紙の本
蜘蛛が付く題名ですぐに思い浮かぶ小説といえば芥川の『蜘蛛の糸』、プイグの『蜘蛛女のキス』しかなかったけれど、今またひとつ増えました。
2011/09/11 11:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶにゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あなたが――蜘蛛だったのですね」
この冒頭の一行から引き込まれてしまった。いや、引きずり込まれてしまった、と言ったほうが正確か。
何に?
――蜘蛛に。哀しい宿命を負って生まれてきてしまった、美しい絡新婦の織りなす凄絶な物語に。
鳥山石燕描くところの妖怪絡新婦は、それ自体が蜘蛛の巣のような、そして長い髪を後ろに束ねて巧に糸を操る女のような姿をしていて、その操られた6本の糸の先にはそれぞれ6匹の小さな蜘蛛が、火を吹いて暴れている。この蜘蛛女は何をしようとしているのか。何を絡め取ろうとしているのか。
房総半島の漁村近くに建つ、ミッション系の女子校とその創立者の邸を主要舞台に、黒魔術や、カバラ、売春、女性解放、ジェンダーフリーなど、様々な糸が絡まりながら、次々と殺人がおこなわれてゆく。謎を解く「黒衣の拝み屋」京極堂は、いつにも増して、哀しげである。探偵榎木津は、いつもよりちょっぴり活躍して、京極堂に珍しがられていたが、悲劇を未然に防ぐことは叶わない。いちど蜘蛛の巣に捕らわれた者は、最早逃れることはできぬのだろうか。
最後まで読み通すと、必ず、冒頭に戻って読み返したくなる。見事、としか言いようがない。
京極堂のこのシリーズは、娘に借りて読んでいる。
「ありがとう、面白かったよ」と言ってこの分厚いサイコロ本を返すと、「でしょう?」と、嬉しそうな顔をした。そして自分の部屋からまた本を持ってきて、「ハイ、次、これ」と僕に手渡した。――『塗仏の宴 宴の支度』
「最高傑作なんだから」と言ってニカリと笑ったその顔が、
絡新婦に見えた。
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あまりにも人物がたくさん出ていて、それぞれの関係が複雑なので、メモを取りながら読んだ
2022/01/09 19:49
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
長い長い小説である。関係が無いと思われる事件が並行して描かれる。京極夏彦得意の展開だ。これは京極堂シリーズの5作目だが、前の四作にところどころ繋がっていたりする。特に前の作品を読んでいなくても大丈夫だが、出来たら読んでいたほうがいい。あまりにも人物がたくさん出ていて、それぞれの関係が複雑なので、メモを取りながら読んだ。大作である。
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桜の季節になると思い出す一冊
2019/06/30 15:20
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投稿者:へもへものへじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリーとしても一級品ですが、このシリーズ特有の薀蓄も素晴らしかったです。
特にフェミニズムに対する考察は、今の世にも通じるものがある様な気がします。
ちなみに、本作品に登場した女の子と京極堂の妹・中禅寺敦子が主役のスピンオフシリーズが刊行されておりますので、よろしければそちらもチェックしてみてください。
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からくり三昧
2003/01/08 12:16
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投稿者:紅桜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
京極作品中、一番からくりにあふれた作品だったと思う。文章の巧みさという点においてなら文庫化したシリーズ一だと推薦するが、これはシリーズの前作品達を読んでいないとからくりの面白さが半減してしまうだろう。
