紙の本
靖国問題の全体像把握のために
2003/02/14 01:00
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スローロリス - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を多くの読者に推薦する理由を、以下の三点に分けて説明したい。
第一に、靖国問題の戦後史がコンパクトに整理され、まとめられている点である。戦後の靖国神社復権から、国家護持(靖国法案)をめぐる攻防、「公式参拝」論議、合祀問題や政教分離を問う数々の市民訴訟(01年には韓国人元軍人軍属の合祀拒否訴訟も始まった)、そして近年の国立追悼施設問題へ。戦後半世紀にわたる靖国問題の経緯が、七つの時代区分によって整理されている。当時の議論が豊富な資料を用いて紹介されているため、より詳しく問題を検討しようとする読者への道案内の役割も果たすだろう。靖国問題の全体像把握のために、格好の一冊となっている。
第二に、「靖国の思想」の問題点が、政教分離や合祀拒否の訴訟を問い戦ってきた多くの市民たちの姿を通じて浮き彫りにされている点である。彼らが周囲からの孤立や右翼からの脅迫に耐え、「靖国」に鋭い批判を突きつけ続けたのは、なぜだろうか。それを知ることが、靖国問題の本質を理解する重要な手段となることを本書は教えてくれる。なお、著者・田中伸尚には、箕面忠魂碑訴訟に関わる『反忠−神坂哲の72万字』をはじめ、こうした市民たちの思想と行動を取材したいくつかのルポがある。あわせて読むことで、問題のありかはより十分に明らかとなるだろう。
第三に、靖国問題を、政教分離原則という枠組のみでなく、「国家による戦没者追悼の是非」というより広い視野でとらえようとしている点である。なぜ国家は戦死者を追悼するのか、なぜ国家儀礼装置が必要なのか。田中は、この問いを抱えつつ本書を執筆したという。現在、国立の「非宗教」追悼施設の建設が議論されている。たしかに、新施設への首相参拝であれば、周辺諸国からの批判は避けられるだろう。しかし、「非宗教」的な追悼施設をつくれば、問題は解決するのだろうか。近年、日本も「普通の民主主義国家」として国際社会のなかで軍事的な役割を果たすべきだとの見解が目立つようになった。そこには当然、「新しい戦死者」の誕生が想定される。こうした時代状況のなかで「なぜ国家は戦死者を追悼するのか」という問いを検討することには、大きな意味があるだろう。本書は、その問いを考えるための、きわめて重要な視点を私たちに与えてくれる。
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国家が戦争で死んだ人々をまつらなくてどうするのだということばは一見常識に訴えるが、国家が死者を管理し、英霊化する意味をわれわれは考えてみなくてはならない。靖国をめぐる戦後の動きを丹念に追ったもの。
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終戦記念日が近づくと俄かに脚光を浴びる靖国問題である。本書は
終戦後のGHQの政策から小泉元首相の参拝までの靖国神社の歴史を追い、
国による死者の管理を問う。
靖国神社の廃止をいち早く唱えたのは石橋湛山だった。その時期、
終戦僅か2ヶ月後である。
戊辰戦争の天皇側の戦没者を祀ったことから始まった靖国神社は、
政教分離の原則にのっとれば戦後はそのあり方を変質させなくては
いけなかった。しかし、まるで時間が止まったかのように、明治時代
そのままの思考・あり様で現在まで来た。
国家が戦没者を「英霊」として祀るのは、国に殉じたとされた人々と
遺族をいつまでも「国家」という枠組みに縛りつける。
祭神として祀られている人たちのすべてが、喜んで死地に赴いた訳では
ないだろう。占領下・植民地下であった朝鮮・台湾・中国から、強制
連行され徴用された人も多くいるだろう。しかも、無理矢理「日本人」
とされてだ。
靖国神社にはそんな人々も合祀されており、遺族から合祀取り消しの
要望があっても一切応じない。
国に取られた命ではなかったか。国が奪った命ではなかったか。彼らは
国の犠牲者なのではないのか。その死を一宗教法人が遺族の承諾も
なく祭神にする権利はないだろう。
靖国神社への戦没者の合祀については旧厚生省が協力している時点で、
政教分離の原則は無視されているのではないだろうか。
本人が、遺族が、靖国に祀ってもらうこを望んだのであればそれはいい。
だが、少数かも知れぬが拒絶を示す人たちもいる。ならば、その人たちの
元で静かに眠らせてあげるのが「慰霊」なのではいだろうか。
明治は遠くに去り、大正は短く過ぎ、激動の昭和も終焉を迎え、平成も
20年以上が過ぎた。それでも、靖国は明治のままに存在している。
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[ 内容 ]
GHQの神道指令から小泉参拝にいたる半世紀、国家の靖国関与や了承なき合祀の動きが様々にくり返されるなかで、それに異議の声をあげ、裁判や言論の場で闘ってきた逞しい人びとがいた。
数々の事件を取材しながら、戦後日本が政教分離や戦争責任の問題にどう向き合ったのかを振り返り、国家による死者の管理に疑問を投げかける。
[ 目次 ]
はじめに
第1章 甦った靖国神社 1945~1951年
1 国家神道体制の解体
2 遺族会の誕生と靖国信仰
3 政と教
第二章 靖国問題のはじまり 1952~1958年
1 天皇の靖国
2 政治の靖国
3 民衆の靖国
4 国家の関わり
第三章 政治化された死者の記憶 1959~1968年
1 国家護持運動の序章
2 靖国神社の地位
3 市民からの問い
第四章 克服されざる過去の中で 1969~1974年
1 くりかえされる法案提出
2 不問の首相参拝、問われた合祀
3 強行された合祀
第五章 「公式参拝」路線の破綻 1975~1986年
1 「公式参拝」路線の登場
2 「A級戦犯」合祀問題
3 ひろがる民衆訴訟
4 「公式参拝」とその挫折
第六章 司法判断の「揺れ」の中で 1987~1998年
1 潰された心
2 岩手からの問い
3 僧侶の訴えと初の最高裁違憲判決
第七章 グローバル化の中での国家儀礼装置 1999年~
1 「新しい戦争」の死者をめぐって
2 韓国人遺族の訴えと小泉参拝
3 国立追悼施設の行方とナショナリズム
参考資料
表 主な信教の自由・政教分離訴訟と憲法判断
あとがき
主な参照文献・資料等一覧
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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戦後の靖国神社を取り巻く政府や地方、遺族らの関わりを記す一冊。
著者の思いが強く、メッセージ性があふれ出ている印象を受ける。
何が問題であり論点なのか、何が実際に起き、何を考えていたのかを
豊富な判例やインタビューをもとに解説し、
よりよく知れる内容は素晴らしい。
読んだ上で、自分の考えを改めてまとめたいと感じさせる。