紙の本
笑いあり涙あり――ちょっと昔のお話を。
2010/01/09 15:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語の舞台は現代の留置場。小悪党が収監されたその檻に突然現れた一人の老人。看守からは「とっつぁん」と呼ばれる松蔵という名のその老人は、留置場では有名な輩ながらも、時折鰻をはじめ豪勢な食事を署長からおごられるという不思議な事情を持つ。
松蔵は看守や刑事に頼まれ、夜な夜な留置場で昔話を披露する。彼は大正の一大義賊「目細の安吉」一家の一員だった。盗られても困らぬ天下や金持ちのお宝を盗んでは貧しい人々に分け与えた「目細の安吉」一家の義賊っぷりは、東京の町で知らぬ者などいなかった。涙あり笑顔ありの松蔵が経験した「目細の安吉」一家に関する昔話を聞いたとき、平成の留置場では、悪党になりきれぬ小悪党は心を改めまっとうに生きることを決意する。
現在では考えられないことだが、義賊は確かに存在したのだろう。有名どころの石川五右衛門、ねずみ小僧…をはじめ、強きに向かい弱きを助ける、義理と人情を何よりも大切に、盗賊といえども世間から愛される。それが義賊。
大正時代に活躍したそんな義賊のひとつ「目細の安吉」一家。松蔵がその一家に「弟子入り」させると実の父に連れてこられたのは数えの九つのとき。安吉は松蔵の弟子入りを受け入れるとともに、親父から松蔵を引き離した――「つれあいは医者にも診せずに死なす、娘は女郎屋に売り飛ばす。酒と博打に身を持ち崩したあげく、今度は倅を盗ッ人にせえと言う。そんな野郎を父親と呼ぶのァ、この子にとっちゃ不憫なこった」
以来、松蔵にとって「目細の安吉」一家は家族となった。人情と義理に人一倍厚く、筋の通らないことは大嫌い、弱い者の味方で強い者に立ち向かうことを厭わない――そんな義賊の生きざまを身につけた松蔵が語る昔話は、平成の世の小悪党の心を魅了し、改心させる。
その改心っぷりがちょっと都合よすぎな気がしないでもないけれど、そこは小悪党なのでそれほど違和感はない。松蔵が語る昔話に登場する人情や悲しさは相当なものなので、小悪党程度ならばすぐに改心しても不思議ではないだろう。
本作は「天切り松(=松蔵のこと) 闇がたり」というシリーズの第一巻で、どうやら第四巻まで出ている模様。連作短編集というわけではないからどの巻から読み始めても違和感はないとは思うけれど、松蔵の「目細の安吉」一家加入のいきさつがわかる第一巻から読み始めるのがやはりいいだろう。
加えて、本作には実在する歴史上有名な人物や出来事が登場し、『ダヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』じゃないけれど作品に感じるロマンに奥行を出しているように思われる(登場する有名人の一例:永井荷風、山形有朋、新鮮組、戊辰戦争…)。
時代小説は苦手な方も多いだろうが、人情ものがお嫌いでなかったら、是非とも読んでいただきたい作品である。そしてこのじんわりくる感動を共有したい。
『闇の花道』収録作品
・闇の花道
・槍の小輔
・百万石の甍
・白縫華魁
・衣紋坂から
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大正浪漫の花咲き匂う帝都に生きた粋でいなせな盗人どもの物語。表紙にも登場している、振袖おこんの女っぷりが見もの。
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朝田次郎って、実は「語る」ことに特別な感情を持っとりはせんだろうかと思い始めている。「シエラザード」しかり「壬生義士伝」しかり、本書しかり。
スリの大親分・仕立て屋銀次に連なる天切り松が「闇がたり」で語る話の数々。
ガタ(山縣有朋)も出てくるよ!(その薦め方はどうかと)
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敬愛するアニイ曰く「プリズンホテルが1面白いとすると、これは100面白い」
ちうわけでお読みしたら、その通りだったのねぇ!アニイダイシキ。
やられたわ。時代も語り口調も中身もまさにmiti好み。もだえました、あたくし。
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バブル期の留置場、1人の老人が"闇の声音"で語り出す昔話。
華やかな大正ロマンの時代を駆け抜けた、義侠心溢れる盗賊「目細の寅吉」一家の活躍譚。
人情味溢れる盗っ人達に胸を躍らされ、最終話で白縫花魁の話に号泣。
愉快痛快、それでいてどこか切ないとっておきの娯楽小説。
天切り松の"闇がたり"に留置人や看守達同様、夢中になってしまう物語。
寅吉一家、かっこよすぎ!!
