境別に62の章を設け、日本の津々浦々までをくまなく眺め渡した本である。
非常に普遍的な内容なのでこれでいいんだろうけど、原著が1970年代に書かれたものであり(2002年に文庫として復刻された)、文庫収録の頃にはすでに消失した景観があるなど、やや古さを感じさせる。
それでも、例えば照葉樹ってどういうものだっけ、湿地帯の基本植生ってどんなだっけ、と思った時に、またパラパラとめくってみたくなるところが名著たるゆえんであろう。
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興味本位で読んでみました。なかなか難しい部分もあるので、辞書的な使い方をしていこうかと思います。写真もあって内容は充実していると思います。