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紙の本
もしかすると、広瀬はこういった誰が読んでも片手落ちとしか言いようのない論証をして、いわゆる進歩的な意見に日本の権力者が介入する機会を与えているのではないのだろうか
2004/11/03 23:05
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
相変わらずの広瀬節だが、今回は事件の記憶が生々しい上に、アフガン、イラクと戦争というよりは単純な仕返しをアメリカが行い、それに無節操な日本政府がヨイショしたおかげで、国民の命が失われるといった悪酔いしそうなことに発展した中東、その歴史の根源を見直そうというのだから、立派な心構えである。
広瀬は、まず、WTCの事件がテロではないということから説き始める。そして、アメリカのビン・ラディン犯人というあまりにも早い結論の出し方に疑問を抱く。さらに、アメリカをはじめとする白人社会からの一方的な情報をしか流そうとしないマスコミの姿勢を糾弾する。そのためにも、我が国であまり語られることの無い中東の歴史、特に20世紀のその地域の歴史と欧米の利害関係を描くことに勢力を注ぐ。
当初の一方的な報道や、被害者数の訂正で、事件の見方が変化していることは事実だが、では日本のメジャーなマスコミが中東の国々からの視点で物事を見始めたかというと、決してそうではない。むしろ中東のことは置き去りにしたまま、反米、反戦といった過去から一歩も出ていない論調に変わりつつあるといっていい。そのなかで、広瀬隆や船戸与一が中東の真実を、ということで発言し始めたことは歓迎するが、手放しで喜べるかというと、そうではない。現代史や今回の事件などを、原油という問題を無視して語れないことを理解できたことを感謝しながら、気になった点を書く。
まず、事件がテロではないという論証があいまいである。事件を戦争と定義することで、解決の糸口がつかめるという現実的な判断と、今回の事件がテロではないということは、全く関係ない話である。また、公平な立場といいながら、言葉遣いに善悪の判断を絡めるのはおかしい。たとえば、イギリスの発言は「うそぶく」とされ、反戦派の人々には「良識的な」の修飾語がついてくる。ビン・ラディンは「獅子」と形容される。根拠が示されるより先に、文章自体が色を帯びている。
論証の中途半端さは、たとえばイスラム系の銀行経営の話にもある。利子をとらない経営哲学は、バブルを引き起こした銀行などに対して立派だということは正しい。利子を取らない根底には、資金の流動化を促すという思想があることも分る。しかし、結局庶民が稼いだお金を、使わなければ損だと吐き出させるのは、果たしてそれほどまでに美しいことだろうか。しかも、そのイスラム系の銀行は、結局はその資金を海外に投資しているのである。投資のスタイルは殆ど欧米と変わらない。なぜ、同じことをする片方だけが悪となるのだろう。
今回の事件について、誤った判断が下される前に発言をしておきたい、軌道修正をしておきたいという広瀬を始とする人々の思いは良く分かるのである。だからこそ、それがいい加減であっては困るのである。またか、と肝心の部分に目が向けられないで却って誤解を助長させてしまうのは本意ではないはずである。重要なことがたくさん書かれている、それがわかるだけに惜しい気がする。せめて『燃料電池が世界を変える』のときの冷静さが欲しかった。
事実として挙げられる、事件と人名は夥しい。それが論旨を明確にするのではなく、却って全体を見えにくくし、証明が中途半端に終る原因となっている。これでは、学者先生たちが数字ばかりを羅列し、その数字の正しさを論旨の正しさに置き換える手法と同じではないか。せっかくの努力が無駄になるような文章である。
視点はいいし、言っていることも理解はできる。しかし、これでは却って今回の事件を見えなくしてしまう。パキスタンとインドの血で血を洗う紛争には全く宗教は関係しないとでも言うのだろうか。せっかく視点を広く持つなら、宗教や中国にも、もっとふみこんで語って欲しかった。
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