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紙の本

もはや「プロレスの見方」ではない

2003/09/06 09:42

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:魚籃坂 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 『上海ララバイ』から連なる氏の一連の自伝の最近作だ。『鎌倉のおばさん』でも切りが付かなかった部分(盗癖の終わりなど)が明らかになっている一方、氏の内部で区切りが付いた部分は軽く触れられているだけなので、初期作品から継続的に読んでいない人間には本作品で明らかになった部分が判りにくいかも知れない。
 しかし、『作家装い』で陽の目が出ただけでは満足せず、より深い原因を探って自分の納得がいくまで何度も書き直す氏の姿は、再度、芥川賞に挑まんとするかのようであり、その読者に媚びない一連の作品群は、まさにライフワークともいえる。人間は腑に落ちない仕事をしない自信を持てないということを感じさせる作品群だ。
 読者は直木賞受賞作に求めるものを、この作品に求めてはならない。

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紙の本

幼少期から祖父梢風の死までを綴った半生期

2002/10/31 22:15

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:安原顕 - この投稿者のレビュー一覧を見る

「三田文學」に連載した自伝である。ぼくは文芸誌「海」(中央公論社)で、彼と同僚だったので、本書に出てくる幾つかのエピソード、何度か聞いたことがある。また、名著『鎌倉のおばさん』でも教えられた。しかし本書で、「祖父村松梢風の死」までの通史を読むと、また異なった感慨がある。
 中央公論時代の彼は、「育ちのいいお坊っちゃん」との印象が濃く、「おめえは苦労を知らねえ、お坊っちゃんだからなあ」と批判めいたことを言うと、彼はムッとして「苦労すりゃあ、いいってもんでもないだろう」と答えていた。
 ところが『贋日記』を読むと、いわゆる苦労とは多少ニュアンスは違うが、順風満帆な少年期ではなかった。父友吾が上海で病没(腸チフス。27歳)。友視は母(20歳)の腹の中にいた。友吾を上海に行かせた祖父は責任を感じ、友視が生まれるとすぐ、母を再婚させ、友視を戸籍上、祖父の末っ子とした。祖父は著名な作家だが女たらし、妾(絹江=鎌倉のおばさん)と一緒に鎌倉に住み(叔父たちもここで暮らしたり、しばしば出入りもしていた)、友視は静岡県清水の梢風の本妻(祖母)宅で生活していた。その上、15歳の時、母親は生きており、友視の知人だと教えられる。大学からは東京での下宿生活を始め、夏休みに帰省すると、「ここはお前の帰ってくるところではない」と祖母に言われたりもする。
 ぼく自身、六歳の時、父が病没(38歳)、母はぼくと妹を連れて実家に出戻った。その家には、母の兄(次兄)の嫁と孫(内孫)も同居しており、われわれ兄妹は、何かと言えば「外孫」として差別的扱いを受けた。そういうこともあってか、ぼくは気の弱い子だったが、高校の頃からだろうか、このままでは生きていけぬと本能的に感じ、強気に転じ、今日に至っている。敗戦後に幼少期を過ごしたわれわれ世代(昭和14年、15年生まれ)はみな、何らかの意味で苦労を強いられて育っている者が多い。
 ぼく知る限り、編集者時代の村松友視は「CF」に出るなど信じられぬシャイな男だったが、その後、性格改善をしたのか、今日のようなキャラクターになった。二人とも還暦を過ぎてしまったが、彼は病知らず、超丈夫なので驚いている。

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