物語は結末から始まる。
桜の舞い落ちるなか、女と黒衣の男が立っている。
二人の会話には、哀しさがあふれている。
からくりをうみだした女と、からくりの中へあえて入り込んだ黒衣の男。
自分の居場所を得るためのからくりは、女に彼女自身想像し得なかったほどの哀しさを残して解き明かされた。
最初はばらばらにスタートした幾数個の事件。
刑事が関わり、探偵が関わり、元刑事が関わり、記者が関わり、小説家が関わり、
黒衣の男が関わり……。
そして過去幾多の事件が関わって物語は展開される…。
こんな風にかかわるから過去の京極作品をもう一度読み直したりしていると、もうその世界にどっぷりとつかってしまうのだ。
この作品はできるだけ、過去のシリーズを読んでから読むことをお勧めする。
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淫売宿のような宿屋で緋色の長襦袢を纏った女性が両目を抉られて殺害された。木場はその犯行手口から『目潰し魔』と呼ばれる平野祐吉だと感じた。平野は既に同様の手口で3人の女性を殺害しており、未だにその行方は杳としてつかめない。宿屋の主・マキより事情徴収した木場は、その証言と現場からこっそり持ち出した黒眼鏡からこの事件に友人・川島新造が絡んでるのでは無いかと疑念を抱く。
基督教系の全寮制女学校に通う呉美由紀は渡辺小夜子が話す『黒い聖母の噂』を馬鹿馬鹿しく思いつつ聞いていた。満月の夜に石版の上である儀式をすれば呪いは成就するという。そして教師の山本はこの呪いにかかり目潰し魔に両目を抉られて殺されたのだと。呪いの真偽はどうあれ、小夜子にはどうしても殺したい人物がいる事を知っている美由紀はその儀式を知ると思われる麻田夕子に会いに行く。夕子は売春グループの1人では無いかとも噂されている人物でもあった。
織作雄之介の弔いを傍観しつつ伊佐間は、呉仁吉から織作家の話を聞く。千葉に釣に来ていた伊佐間は仁吉の家に居候をしていたのだった。近々小金が必要だから処分をすると言った仁吉の蒐集を見た彼は、その中に仏像のようなものを見る。一宿一飯の恩義を感じた彼は少しでも高く処分出来るようにと古物商の今川を呼び寄せていた。古物商が来る事を知った仁吉の友人でもある出門耕作は織作家へ来て処分を試みている品物を見て欲しいと言う。彼は、織作家の使用人であり、また織作家の次女・茜の夫である是亮の父親でもあった。翌朝、伊佐間と今川は蜘蛛の巣館と呼ばれる織作家へ赴いた。
↑粗筋かなり端折ってます。(纏められねぇーよ。内容濃すぎて)
でもって、今回はいきなりネタバレで行きます。
まぁ、このネタバレはバラしても良い感じではありますが(そんなネタバレあるんかい)……。
【この小説は、本章の始まりである1ページの1行目に犯人が書かれてます。とは言っても固有名詞は出てませんが(それは当たり前)。
推理小説は後ろから読むなという禁忌をものの見事にぶち破った構成に思わず笑いました。というか吃驚しすぎて笑いしか出なかったという。残り1373頁どうするんだよ。みたいな(笑)
なんとも奇想天外な始まりであります。恐れ入りました。】
ここからは本格的にネタバレ突入します↓
【犯人看破は私の場合はどこら辺りだろう……最初の方で伊佐間と今川が織作家に赴いた時点で絞って、一旦そこで冒頭の桜舞う場面でのやりとりを読み直して確信かな。でもまぁ大体見当付きますよね(笑)
とは言うものの、犯人が判ったから面白く無いわけでは無いです。相変わらず込み入ってて面白い。ぐいぐいと読ませますねぇ。流石だ。
今までのシリーズから比べると不思議な感覚を感じた、というイメージがあります。
内容は当然の事ながら、今までの作品は京極堂だけが犯人を知っていて、読者は後から知るという方程式があったが、これに関しては読者が先に知っていて京極堂がどうやって知っていくか。という逆転の要素があるから。つまり京極堂には蜘蛛は見えないが、蜘蛛の巣��見えてる。読者は蜘蛛は見えてるが蜘蛛の巣は見えてない。そのくせ蜘蛛を二転、三転させる仕掛けはちゃんと施してる。地面が揺らいでるという様な、なんとも妙な感覚――ふむ。折角だから地面ではなく、空中に張った蜘蛛の糸の上にいる感覚と言い直した方が良いですかね(笑)