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個性的なキャラクターと松のべらんめぇ調台詞回しがとにかく格好良い。
泣かしてやろうってのが見え見えの浅田節にきっちりハマッて泣けました。
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私の中で声に出して読みたくなる日本語は、「吉里吉里人」の東北弁講座と、そしてこの「天切り松」。読み終えることには、気分はすっかり江戸っ子。こういう、主人公や作家自身が登場人物に惚れきっていて、(看守のみならず)読者をも魅了してくれる話って好き。残念ながら「空中ブランコ」の主人公にこの魅力はないものね。
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激動の大正を生きる目細の安吉一家。
一家を構える目細の安吉、一家の若頭 説教寅、百面相 書生常、天切り師匠 黄不動の栄治、ゲンノマエ 振袖おこん、そして語りの主 天切り松。
江戸っ子がそろいもそろった安吉一家。義理に厚く人情にもろい。五常の徳性「仁・義・礼・智・信」をみごとに体現する粋でいなせな生きっぷり。
かつての日本人なら皆が共有していた義理や人情、現代では失われがちなその価値観を、あらためて見つめなおさせてくれる、そして、先の見えなくなりがちな世の中に、一本まっつぐなスジを通してくれる人生の指南書。そんな作品だ。
第一夜 闇の花道
天切り松が目細の安吉一家の一味になるエピソード。
世知辛い現世(うつつよ)にスジを忘れた仕立て屋銀次の子分達や、くたばりぞこねぇの松蔵の親父の生き方との対比で、目細の安吉の粋でいなせな生き方が鮮やかに浮かび上がる。
第二夜 槍の小輔
ゲンノマエの達人、振袖おこんの切ない恋物語。名脇役というか、ほとんど主人公、山県有朋。激動の時代を生き抜いて、日本の礎を築いた明治の大元勲。目細の安吉一家に勝るとも劣らないスジの入った生き方は、この作品の強烈なアクセントであり、振袖おこんの生き様を際立たせる絶妙な薬味でもある。
第三夜 百万坪の甍
主人公は天切り松の技の師匠、黄不動の栄治。
今は盗人一味、目細の安吉一家の一人だが、その実なんと大正財閥の御曹司。そんな栄治だが、何よりでえじなのは、実の父親よりも育ての親。世話になった人への恩を絶対に忘れない。そんな仁・義に富む黄不動の栄治の物語。ちゃきちゃきの江戸っ子根岸の棟梁の、本心とは裏腹な憎まれ口をたたく言葉が却って心にしみる。しかし、黄不動の栄治兄ぃは格好いい。
第四夜 白縫花魁
第五夜 衣文坂から
天切り松の実の姉、白縫太夫ことおさよのはかなくも美しい物語。
天切り松と吉原の妓楼の御曹司、康ちゃんとの友情もひとつのテーマではなかろうか。
とはいえ、メインはやはりおさよ。現代よりはるかに格差の大きかった大正時代、底辺に這いつくばりながらも必死に生きる庶民の生活、そんな暮らしの中でも決して忘れてはならないもの。現代の人たちが忘れている、義理や人情。あらためて痛感させられる一遍。寅兄ぃの粋っぷりが効いている。
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綻びだらけの登場人物も、粋を備えていりゃあ滅法格好いいわけだ。粋じゃないと虚仮にされるけど、人情のわからねえ奴は人でなしだと糾弾される。つまり何が大切で一生懸命生きていくかってこと。格好いい奴が格好いいのは仕方ないだろ。
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浅田次郎というと人情話みたいなイメージで実は避けてきた作家の一人でした。 しかし本屋で後ろ姿ばかりの表紙が気になり手にとって見ると任侠物? だったらパスかなと思いつつ解説を読む。なるほど年老いた盗人が語り部になって大正時代に見栄をはって生きた盗人家業の男達のエピソードでかなり痛快な話らしい。読んでみたらその通り、当時の貧しい者がどんな人生を送らねばならなかったかとか、警察と闇社会が折り合いをつけながら共存している様子なども面白く読めました。 語り部の松蔵じいさんの江戸弁がここちよく思わず口ぶりをまねてみたくなりますよ。『てぇした話じゃねぇがよお、気が向いたら読んでみておくんない!』みたいな感じ(笑)
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小悪党どもに、大正の世を騒がせた大泥棒・天切り松が刑務所で語って聞かせる物語集。短編〜中編で構成されているので読み易く、また文体が思わず声に出したくなるほどリズムが良い。とにかく粋。されてみたい説教ナンバー1。
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日本語が異常にうまいです。浅田さんの本の中ではベスト3にはいる本。浅田さんは悪党を書かせるほうがおもろいな。
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浅田次郎は、何故バッドエンドをこんなに冷たく、そして暖かく書けるのだろう。決して卑下したり、持ち上げたりしない。そこでは誰もが平等に描かれている気がする。要するに、浅田次郎は「優しい」作家だってことです。暖かい気分になりたい方、只のドロボウ物語に飽きてしまった方、是非ご一読を。
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【2006.02.17.Fri】
大正の時代に粋でいなせな盗賊一家がいた。「抜弁天」の大活躍が、唯一の生き残り天切り松の闇がたりによって鮮やかによみがえる。義理と人情。言葉にするのは簡単だが、それをしっかり胸に刻み生きるのはたやすくない。彼らがやってのける盗みは華麗であり、そして温かい。守りたい大切なものの為に彼らは今日も影となり、権威という魔物に忍び寄るのだ。松蔵にせよ、みなが己の運命とまっすぐに向き合っている。嘆くこともあろう、憂うこともあろう。しかし、それは変えがたき運命。たった1つの自分だけの運命なのである。過去を懐かしみながら語る全ての物語がなんとも言えない哀愁に満ちており、それがまた心に深く刻まれる。
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江戸っ子好き、ジジババ好きにはたまらないシリーズ。
時は明治。博打好きでろくでなしの親父から、スリの名人「目細の安吉」に預けられて育った松蔵が、平成の拘置所で半端な悪人に聞かせる闇がたり。
母は医者に見せられず病死、姉は吉原に売られ、学校にも行けなかった「天切り松」こと松蔵が、目細一家で愛情や人として守らなきゃいけねぇ心意気を学びながら成長する物語。
2007/3/5何度目かの再読了。