投稿元:
レビューを見る
上毛かるたを制作した男、浦野匡彦の半生を描いた本。満州国の官吏、敗戦と引き上げ、そしてGHQ占領下での戦後復興と、激動の時代の中で上毛かるたの制作に「挺身」する様子が、実子である著者の目線から情感豊かに語られる。
上毛かるたと言えば、群馬県民の間で圧倒的知名度を誇る郷土かるたであるが、戦後復興の中で作られたであるとか、制作過程で札に込められた意図などはあまり表には出されず、私自身『お前はまだグンマを知らない』で知った身だ。
「鶴舞う形の群馬県」にシベリア送りにされた同胞への思いが込められているだとか、「誇る文豪田山花袋」に靖国神社への思いが込められているだとか、「雷と空っ風義理人情」に隠されたGHQの意向により札に込めることのできなかった群馬ゆかりの人物の心意気であるとか。
戦後の復興の中で、「敗戦直後に出されたGHQの歴史地理、道徳教育禁止という耐え難い占領政策を受け入れた中で、せめて子供達に日本民族の誇りを失わせたくないとの思いを、教科書に代るものとして遊びの中から学べるものはないかと考えた」(p.69)という発想からスタートし、制作趣意書の中では、
----------------------------------------------------------
主戦直後の国内の混乱と退廃は、その起因とする処郷土愛の欠如にあると言って過言でない。
烈しい祖国再建への意欲は、郷土を再認識し、郷土に対し親愛の念を抱くことによって盛り上るものと信ずる。
特に夢を失った幼き者達に郷土愛を植え付け、彼等に崇敬と憧憬の対象を与えることこそ国家百年の大計ではあるまいか。
ここに本会が「上毛かるた」を発行せんとするのは、我等を育んだ郷土の風物、先駆者、歴史等から幾多の希望と教訓とを汲みとり、祖国再建の原動力となさしめんとするものに他ならない。(p.80。一部抜粋)
----------------------------------------------------------
……と、高らかに謳われている。
後半、昔は良かった的な回顧主義に過ぎないと感じる箇所もあるが、戦後史の1ぺージとして興味深い本だったと思う。