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レビューというほどのものではないです.
ざっくりした感想.
『見なれぬ顔』
戦後の動乱期にあって,力強く(狡猾に?)生き抜く人々.
加東志麻夫は,ひょんなことから映画会社に就職するわけだが…….
私としては,ルージュ・シマ等のモティーフが,些か通俗にすぎるかなという.
『真赤な子犬』
解説の通り,当時の流行を一笑に付すかのように色々な遊びがみられる.
警備員兼ニセ三渡大臣,山東老人が気に入った.
三渡も山東もサント(ウ)と読め,五ツ木守男が最後の晩餐に用いた毒もサントニン…….
あれ,これも解説に書かれていたっけな.
『内部の真実』
これは,誰が苫を撃ったかを考えるというよりも,その世界観に見るべきものがあると感じる.
闇夜に浮かび上がるかのような玉蘭(キエクラヌ)の印象が頭にまとわりついて離れない.
恒子さんの描写など,日影のフランス文学への造詣も散見する.
『非常階段』
少し犯人の導き方が不当な気がしないでもないが,それは些末なことだろう.
金ぴかの玄関をもつビルには,碌々顧みられることもない非常階段が存在する.
非常階段は,都会の隅に蠢く怪物であるかのように,二戸の死体を飲み込み,そして吐き出した.その様子を思うと少しうそ寒くなる.
『応家の人々』
応氏珊希(サンの字が違うかもしれない)という黒衣夫人の周りで,死んでいく男たち.
久我中尉は,ある事件を調べるよう命じられ,その調査に奔走するわけだが,
道中の廟の描写など,随所に作家の才覚が表れる.
暑さに沈む街の,くたびれた氷屋などは,眼前に店が現出するかのようだ.
私個人の考えでは,日影丈吉は短編や幻想小説を書かせたら最高の作家なんだけど,
長編はものによってはだれてくる感じがしないでもない.
しかし,本集中にある『内部の真実』『応家の人々』のような,台湾を舞台にとった長編も好きなのよね~.
まあ,何が言いたいかというと,結局日影丈吉が好きということなんだけど.