紙の本
SFの作りだすヴィジョンの面白さ
2004/05/25 19:34
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投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
私がSFに求めているもののなかで、結構大きな比重を占めているのはヴィジョンの面白さだ。
だから、バラードの諸作・特に「結晶世界」などの破滅三部作や、オールディスの「地球の長い午後」、プリーストの「逆転世界」、ディックの諸作・特に「逆まわりの世界」(これを推す人にはあまりお目にかかったことはないが)なんかの異常な世界を現出させる作品がかなり好きだ。
ヴィジョンとはまた、そういった奇抜なイメージだけのことを言っているのではなくて、世界そのものの原理いわば世界像のことも含めて考えている。
世界像とは、物理法則や物事の秩序の体系または、世界観や歴史なども含めたもので、その世界に住む人々が思い描く世界についてのイメージ総体である。多くのSFはこの世界像の大きな転換に立ち会ったり、われわれの持つそれとかけ離れた世界像を提示する。
前置きが長くなったが、小林泰三のこの作品集には、その二つのヴィジョンの魅力を持った短篇が詰まっている。
まず冒頭の「時計の中のレンズ」は、きわめてスタンダードな少年の成長物語が描かれつつも、それが展開される舞台は異形きわまりない世界である。〈歪んだ円筒世界〉と〈楕円体世界〉が〈カオスの谷〉を接してつながっているという設定なのだが、その〈歪んだ円筒世界〉と〈楕円体世界〉というのが、名前の通りの形状を持った世界というのが想像を絶する。記述を繰り返し読んでもどうにも具体的にどうなっているのかがつかめず、図版かイラストでも入れて欲しいと思ったほどだ。〈歪んだ円筒世界〉は縦長のパイプのようなスペースコロニーを想像したのだが、〈楕円体世界〉とは、どうなっているのか。
その世界で、重力が弱まってしまったため強風が吹くだけで石つぶての猛烈な嵐が来るという災害や、〈カオスの谷〉で石や岩が宙に浮いていて、その間を縫って向こうへ渡る場面などが展開される。
ある世界を構築し、その世界で起こりうる奇抜な場面を演出するのである。
そして、これらの世界が、どうもある種の計算によって構築されたものらしいのだ。関数電卓を使えば計算でき、どんな世界なのかわかるらしいのだが、いったいどんな計算なのか私にはさっぱりわからない。
まあ、しかしそんな計算は読むあいだには必要ないので、そこら辺は心配する必要はない。作中で描写される世界の光景がどんなものかを想像することができるか、を心配するべきだろう。
また特に印象深いのは「海を見る人」で、これは時間の進み方が異なる二つの村の少年少女の恋愛物語になっている。
この時間の進み方の異なる村のあいだに引き裂かれた二人は、遠眼鏡を使って相手の村を眺めるのだけれど、時間の進み方の早い村では、相手の村の一分一秒が自分の村の一日にあたるほど時間の進みが遅いように見え、時間の進みが遅い村からでは、相手の村の様子は素早すぎてぼんやりとしか見えない。
海に向かえば向かうほど時間のすすみが遅くなる世界で、二つの村のあいだの恋愛は、ある奇抜なイメージを引き寄せる。このラストシーンが何とももの悲しく印象的である。
世界そのものの奇抜な設定と、そこで展開される奇想のイメージ。
他の収録作もそれぞれ面白く読んだ。前に読んだものと比べて違うなと思った点は、これらの短篇が意図して端整に書かれている点だった。「母と子と渦を旋る冒険」には底意地の悪さが見られたけれど、他の作品は少年少女の恋愛を物語の骨格に据えてきわめてスタンダードなSFを書こうとしているように見える。
少年少女ではないが、「天獄と地国」は世界の謎を解き明かすために、仮説の検証や実験を試みてこれまでの世界像が変貌する話で、「門」の落とし方なんかも古典的なSF短篇を思い出させる。
物語として、SFとして、そしてヴィジョンの面白さ、どれも水準以上の面白さを持った好短篇集である。
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SF短編集。表題作も良いが、2作目の「独裁者」が手塚治虫の作品のようで一番好きだなあ。(2002.10.17)
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SF短編集。表題の「海を見る人」は、標高が高くなるにつれ時間のスピードが速くなる世界での物語。時間がゆっくり進む海の村に住む少女と、反対に時間が瞬く間に過ぎていく山の村に住む少年の恋は…??
