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戦争とプロパガンダ 2 パレスチナは、いま みんなのレビュー
- E.W.サイード (著), 中野 真紀子 (訳)
- 税込価格:1,320円(12pt)
- 出版社:みすず書房
- 発行年月:2002.6
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紙の本
「スタンダード」って、一体なに??
2002/07/14 04:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちひ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカに暮らすアラブ(人)である著者が、「9・11」以降のアメリカを中心とする現在の世界を、イスラエルとパレスチナとの対立問題を中心にすえた立場から読み解いている、『戦争とプロパガンダ』の続編であり、Web上に公開された記事を翻訳・収録した本である。アハメド・ラシッドや田中宇の『タリバン』(講談社&光文社新書)と同様、世間にはあまり知られていない/だが一部の識者の間ではもはや「常識」にすぎないであろう事実が数多く紹介されている。
おそらく、自分が今まで「常識」だと思っていたことや、「世界のスタンダード」だと思っていたものが激しく揺さぶられ、それらを再編成せざるを得なくなるだろう(苦痛を感じるかもしれない)。そういう意味では危険だが、ルポルタージュというのは本来こういうふうな危険を伴っているべきなのかもしれない。
正直、これほどのイスラエル批判を読んだことがない私は非常にびっくりしてしまった。また、それが理性的な立場からは反論が不可能な批判であり、つまり…事実であることを知って二度びっくりした。日本がアメリカ寄りであることは以前から知っていた。しかし、アメリカ寄りであることはイコールでイスラエル寄りであるということになってしまうというのは、今回の指摘で初めて知った。自分の無知を恥じたい。
アラブ(人)であることからパレスチナ側であり、かつ、アメリカ市民であることから否応なくイスラエル側でもある著者が、イスラエルをめぐる「報復」や「自爆テロ」に対して冷静な視線を送り、イスラエル・アメリカ側からのみ報道される「真実」が「事実」と大きく異なっているという、…非常に冷静で精緻な事実分析を実行してくれている。そして分析に終始するのではなく、その事実を知った我々がこの問題(イスラエル)に対して一体どのように接していけば良いのか、それを提言してくれてもいる。
また、サイードがこの本の部分部分によって明らかに意識的に使い分けている「われわれ」という言葉が担っているのは「アラブ」なのか? 「アメリカ」なのか? それとも「イスラエル以外」なのだろうか? など、「われわれ」の意味するものを深く考え始めることによっても、読者の世界理解はどんどん深まっていくと思う。
サミュエル・ハンチントンなどが提唱し、現在のアメリカ合衆国やその傘下の国々で圧倒的なスタンダードとなってしまった「世界は二項対立だ! 宗教対立だ! 民族対立だ! 文明の衝突だ!」という(?)単純至極な世界観が醜悪なまでの大間違いであることを指摘し、我々現代人が国際社会を把握しようとするときに何気なく用いている「世界」や「文明」や「民族」や「宗教」などの言葉が表している概念の内実を問い、その定義が非常に曖昧であり、はっきり言って主観の作用でどうにでもなってしまうことを明らかにしてくれてもいる。
「われわれ」が「自明だ」と考えていたほどには、世界に実際に存在する他の世界観や価値観は全然自明ではないのだ。たとえば、イスラエルとパレスチナの対立は宗教対立が根幹にあるものだとしても、政治的な事実や軍事的な事実を無視して宗教対立だけで一刀両断にできる性質のものであるのかどうか。パレスチナからイスラエルに対する「自爆テロ」は本当に「テロ」と呼ぶべきなのか、どうなのか。
これほど冷静なのにこれほど熱い本も珍しいと思う。非常に変わっている。国際関係の「ウラ」ではなく日本のメディアがあまり伝えてくれない「事実」同士の相互関係を知るための好著である。
紙の本
「ひとくくり」の危険性
2002/07/08 13:56
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:米作り - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、著者の経歴を知った上で読んでもらいたい本です。
というのも、パレスチナの問題はその人の属性でまったく違う論点になります。
この本は、パレスチナを支持する考え方にも様々なスタンスがあることの
発見につながります。
私が新鮮に感じたのは、著者が提案する斬新なパレスチナ支援体制です。
「斬新」というのは、パレスチナに住むパレスチナ支持者だけでなく、
世界のパレスチナ支持者によるネットワークを使ってパレスチナ支援に
かかわっていこうというもの。つまり、現在の和平交渉に直接的に携わる
「パレスチナ対イスラエル」とは一線を引いたところにいる、
もう少し「客観的」な立場に立つ人々が協力しよう、というものです。
ここで、私達は国に住む人々をすべて均一なものとして
「ひとくくり」にしてしまう危険性を考えなければなりません。
この本に書かれている提案は、あくまで筆者によるものであって、
パレスチナ全体の意見ではないということです。
なぜなら、外国滞在経験をもち、高等教育を受ける機会を得られた筆者は、
思うようにならない生活を強いられているパレスチナの人々にとっては、
同じ民族でも受け入れがたいものを感じてしまう人がいるかもしれないからです。
この本はパレスチナ問題解決の万能薬になる…とまではいかないと思います。
しかし、アメリカとのつながりが強いこともあって、どちらかと言えば
イスラエル側の文献が多かった日本でこのような「パレスチナ側の声」が
手に取れるということは大変重要な意味をもっています。
パレスチナ研究をされている方はもちろん、テロ後の世界勢力図の変化に
興味のある方は、冷静さを保ちつつ、平和構築への熱意を増長させながら
ぜひ読んでみてください。
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