まぁ、これは読者が私だからこういう感覚を感じたのかも。ちゃんと見切ってる人もいるだろうから一概には言えませんね(笑)
両性具有についてはデコライズ(デコラティブか?)感はあったが、これは杉浦との絡みを際立てる為にやはり必要なのかな。表面だけなぞると妙にゴテゴテ感はあるんだけど(笑)
「(略)敵は――事件の作者だ。君達は登場人物だ。登場人物が作者を指弾することは出来ないぞ」という榎木津の台詞。
小説内の主人公が発した台詞ですから、これは小説内の犯人を指してるわけですが、榎木津は読み手の記憶も垣間見たのかも。と。
あるいみ、蜘蛛――大蜘蛛というか親蜘蛛は京極夏彦ですからねぇ。それに榎木津は神でもあるわけだし。
などとこの台詞は、ちょっと遊び心を出して読んでみたり(笑)
本編の了の文字を読んだ瞬間、冒頭に速攻で走りました。
でなきゃ、最初の会話の意味が理解出来なかったもんで(笑)で、やっと納得ですね。まぁこの二人の会話は誰と誰かは言わずもがな。
で、この部分を再度読んで、初めて物悲しいと感じた。
張った仕掛けによって発動した事象がドミノよろしく悉く連鎖して行ったものの(それが計画的に行われているものだとずっと読み手は思い込まされいた)、仕掛けた本人は実際にはそこまで読みきれず、それを回避する手立てが無かった――なんかやりきれない感じ。
別の方向から見れば、あれだけ気を持たせて結局偶然かよ呆れ、という感じに普通はなるのだが、居場所を求め続け、その為に仕掛けた者がその仕掛けの中には居なかった。という空虚。
この空虚と無力(=回避出来ない)の悲しさがあるから偶然を羅列した物語を安直あるいは短絡的に否定出来なくしてるんだよな。結果、物悲しいと思っちゃう。それにこの人は孤独と罪の意識に絡め取られて生きてゆくんだし。ちとやそっとじゃあこの網からは逃れられない――いや、これはこの人が自らが張ったもの。そしてその網に鎮座する場所は当然、真ん中以外には無い。故に絡新婦。誠にもって理にかなってます。
確かにこれは私の勝手な読みなのだが、こういった読みをさせるというここら辺りは巧みだと物凄く感じる部分ですね。
で、全容を知り、そしてまたこの人の覚悟を知った時の京極堂の言葉。聞き手がそういった(人道主義)毒に侵されているからそう聞えるんだと言い切られても、この時発したのは、やはりとても優しい呪だと思わずにはいられない。誤解でもエゴでもいいです。勝手にそういう人だと思い込んでおきます(笑)
あと読み返したのは、1〜5章までの各章の終わり毎に挿入されている場面。
1章:川島新造/前島八千代
2章:杉浦隆夫/碧
3章:平野祐吉/葵
4章:石田芳江/雄之介
5章:川島喜市/茜
と思いますが、如何でしょうか(誰に聞いてる���だか)
そういえば、関口出てこないなぁ。と、ずーーっと思ってたが、やっぱりちゃんと登場してましたね。事件に直接絡んでなくて良かったです。立て続けだとこの人、本当に逝きそうだもの(余計なお世話か:笑)
おおお!そうだった。忘れるところでした。これって姑獲鳥にもちくっと絡んでるんですよね。
すげーよな。人物といい、事件といい絶妙にリンクさせますよねぇ。
でもって、織作家の娘の名前。みんな色目じゃん(紫・茜・葵・碧)。やっぱ機織から来てるんですかね。むーん。なんとも憎い筆さばき。】
七夕伝説と織作家の絡み方はとても面白かったです。京極堂は小説内だけじゃなく読み手の憑き物まで落としますね(笑)
この世は本当に曖昧な蜃気楼のようなものの上に建ってる感じがします。
今回は京極堂が激する場面が多かったような気が――
「僕にどうしても全部落とせと云うのかッ!」とか
「そう云う仕掛けかッ!」とか
「(略)貴様からなど何も落としてやるものか!(略)」とか。
――某シーン絡みばっかだ。こりゃあ思い込みだな(笑)
あとは、駒と判って赴かざるを得ないというのがちょっと切なかったり。
切ないちゃー木場も切ないなぁ。
まぁ、全体的に切なさ感はある話だけど。でもって桜吹雪がまた良い背景だ(しみじみ)
あー。そういえば榎木津。京極堂にも指摘されてましたが、珍しく働いてましたね!
