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紙の本
新しいサッカー小説のかたち
2002/08/06 00:16
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投稿者:片桐真琴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品の舞台はイタリアのセリエA。主人公は作家の矢崎剣介と、フランスワールドカップ後にイタリアのクラブ・メレーニアに移籍した夜羽冬次(ヤハネトウジ)。矢崎と冬次はフランスワールドカップ・アジア地区予選の最中に知り合い、以来、食事をしたり、メールを交換したり、という間柄。メレーニアに移籍し、チームの中心として活躍しはじめた冬次はあることに不安を感じるようになる。ヨーロッパのリーグで、試合で活躍した非EU籍の選手が試合後に心臓麻痺で死亡する、ということが起きるようになっていたのだ。冬次はそれがドーピング薬のせいではないかと疑い、矢崎にあることを頼むのだった。そして矢崎は“アンギオン”の存在を知ることになる…。
これが小説の始まりで、物語の詳細は読んでからのお楽しみ、ということでこれ以上は書きません。ここに登場する夜羽冬次は、作者があとがきで強調するように、中田英寿選手とは「全然別」で(といっても、ある一つのモデルとしているのは確かなように感じられるので、中田選手をイメージして読んだ方がよりリアルに感じられるでしょう)、メレーニアというチームも架空のものです。が、登場する相手チームと選手は、ユヴェントスやジダン選手はじめ実名で登場するので、一瞬小説であることを忘れそうになります。
本の後半の、メレーニアのセリエA残留をかけた、優勝をかけるユヴェントスとの最終戦の描写は非常に詳細で、ピッチを頭の中にイメージし、それぞれのシーンを明確なかたちに変換しながら読んでいると、実際にスタジアムでゲームを観戦している気分を味わえます。ここまで言葉だけでサッカーのゲームを、それも架空のゲームを、表現した文章には初めて出会いました。“アンギオン”をめぐってはやや消化不良の感がしないでもないけれど、スポーツ小説としては一級の作品であることは間違いありません。
紙の本
コーナーキックの混戦の謎も解けた
2002/06/18 13:21
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投稿者:せいじろうず - この投稿者のレビュー一覧を見る
ワールドカップ2002のおかげでレベルの高い試合がたくさん見られてうれしいです。ところでサッカー初心者の僕は、コーナーキックのときにゴール前の選手達は敵味方入り乱れて服や手をひっぱりあって、あれは何しているのだろうかと不思議でしょうがなかったのですが、この本を読んでようやくわかりました。
わかりやすくかつ高度なサッカーの知識、イタリアにおけるサッカーのありかた、イタリアの食べ物と街の風景、キューバの太陽。いろいろなことが読め、しかも小説としても、とてもスリリングでおもしろい本でした。
紙の本
悪魔の痛切天使のカタルシス
2002/05/26 18:22
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品のほぼ四分の一、九十頁にわたって繰り広げられるメレーニア vs ユヴェントスの壮絶な戦いと臨界点へ向かう熱気と心も凍る冷気が入り交じる観客席の描写は、あの『五分後の世界』の長い長い戦闘シーンをひょっとすると凌駕しているのではないかと思わせる興奮とカタルシスと痛切を湛えていた。
著者は「あとがき」で「選手たちはピッチの上で、自分の物語などには関係なくシンプルにボールを追い、ボールを蹴っている。…ピッチは選手たちのものであり、選手たちの聖地だ。わたしは、サッカーがいかに魅力のあるスポーツかということを描きたかった」と書いている。
この目論見はものの見事に成功していて、だからユヴェントスとの死闘を繰り広げる夜羽冬二が死のドーピング剤アンギオンに犯されているのかどうかといった「物語」的趣向などにはいっさい関係なく、私はただただシンプルに息をのんで冬二の「天使のゴール」が繰り出されるゲームの推移を見守った。その余の部分は、対パルマ戦と冬二の「悪魔のパス」が見られる対フィオレンチーナ戦の描写を除けば、DNAの剰余部分のようなもの、あるいは図と地の対比でいえば地であって、作家村上龍の濃度(強度・密度)の迸りとも筆の遊びとも言えば言える。
村上龍は『奇跡的なカタルシス』で「サッカーのカタルシスは爆発的でそれがゴールという奇跡によって成立することを考えると宗教的ですらある。サッカーより刺激的な人生を送るのはそう簡単ではないような気がする」と書いた。これをもじるなら、サッカーより刺激的で宗教的な小説を読むのはそう簡単ではない。そのことを完璧に示したのがこの小説で、それは凄いことだ。