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紙の本
七冠フィーバーを千駄ヶ谷村の住民たちはどう思っていたのか
2003/02/15 21:17
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投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
「七冠狂騒曲(下)」というサブタイトルが付いている本書では羽生善治が七冠制覇を達成するまでの軌跡が描かれている、と言いたいところだが、実際には羽生の将棋を取り上げているページは少なく、いつもどおりの千駄ヶ谷村の住民たち(棋士)の普通の日常描写のほうが多い。
羽生の将棋は「将棋世界」のトップ記事で取り上げられることが多く、いちコーナーの「対局日誌」では重複を避けていたということもあるだろう。ただし、羽生の七冠フィーバーを他の棋士たちがどう思っていたのか、著者は豊富なエピソードでそれを伝えてくれる。当時を懐かしく思いだしながら、「へえ、そうだったのか」と思うことしきりだった。
世間の熱狂をよそに、当の棋士たちは思いのほか冷めていたようだが、とはいってもやはりそれなりに気にはなっているし、明るい気持ちになっている。例えば、午後の勝負時には珍しい内藤の対局中の雑談から。
「そやけど、まあ、なんであんなに勝つんやろな」。内藤さんも椅子に座った。「将棋は多少力が違っても、たまには弱いもんが勝つ。それが将棋というもんやろ。倍層、三倍層いうて、大駒違うもんが平手で指しても、三番に一番、四番に一番は入るもんや。それがあの勝ちっぷりは信じられんわ」。そういえば、米長も、羽生は大駒一枚強いと書いていた。(中略)結局、内藤の「勢いやろな」でいちおう話が終わった。
大崎善生と言えば、『聖の青春』で有名になり、今は専業作家になっているが、当時は「将棋世界」の編集長をしていた。そんな彼も七冠フィーバーで浮かれていた一人だ。この一節を読んでいるとなんだかこっちにまで当時の熱狂ぶりが伝わってくる。
快挙を記念して「将棋世界」臨時増刊号を出すことになり、中にエッセイを十数編載せる計画を立てた。大崎編集長は、このときとばかり、文豪、世の知名人に原稿を依頼した。すると、びっくりするような人から次々と「諾」の返事が来た。大崎君はすっかり舞い上がり、「こうなったら、絶対に書いてもらえないような人の原稿をもらって、文春を驚かせてやるんだ」とか言い、文芸手帳をめくっている。
小冊子「名人論」は、十四世名人木村義雄の巻。「ここまで伝説みたいなことを書いてきたが、ようやくこの眼で見た名棋士を描くところまで来た。木村は阪田三吉、升田幸三とともに、エピソードや愉快なゴシップが多い。それを多く紹介し、堅苦しくない名人論とした」と著者も書いているとおり、今までで一番読み物として面白い「名人論」となっている。
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