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紙の本
ミステリー怪奇幻想派
2002/07/22 00:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:おちあいゆういち - この投稿者のレビュー一覧を見る
私も著者と同じく「幻想文学 第9号 怪奇幻想ミステリー」に強く触発された一人なので、本書で紹介されている作品については大きく頷き、或いは未読作品に興味を募らせたり、とても楽しいガイドブックとして読了しました。「ドグラ・マグラ」や「虚無への供物」や「魍魎の匣」といったメジャー作品だけでなく、あまり知られてない作品まで丹念にフォローしているのに感心。個人的には佐々木丸美「夢館」や森真沙子「青い灯の館」、皆川博子の「聖女の島」や井上雅彦「竹馬男の犯罪」なども紹介してくれているので嬉しかった。
今後、こういう切り口でミステリーを読み書きする層が増えると楽しいのだが。
紙の本
著者コメント
2002/07/01 20:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:千街晶之 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分の好きなテーマに関して、好き放題書いてみたい。そして、それを一冊の本のかたちに纏めて世に問うてみたい……というのは、批評家が誰しも抱く夢だと思う。私にとっては、このたび原書房から刊行されることになった『ロジカル・ナイトメア 怪奇幻想ミステリ150選』こそが、今のところその夢想に最も近い本である。
一般的にミステリは、幻想小説やホラーと対極的な文芸ジャンルであると思われている。前者は、あらゆる怪奇的現象を合理的に回収しなければならないし、後者においては、必ずしもその必要がないどころか、合理に対する非合理の勝利が描かれることの方が多い。
しかし実際には、幻想的、ホラー的な要素と論理性とを不可分なかたちで両立させたミステリの作例は少なくない。1937年にジョン・ディクスン・カーが発表した怪奇ミステリの古典『火刑法廷』などがその代表例と言えるだろう。特に、1990年代半ば以降、本格ミステリに伝奇的趣向を融合させた京極夏彦の登場、あるいは倉阪鬼一郎や田中啓文らホラー畑の作家のミステリ参入……といった現象が相次いだことは、ミステリ史の上でも注目に値する現象と言えるのではないだろうか。私はここ数年、そのあたりに対する興味を批評活動の主軸としてきた。
しかし、それらを総括したり、概説を試みたりした評論なりガイドブックなりは、まだ登場していない。ならば、自分でそれを書けばいいのではないだろうか……。そういう発想から生まれたのが、この『ロジカル・ナイトメア 怪奇幻想ミステリ150選』である。
この本では、合理と幻想とが対極に位置するものではなく、むしろ表裏一体のものであることを証明してみたかった。合理を極めた果てにこそ顕現し得る幻想もまた、存在するのではないだろうか。
物理的なトリックがかえって醸し出す現実離れした印象、謎解きの背後に流れる猟奇と耽美への根強い指向、狂気を母体とする異形の論理……。それらの幻想性はすべて、ミステリというジャンルにあらかじめ内在している要素を、歪なかたちで拡大したものでもあるのだ。
合理と幻想を二項対立と考える視点からは決して見えて来ない「異貌のミステリ史」を、是非とも繙いていただきたい。
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