やっぱりこの男いいなぁ。榎木津ラブ。
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他の作品と比べて、何処か夢想的な雰囲気を感じる作品。
美人姉妹が出てくる辺りが、これぞ推理小説な感じが、ひしひしとします。
感情描写だけでなく、京極は情景描写だって完璧だぜと思わせる、桜のシーンが見物かと。
とりあえず碧が可愛そうでならないんだ!
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京極堂シリーズ第五弾「絡新婦の理」理に巣喰うは最強の敵――。京極堂、桜の森に佇つ。
八方に張り巡らされた蜘蛛の巣の中心に陣取るのは誰だ?
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この作品は、犯人と京極堂の対峙するシーンから始まる。そこから時間が巻き戻り、異なった場所で起こる連続殺人事件を各々の事件における“主役”からの視点で描く。その2つの連続殺人事件と、まるで関係ないかのような登場人物たちの動きが、真犯人の張った“蜘蛛の巣”の上に乗っていることが分かり、やがてひとつの事件として収束していく。前作ではまったく登場しなかった刑事の木場が物語の主役の一角を担い、前作で出た刑事の益田が探偵に弟子入りし、京極堂の“憑物落とし”は都合4回行われる。そして、テーマは「昭和初期の日本における女性の社会的な位置」に設定されている。とはいっても、物語に必然性があるように絡めてあるので馴染みの無い方もある程度理解できるように配慮されている
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読んでて手首を捻りそう、作者にまでそう公認されたぶっとい本ですが、中身も同様に分厚く。京極堂の語る薀蓄がそれ自体が一冊の研究書にもなるのではといつも思います。
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京極堂の薀蓄が少々大人しい所為か、厚みの割りには読みやすい内容。脇役にまでしっかり味付けされているので、登場人物が多くても、物語が長くても混乱することはない。張り巡らされた蜘蛛の巣を辿るミステリ。躊躇せずに読むべし!
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誰が「蜘蛛」なのか。
最初から最後まで、その謎が頭から離れず、一気に読み終えた。
「蜘蛛」の正体は、ラストに近づくにつれ、薄々怪しく思い始めていた意外性の薄い人物だったけれど、それでも十分面白かった!!
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洋館とそこでクラス少女の通う全寮制ミッション系女学校の2つが事件の舞台。
過去のドロドロと現在のドロドロが混じりあった沼のような結末。
美人4姉妹の1人葵さんがとてもお気に入りです。
事件に巻き込まれる女学生の1人呉美由紀がこれからどんな大人になるのかも楽しみ。
ストーリー展開から塗仏の宴を読む前に、読むべき。
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京極堂シリーズ第5弾。第5弾にして、今までのシリーズの(この時点で生きてる)キーパーソン総出演。
面白かった!桜の描写や、目潰し魔が出て来るシーンの描写など、本を読んでいるのに映像がスローモーションになったり、疾走したり、そういうのがビビッドに想像できた。そして、話の構成が今までのシリーズと全然違っていて、冒頭であの展開&ラストで京極堂のあの一言。結局、読者も蜘蛛の巣の中に取り込まれており、横糸に沿って歩き、縦糸にぶつかるたびにいろんなシーンを見て、結局最後は最初の場所に戻ってしまう。本を読んでる人間も体感してしまうことになった。お見事。
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それは蜘蛛と性、そして悲しみに満ちた4人の女達の物語――。
京極シリーズ第五弾!
一番好きな巻かもしれません。織作の女性たちの一人ひとりに涙が止まりませんでした・・・。世の中の無常を感じずにはいられない一冊です。
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女子学生の碧が語り手となるところなどは学園もののようで新鮮だったし、エスパー榎木津の活躍の場面も多く楽しかったが、あとはこれまでのシリーズどおりか。