ラストは結構泣けます。
短編の合間にある、語りもなかなかよいです。
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場所によって時間の進行が異なる世界での哀しくも奇妙な恋を描いた
表題作、円筒形世界における少年の成長物語「時計の中のレンズ」
など、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚異の異世界を描いた
7篇を収録したSF短篇集。
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ハードSFです。短編集です。
表題作の「海を見る人」だけでなく「独裁者の掟」「門」など、切なくなるような、感動的な話が収録されています。
SFが嫌いでない方はぜひ。
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場所によって時間の進行が異なる世界での哀しくも奇妙な恋を描いた表題作、円筒形世界における少年の成長物語「時計の中のレンズ」など、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚異の異世界を描いた7篇を収録したSF短篇集。
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SFの短編集。表題作の「海を見る人」が切なくて好き。SFはあまり読まないけれどこれは情緒的で面白かった。
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「ハードSF」というジャンルだそうです。
電卓を片手に楽しむ超硬派な世界観らしいのですが、もちろん私には全く理解できません。(そもそも電卓で何を計算するのかわからない)
でも理解できないのに好きなんです。
この作者の作品は、ホラーもSFもびっくりするような論理で展開されるのに、不思議と心地好い。
この作品も科学部分は理解できないながらも、楽しませていただきました。
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「独裁者の掟」に鳥肌が立つこと間違いなし。
独裁者と反感を持つ者の行動と意味。
過去と現在を織り交ぜて、
「正義」
の定義を問うております。
最後にもう一度。
「独裁者の掟」に鳥肌が立つこと間違いなし。
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夏祭の夜、浜から来た少女と恋に落ちた私は、一年後にまた会いに来るという儚い約束を交わした。なぜなら、浜での一年は、こちらの百年にあたるから・・
時間枠が歪んだ世界や、奇妙な世界でおこる物語。
不思議な世界観でした。時間の進み具合が違う世界の話や、円筒形世界での物語・・そして宇宙での話など。どの話も難しい言葉で理論が述べられているのですがちんぷんかんぷんでして・・そちらに気をとられてしまうと、内容が入ってこなくなってしまうので、まあいっか と単純にストーリーを追うことにしました。
世界の歪みゆえにすれ違ってしまうようなストーリーが多く、なんとなく切なくなくなる話でした。
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2010年4月13日読了。第10回SFマガジン読者賞国内部門受賞作。球体の内側で「上に向かって落ちる」引力が存在する世界での冒険譚や、時間の流れが違う世界で生きる男女の淡い恋物語などを7編収録。作品世界を貫く論理は科学者の著者らしく、整然と展開される。そのほとんどは理解できないが・・・。独特の「冷酷な感じ」は、結局のところ人間=システムなのであり、システムを恨み人間性を賛美するような考え方は無意味・愚かであるとする世界観(当方の思い込みかもしれないが)から来るのか。我々の論理を超えた異常な世界であれ描かれているのは「他者を自分と同じように理解することはできない」というコミュニケーション不全の悲劇と希望であり、すぐれたSFはすぐれたファンタジー、恋愛小説になるのは必然なのか。
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SFでも年代が違うと扱う事象みたいなのがずいぶん変わる。けどいいなと思うものって結構おんなじトリックとかを扱うような気がして結局なにか不思議な一貫性があるんだろうなと思うがそれを実際に書き示せないこの状態をなんとか克服したい。
母と子と渦を旋る冒険はどうやら著者的には電卓を叩いて実際に計算しながら考えることが面白くなる秘訣みたいに書かれていたけど、どうもそういうのが苦手な自分はこの掲載されてる中では最後やその他の描写の黒さに感覚がいってしまいあまりい感じには見えなかった。
良かったと思ったのは「門」と「キャッシュ」。使っているトリックはSF的によくあるけれどもそれをきれいにアレンジしてるところがいい。何となく全体的に女性像が強いと言うか優位的な立場とか感性にある気がした。
各章の最後にある短文がいいところをついてて次の物語を引き立ててたと思う、そこを読んだ時にどう感じるかでこの本がいいか悪いかが分かれそうな気がする。個人的にかなりいい導入になった
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「海を見る人」小林泰三
SF短編集。銀色。
泰三さん!こういうのも書けるんじゃん!!笑
と突っ込みたくなるほど「健全な」SFストーリー。いつものスプラッタな雰囲気と精神を病みそうな叫び声エトセトラはどこに行ったの!?
いやあ・・・してやられました。嬉しい予想外の出来事だったなあ。
そして内容がまたまた自分の大好きな方向で。
やっぱりはずれないですね。泰三さんのSF描写は。がっつりハードな設定をもってきているが、しかしその上にたっている物語はあくまでも表情豊かで人間的な物語たち。イイ!
多岐にわたる世界観をもってきつつその全てがハイクオリティ。
宇宙が好きな人には是非お勧めです。(5)
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ハードSFの短編集です。
次回予告のような幕間もあります。
非常に面白かったです。
複雑で高度な科学ネタが入っていますが、あとがきにも書いてあるように「高度な科学は魔法と変わらない」ということで、読むのに科学知識は無くても大丈夫です。
気に入ったのは「門」「母と子と渦を旋る物語」です。
特に「門」の最後にはやられたって感じでした。
過去も未来も原因も結果も結局は堂堂巡りになってしまうというところが面白かった。
最後の宇宙船への攻撃は、ある程度予測済みでしたが、艦長があれだとは…。
いや~、やっぱり面白い!
この人のホラーも面白いけど、SFも凄くいい!
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良かった! とにかくファンタスティック! 小林作品は当たりはずれが、私にとっては大きいのだが、今回は大当たりかな。
オープニングの「時計の中のレンズ」はイマイチ。世界観がわかりづらい。次の「独裁者の掟」はなかなか良い。この流れ好きだなぁ。
そして既読の原作「天獄と地国」はやはり原作も理解しづらくマイナスポイント。
次の作品「キャッシュ」が仮想現実ものとしては驚きの出来。これがこの作品中最高作品だと思う。閉鎖宇宙船で乗組員の退屈を回避するための仮想現実システムが崩壊に向けて進んでいる。それはなぜか、その解決方法はなにか。仮想から現実へと仮想で向かうさまなどがすばらしいし、あっと驚くエンディングもさえている。
次の「母と子と渦を旋る冒険」の意味がわからん。そして既読の(竜の卵を思わせる)「海を見る人」はまぁまぁの感じ。
そしてラストの「門」がまたまた衝撃的に良い。バクスター(もちろん時間的無限大)色が少しするとともに、前半の「独裁者の掟」の香りも残る。途中で筋が読めてくるんだが、とのかくラスト数行のくど過ぎず、かといってあっさりしすぎないギリギリの筆致が最高である。
今回の短編集ではみっつも面白いものがあった。これは収穫だ。やはりSFはいいなぁ。次もSFにしようっと!